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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第23章 千回死亡条件――死ぬのは、わたしじゃない

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千回カウンターが勝手に増える

黒い数字が、死んでいないコヨリの回数を勝手に進めようとする。

千回死亡条件の正体を探る、最初の札が噛みつく。


 黒い千回カウンターは、朝の白い拠点(きょてん)に似合わないほど黒く沈んでいた。コヨリは椅子の背を両手でつかみ、まず足元を見た。そこに赤いマス目が出ていないことを確認してから、ようやく顔を上げる。


 数字の端が黒い水みたいに揺れ、【850】の右下に小さな【851】が生えかけている。死んでいないのに数が増えようとする様子は、階段前の宝箱よりずっと腹が立った。


 ログルは壁から二マス離れた位置で宝石を床へ向け、ネムは受付票を胸に抱いたまま判子を隠した。数字は敵の形をしていない。だからこそ厄介だった。剣で斬る相手なら分かりやすいのに、これは「表示です」という顔で壁に貼りつき、コヨリが瞬きするたびに一つ先の死を予約しようとしてくる。


「ログル。わたし、今、死んでないよね」

「はい。現在HP15、満腹度も残っています。死亡判定が入る生活状況ではありません」

「生活状況で死亡判定って言い方がもう嫌。でも、数字が増えようとしてる」

「受付番号だけ先に出てる。ぼくも嫌いなやつ」

「死神が嫌いなら、かなり悪質だね」


 相談は短い確認だけでは済まなかった。黒い数字は、敵のターンに合わせて動く魔物ではなく、コヨリが生きている時間を横から勝手に数え直す装置だったからだ。ログルは宝石に映る線を一本ずつ消し、ネムは受付前の票と受付後の票を分ける。コヨリはその間、袖口を握りしめていた。怖いのは噛まれることより、死んでいない自分を紙の上だけで死者にされることだった。


 小石を投げれば反応は取れる。けれど、投げた事実まで「死亡回数確認のための行動」として食われるかもしれない。コヨリは小石袋をいったん床に置かず、代わりに白紙巻物の端を少しだけ破いた。破片なら、道具使用ではなく目印に近い。ログルは首を傾げたが、止めはしなかった。


「ログル、叩くの禁止。ネム、判子も禁止。わたしは叫ぶの禁止」

「最後が一番難しそうです」

「分かってるから先に言うの! 口が勝手に神様ァって開くんだよ!」

「開いた瞬間、抗議扱いの可能性があります」

「口、封印!」

 コヨリは両手で自分の頬を押さえた。ネムが小さく『えらい』と言ったので、少しだけ元気が出た。


 数字を止める一手は、怒鳴ることでも殴ることでもなかった。コヨリは、数字の右下に生えかけた【851】の根元へ紙片を滑らせる。そこには、神様側から伸びる白い線が一本だけ混じっていた。数字の形をした敵ではない。数字を増やす命令が、壁を借りて顔を出している。そう分かった瞬間、腹立たしさは少しだけ攻略対象の形になった。


 コヨリは息を止め、紙片を貼った。行動判定が入る。壁のマス目が一斉に青から赤へ変わり、数字の縁に細かい歯が並んだ。


 紙片は命令線に絡んだ。ほんの一拍、【851】の増殖が遅れる。ログルが「今です」と言いかけた時、数字のほうが先に動いた。表示板だと思っていた黒い枠が口を開き、壁ごとこちらへ倒れてくる。


 噛まれた感触は、獣の牙より冷たかった。肉を食うのではなく、回数だけを切り取るための歯だ。コヨリは痛いより先に「それ、わたしの数字!」と叫び、叫んだ声が壁に吸われたところで視界が白く抜けた。


【死亡ログ】

【死因:死亡回数カウンターに噛まれた】

【評価:数字もミミックでした】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 白い椅子に戻った時、コヨリは反射で自分の腕を触った。体はある。息もしている。けれど、壁の端に残った黒い歯形だけが、さっきの死を勝手な処理ではなく現実にあったこととして残していた。笑える死因名をつけたい気持ちと、笑いだけで済ませたくない気持ちが、胸の中でぶつかった。


「残ったもの、見る?」

「見る。見ないと、また勝手に数えられる」

「死亡条件の表面だけ読めています。深部はまだ危険です」

「表面だけでも十分。次に噛んできたら、歯の本数くらい数えてやる」

「そこは逃げてください」

「逃げる。数えながら逃げる」


 反省会テーブルには、数字の欠片を入れた小瓶と、ネムが押さなかった受付票が並んだ。コヨリは札の名前をすぐに決めず、しばらく瓶を転がしてから、ようやく太い字で書く。


【死亡条件識別 Lv.1】


 【死亡条件(しぼうじょうけん)識別 Lv.1】は死因図鑑室の棚ではなく、千回カウンター監視台の横に置いた。死因として笑うより先に、次に数字が増えようとした瞬間を見張る必要があったからだ。ログルは宝石を近づけ、ネムは判子を逆さまに伏せた。


 数字札の破片は、黒い砂になってもまだ数を数えようとした。コヨリはそれを小瓶に入れ、瓶のふたへ【勝手に増えるな】と書く。ログルは『感情的ですが、分類名として有効です』と言った。コヨリは少しだけ胸を張った。


 ネムは、仮受付票を一枚ずつ広げた。票の端には、まだ押されていない黒い判子の跡がある。死んだあとなら、それはただの手続きだ。けれど今は、手続きが現実を追い越している。コヨリは指先で票の角を押さえた。紙は冷たい。死亡した記憶の冷たさではなく、誰かが机の向こうで勝手に決めた冷たさだった。

「ネム。これ、受付したら本当に死んだことになる?」

「たぶん、なる。だから押さない」

「でも、押さなくても数字は増えようとしてる」

「だから嫌い」

 短い返事だったが、そこには死神としての線引きがあった。死んだものを扱うことと、死んでいないものを死に変えることは違う。コヨリはその違いを、今まで何度も笑いで流してきた。けれど、今回は流せない。

「ログル、カウンターの根っこは?」

「壁ではありません。神様側の記録線が、拠点(きょてん)の壁を表示板として使っています」

「家の壁に勝手に広告貼るやつより悪い」

「広告は剥がせば済みます」

死亡回数(しぼうかいすう)広告、剥がして燃やしたい」

 ログルは否定しなかった。


 カウンターを止める作戦は、数字を叩くことではなかった。叩けば、叩いた回数まで死亡回数(しぼうかいすう)に混ぜられるかもしれない。コヨリは反省会テーブルに指で四角を描き、数字の本体、数字の影、壁へ伸びる白い線を分けて考えた。ログルがそれぞれに小さな記号を足す。ネムは『受付前』『受付後』『受付してないのに受付済み顔』という三つの箱を作った。最後の名前が雑すぎて、コヨリは少し笑った。

「受付済み顔ってなに」

「こういう顔」

 ネムは無表情で仮票を持ち上げる。たしかに、紙なのに済ませた顔をしている。コヨリはその顔が嫌いだった。何も終わっていないのに、もう終わりましたと白く塗りつぶす顔。だからこそ、最初の一手は破壊ではなく識別にする。数字を敵と決めつけるのではなく、数字を増やそうとしている条件を読む。そこに、次の五十回を生き延びる手がかりがある。


 最終的に、数字ミミックは瓶の中で小さな【851】になって固まった。コヨリはそれを死因図鑑室ではなく、千回カウンター監視台の予定地へ置くことにする。死因として笑うには、まだ少し生々しい。けれど、見張らなければ勝手に増える。見張るなら、名前をつける。名前をつければ、次に同じものが来た時、ただ怖がるだけではなくなる。


 整理が終わる頃、コヨリの手元には【850→856】と書かれた紙が残った。数字だけなら乱暴に見える。けれど、その横には「ネムが押さなかった」「ログルが線を見た」「わたしが口を封印した」と小さな字が増えている。神様の表に乗る数字よりずっと汚い。だから、コヨリはそちらを信用することにした



【登場人物紹介】

コヨリ:死んでいないのに勝手に増えようとする黒いカウンターへ、小石と確認癖で挑む。数字までミミック化する理不尽に本気で怒りつつ、ただ逃げるのではなく死亡条件そのものを読もうとした。

ログル:現在HPや満腹度を確認し、死亡していない事実とカウンターの異常を切り分けた。数字をただの表示ではなく、神様側の記録線として見抜き、コヨリの「口封印」作戦を冷静に支えた。

ネム:死んでいないのに受付番号が発行される状況を嫌がり、死神としての違和感を示した。死亡受付側の常識が、神様仕様への最初の反論になっている。


【今回の勇者ステータス】

死亡回数:850回 → 856回

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

(第193話時点)

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【罠感知 Lv.4】

【逃走判断 Lv.3】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.2】【神様操作前兆 Lv.1】【滅亡前兆視認 Lv.1】【世界の死因学習 Lv.1】

【世界種保存 Lv.1】【墓標ログ読解 Lv.2】【残影識別 Lv.1】【死亡条件識別 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【死亡条件識別 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

ゲーム的に言うと、これは「見えている罠でも、確認のために触った瞬間に起動する」タイプの事故です。普通の床罠なら避ければ済みますが、今回はUIに見える数字そのものがミミック扱い。死亡回数カウンターをただの表示だと思い込むと、画面外の敵ではなく、画面そのものに噛まれます。コヨリ側の変換では、罠確認の基本である「触る前に見る」を、神様仕様の数字読みへ広げました。


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