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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第3章 食料不足シードと料理人クラス

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歯のあるパンをパン扱いしてはいけません

食料庫ダンジョン突入です。

パンっぽいものが出ます。

歯があったら、それは敵です。

 翌朝、わたしはパン屋の前で腕まくりをした。


「今日は、食料庫を調べる」

「勇者様、その前に朝食です」

「えらい。ログルが朝ごはんをすすめてくれる」

「満腹度が43まで落ちています」

「数字の都合だった!」


 ミーナは、昨日の残りスープを温めてくれた。


 飲む。

 まだ少し土っぽい。

 でも昨日より、ちゃんと食べ物の味がした。


「おいしい?」

 ミーナに聞かれて、わたしは少し迷った。


「生きる味がする」

「大げさだねえ」

「この世界だと、けっこうそのままの意味!」


 ミーナは笑い、わたしの前に古いパン切りナイフを置いた。


「食料庫に行くなら、これを持っていきな」

「いいの?」

「パンを切るものだけど、今はパンがないからね」

「悲しい理由で武器が来た!」


 刃は短い。

 戦うための短剣より弱そうだ。

 でも、食材を切るにはちょうどいい。


【仮鑑定】

名称:【ミーナのパン切りナイフ】

分類:調理道具/短刃

戦闘性能:低

食材処理補正:微

縁反応:微弱


「縁反応?」

「まだ不明です」

「ログルが不明って言う時、だいたい後で大事なやつ」

「否定できません」


 わたしはナイフを腰に差した。


 今日の目的は、大きな敵を倒すことじゃない。

 食べられるものを、見つけることだ。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 村の食料庫は、パン屋の裏手にある地下階段の先だった。


 扉の前に立つと、冷たい空気が足元をなでた。

 ログルが肩の上で耳を伏せる。


「勇者様。食料反応と魔物反応が混ざっています」

「また食材か敵か分からないやつ」

「さらに、満腹度吸収の反応もあります」

「お腹を空かせてくるダンジョン!?」

「今回のシードらしい性格です」

「性格が悪い!」


 扉を開ける。


 中は地下の貯蔵庫だった。

 本来なら麦袋や干し肉や野菜の箱が並んでいるはずの場所。

 でも、今は袋が破れ、木箱は空で、床には見慣れない蔓が這っていた。


 一歩入ると、視界に薄いマス目が浮かぶ。


 危険地帯。

 一手一動。


 床の蔓が、わたしの動きに合わせて少しだけ揺れた。


「ログル、蔓」

「踏むと満腹度を吸われる可能性があります」

「お腹の中身を吸う床、やだ!」

「左前方に安全そうなマスがあります」

「安全そう?」

「このシードで断言は危険です」

「ほんと信用できる床がない!」


 わたしは左前に一歩。

 蔓が揺れる。

 奥の箱が、ごとりと動いた。


「箱が動いた」

「宝箱ではありません」

「じゃあ安心?」

「食料箱ミミックの可能性があります」

「ミミック警戒がパン屋でも活躍するの嫌すぎる!」


 箱が、ぱかっと開いた。


 中から出てきたのは、丸いパンのような魔物だった。

 表面はこんがりしている。

 口がある。

 歯もある。


「パン!?」

「パン型魔物です」

「パン屋の敵!」

「食べる側か、食べられる側か、確認が必要です」

「確認方法が怖い!」


 パン型魔物が一マス近づく。

 わたしはパン切りナイフを抜いた。


 でも、焼きたてみたいな匂いがした。

 お腹が鳴る。


「ログル。ちょっとだけなら」

「やめてください」

「でも、パンだよ?」

「歯があります」

「外だけちょっと」

「勇者様」


 わたしは、ほんの少しだけかじった。


 パンが、噛み返した。


「パンが噛み返したああああああああああああああ!?」


 痛い。

 びっくりした。

 なにより、パンに負けたという事実が心に痛い。


 パン型魔物が一マス近づく。

 わたしは下がろうとしたが、足元の蔓を踏んだ。


 満腹度が吸われる。

 足が止まる。

 パンが跳ねる。


「歯のあるパンは敵! 今覚えた! 今覚えたから待ってえええええええええ!」


 視界が、白く弾けた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】


死亡回数:21回目

死因:【歯のあるパンをパン扱いしてかじった】

評価:【歯がある時点で敵です】

新規獲得:【食べて識別 Lv.1】


 白い拠点で、わたしは床に突っ伏していた。


「ログル」

「はい」

「パンに噛まれた」

「はい」

「パンって噛む側だっけ?」

「通常は噛まれる側です」

「だよねえええええ!」


 リュシアが厨房から顔を出し、笑いをこらえながら果実水をくれた。


「ちび勇者ちゃん、パンに負けたの?」

「負けてない! 食べようとしたら反撃された!」

「それは負けたって言うのよ」

「リュシアさんまで!」


 ログルは死因図鑑を開く。


【パン型魔物】

外皮:危険

中身:可食可能性あり

判定:【切り分け推奨】

禁止:【かじる】


「禁止がわたし専用!」

「はい」

「だから否定して!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 再挑戦では、かじらなかった。


 パン型魔物が出てきた瞬間、わたしはナイフを構える。


「歯のあるパンは敵! でも中身は食べられるかもしれない!」

「正しいです」

「食べる前に切る!」


 パン型魔物が近づく。

 わたしは鍋のふたで噛みつきを受けた。

 HPは削れない。

 でも満腹度が2減る。


「噛まれてないのにお腹減った!」

「満腹度吸収攻撃です」

「パンなのに食べる側!」


 わたしは一歩下がり、蔓のないマスへ移動した。

 パン型魔物が追ってくる。

 その進路に、昨日拾った眠り草の切れ端を置く。


 置くのに1ターン。

 パン型魔物が一歩。

 次のターン、魔物が眠り草を踏む。


 パンが、すやっと寝た。


「パンが寝た!」

「今です」

「ごめん、食料庫の平和のため!」


 わたしはパン切りナイフで外皮をはがし、中身だけを切り分けた。


【食べて識別 Lv.1 発動】

少量確認:満腹度微回復

副作用:なし

味:悔しいがパンに近い


「悔しいがパンに近いって何!?」

「勇者様の感想を反映しました」

「ログに私情を入れないで!」


 食料庫から戻ると、ミーナは目を丸くした。


「これ、食べられるのかい?」

「歯のあるパンの中身」

「説明が嫌だねえ」

「わたしも嫌!」


 それでもミーナは、嫌な顔をせずに受け取った。

 外皮を捨て、中身を薄く切り、スープに入れる。


 村の子供が、店の入口からのぞいていた。


「勇者ちゃん、これ、パン?」

「パンっぽいもの」

「食べられる?」

「食べられるところだけ」


 子供は真剣な顔でうなずいた。


 ミーナが椀を渡す。

 子供が一口飲む。


 少しだけ、笑った。


 その瞬間、胸の中がきゅっとなった。


 魔王を倒したわけじゃない。

 世界を救ったわけでもない。

 ただ、空腹の子にスープを渡しただけ。


 でも、これをなかったことにしたくないと思った。


【思い出ログ反応】

対象:ミーナ

内容:食べさせてくれた人

因子候補:【縁】


「ログル。今、何か見えた」

「はい。帰還因子に関係する可能性があります」

「帰るために、食べさせてもらった記憶が必要なの?」

「分かりません。ただ、勇者様が帰りたい場所を思う時、誰かとの縁は無視できないのだと思います」

「......そっか」


 この世界はリセットされる。

 この子も、ミーナも、次は違うかもしれない。


 でも、今ここで湯気が上がっている。

 そのことは、たぶん消しちゃいけない。


「ミーナおばちゃん」

「なんだい?」

「このスープ、名前つけてもいい?」

「勇者ちゃんの好きにしな」

「じゃあ、縁のスープ」

「大げさだねえ」

「うん。でも、忘れたくないから」


 鍋の中で、まずいけど温かいスープが、ことこと鳴った。


【今回の死亡ログ】


死亡時レベル:Lv1

死亡時HP:0/15

死亡時満腹度:39/100

今回の死因:【歯のあるパンをパン扱いしてかじった】

評価:【歯がある時点で敵です】

新規獲得:【食べて識別 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】


現在シード:シード012

次回開始:Lv1/HP15

死亡回数:21回

クラス:料理人候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】


【恐怖耐性 Lv.1】

【危険察知 Lv.2】

【足元確認 Lv.2】

【未識別警戒 Lv.3】

【ミミック警戒 Lv.1】

【食材識別 Lv.2】

【非常食変換 Lv.1】

【満腹度節約 Lv.1】

【スープ回復 Lv.1】

【レシピ記録 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【食べて識別 Lv.1】

思い出ログ反応:【ミーナ】

帰還因子候補:【縁】初期反応


【登場人物紹介】


ミーナ:パンがなくても、誰かに食べさせることをやめないパン屋のおばちゃん。

コヨリ:歯のあるパンを一度かじって死に、二度目は切り分けた幼女勇者。

ログル:禁止事項をどんどん増やす解析神獣。


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