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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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同じ顔が全員敵になるシード

知っている顔が、敵として並んでいた。

本人ではない。分かっている。

それでも、一手だけ止まります。

 門の向こうで、カイが弓を構えていた。

 もちろん本人ではない。目の光が違うし、手に持った弓には白い管理タグが巻かれている。けれど、初めて木剣をくれた少年と同じ顔が、こちらへ矢を向けている。その事実だけで、コヨリの足は一瞬止まった。


「勇者様、同一人物ではありません」

「分かってる。でも、顔ってずるい」


 カイ顔の弓兵は、矢をつがえる時に少しだけ左肩を上げた。初期村で木剣を渡してくれたカイも、緊張すると同じ癖があった。本人ではない。分かっている。けれど、体の奥に残った記憶は、顔と癖を見分ける前に胸をつかむ。


 門の横では、ミーナの顔をした補給係がパンを抱えていた。その手つきもまた、知っているものだった。腹が減ってちゃ勇者もできないよ、と言いそうな角度でパンを差し出す。パンの皮の焼き色まで、思い出ログ棚の中のミーナと似ていた。


「神様、人の顔だけじゃなくて、仕草まで持ってきてる」

「はい。過去ログの流用と思われます」

「流用って言葉、今すごく嫌い」


 アリア顔の受付兵は、完璧な笑顔を貼りつけている。番号札を渡す指先の角度がきれいすぎて、余計に腹が立った。


「受付の安心感を武器にするな......」



 コヨリは番号札を受け取る前に、手を引っ込めた。手のひらが汗で湿っている。受付という形は、これまで何度も彼女を助けてくれた。ネムも、アリアも、手続きをしてくれる人は怖い世界の中で数少ない味方だった。だから、その安心の形を敵にされるのが、一番ずるい。


 矢が飛ぶ。


【死亡ログ:659回目】

【死因:カイの顔をした弓兵にためらった】

【評価:顔と役割を分けて見る】


 二回目、ミーナの顔をした補給係がパンを差し出した。コヨリは受け取りかけた。パンはミミックだった。


「パンでそれやるの、ほんとにだめ!」


【死亡ログ:662回目】

【死因:ミーナの顔をした敵へパンを返そうとした】

【評価:思い出補正に注意】


 広場には、アリアの顔をした受付兵までいた。整った笑顔で番号札を渡してくる。


「受付なら安全......なわけない!」


 分かっていたのに、番号札を受け取る一手が遅れた。


【死亡ログ:665回目】

【死因:アリア顔の受付兵に並んだ】

【評価:受付も敵の時があります】


 コヨリは拠点へ戻るたび、少しずつ黙る時間が増えた。ログルは説明を急がない。ゼルドも、ベルも、ネムも、今回ばかりは茶化さなかった。



 リュシアが温かいスープを置いてくれても、コヨリはしばらく手を伸ばせなかった。パンの匂いがすると、ミーナ顔の補給係が差し出した罠パンを思い出す。弓の弦が鳴る音が遠くで聞こえた気がして、肩が跳ねる。


「勇者様」

「分かってる。本人じゃない」

「はい」

「でも、本人じゃないって言われるたびに、じゃあ本人の顔を勝手に使っていいのって思う」

「よくありません」

「だよね。そこ、ログルが即答してくれてよかった」


 ログルはコヨリの膝の上に乗った。解析結果ではなく、重さでそばにいるために。


「急がなくていいです。次の一手を選ぶまで、世界は待っています」

「思考ターン、こういう時はありがたいね」

「はい」

「じゃあ、ちょっとだけ怒る準備する」

「かなり必要な準備です」


 十三回目、コヨリは敵の顔を見ないようにした。足元、射線、武器、白い管理タグを見る。顔ではなく、行動を見る。そう決めたのに、カイ顔の弓兵が矢を構えた時、やっぱり胸が痛んだ。


「ログル。本人じゃないって、何回言われても、ちょっとつらい」

「はい」

「でも、本人じゃないからこそ、神様に素材扱いされた顔を取り返す。そういうことでいい?」

「かなり勇者様らしい解釈です」


 コヨリは小石を投げた。狙ったのは敵の額ではなく、弓についた白い管理タグ。タグが剥がれ、カイ顔の敵は一瞬だけぼんやりする。その間に、ミーナ顔の補給係のパン札、アリア顔の受付番号札も剥がしていく。



 タグを剥がすたび、顔の表情が少しだけ薄くなる。敵が消えるわけではない。けれど、神様側に貼られた役割の糊が弱まるように、動きが鈍った。カイ顔の弓兵は矢を下ろし、ミーナ顔の補給係はパンを抱えたまま首をかしげ、アリア顔の受付兵は番号札を渡す手を止める。


「本人じゃない。でも、素材でもない」

 コヨリは息を切らしながら言った。

「顔は、誰かが覚えてるものなんだよ。勝手に敵用スキンにしないで」

「勇者様、次のタグが右です」

「うん。怒りながらでも、足元は見る!」


 その言葉の通り、コヨリは床の白い罠を一つ避けた。怒っていても、もう一手ぶんだけ盤面を見る。その成長が、少しだけ悔しいくらい自然だった。


 最後のタグを剥がした瞬間、白い管理線が顔だけを回収しようと伸びた。


「人の顔を素材フォルダに入れるなあああああ!」


【死亡ログ:672回目】

【死因:顔ログ回収線を止めようとして、思い出ログごと引っ張られた】

【評価:素材扱いへの抗議】


 拠点へ戻ったコヨリは、三枚の白いタグを棚へ置いた。タグはもう顔を映していない。ただ、小さく【使い回し不可】と浮かんでいる。


「これで、少しは怒れたかな」

「はい。かなり怒れていました」

【登場人物紹介】

コヨリ:知っている顔を敵に使い回され、怒りながらタグを剥がした幼女勇者。

ログル:本人ではないと伝えつつ、コヨリの痛みを急かさなかった相棒。

カイ・ミーナ・アリアの顔ログ:本人ではなく、神様側に配置素材として使われた記録の残影。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:672回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【同じ顔でも盤面確認 Lv.1】【思い出で一手止まるな Lv.1】【顔と役割を分けて見る Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

敵味方誤認、見た目に騙される、攻撃をためらって一手遅れる事故です。過去ログの顔を敵素材にすることで、少しシリアス寄りにしました。


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