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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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魔法が全部強すぎるシード

弱い魔法が強くなれば楽勝。

そう思った時期が、コヨリにも一秒だけありました。

一秒後、村ごと滑ります。


 杖を握った瞬間、空気が震えた。

 魔力が濃い。濃すぎる。コヨリの指先で、小さな【ころころ火球】が生まれただけなのに、火の玉はすでにリンゴほどの大きさになっていた。


「ログル。これ、いつもの火球?」

「名称は同じです。威力係数が十倍です」

「名前が同じで威力だけ十倍、詐欺では?」


 試しに火球を空き地へ転がす。火球はころころ、というかわいい音を一瞬だけ立て、次の瞬間には道を一周して戻ってきた。後ろには焦げた草と逃げ惑う鶏、そして火を追いかける爆ぜ岩がいる。


【死亡ログ:631回目】

【死因:ころころ火球が町を一周して戻ってきた】

【評価:威力より範囲確認】



 二回目、コヨリは【部屋鳴り雷】を唱えようとして、詠唱の途中で手を止めた。ログルの宝石に浮かんだ範囲表示が、おかしかったからだ。普通なら部屋の四隅で止まるはずの赤い線が、家の壁を抜け、井戸を越え、村の外れの鶏小屋まで届いている。


「ログル、部屋ってどこまで?」

「このシードでは、村全体が一つの部屋として認識されています」

「村全体に雷!? それもう天罰じゃん!」

「神様側の威力調整では、かなり天罰寄りです」

「撃たない! わたし、まだ天罰係じゃない!」


 背後で、ルーメに似た記録影が堂々と杖を掲げていた。


「すごい魔法を思い出しました。詠唱は完璧です」

「効果は!?」

「忘れました」

「撃つなあああああああああああ!」


 コヨリが止めるより早く、記録影の杖先から小さな光がこぼれた。次の瞬間、花壇の花が巨大化し、井戸のつるべが空へ伸び、鶏がなぜか勇者っぽいポーズで光り始める。


【死亡ログ:633回目】

【死因:効果不明の強化魔法で、鶏に突撃された】

【評価:詠唱が完璧でも効果確認】


 二回目、雷を撃たない判断をした。偉い。かわりに【霜ふり床】で敵の足を止めようとする。床はきらきら凍り、敵も止まった。村人も止まった。ベルの契約書も滑った。コヨリも滑った。


「村ごとスケートリンク!」


【死亡ログ:635回目】

【死因:霜ふり床で村ごと滑った】

【評価:味方と生活導線も範囲内】


 リュシアが、凍った井戸の横で腕を組む。


「ちび勇者ちゃん、強すぎる魔法は料理にも向かないわよ。火が強ければ肉が早く焼ける、なんて考える子は台所から追い出されるの」

「魔法の授業が料理教室になった!」

「火加減を知らない勇者は、だいたい焦がすのよ」



 リュシアは焦げた草をつまみ上げ、指先でぱらぱらと崩した。


「火ってね、強ければ偉いわけじゃないの。弱火で待つ料理もあるし、余熱で仕上げる料理もある。魔法も同じよ。ちび勇者ちゃんが今覚えるべきなのは、敵を焼く火じゃなくて、焼かないための火加減」

「酒神なのに、めちゃくちゃ先生」

「あたしは酒場の神様よ。酒場ってのは、火と水と腹具合を間違えるとすぐ事故るの」

「この世界、料理も魔法もローグライクすぎる」


 コヨリは杖を握り直した。撃ちたい。敵が目の前にいるなら、魔法でどかしたい。でも、ここで撃てば敵だけでなく、村人の鍋も、井戸も、花壇も、たぶんログルの毛も巻き込む。


「撃たない魔法って、勇者っぽくないね」

「しかし、生存率は上がります」

「じゃあ勇者っぽさより生存率。わたし、もうそれでいい」



 コヨリは杖の先を地面へ向けた。火も雷も出さない。ただ、魔力を細い糸にして床へ流す。すると、見えないはずの威力調整線が、白い根っこのように浮き上がった。家の竈、井戸の水くみ、花壇の成長魔法、全部が同じ線で十倍へ引っ張られている。


「生活魔法まで、戦闘用にされてる」

「はい。強化対象の選別がありません」

「神様、便利を強くしたら便利になると思ってる。違うよ。包丁を十倍大きくしたら料理しにくいんだよ」

「リュシア様が喜びそうな例えです」

「あとで言う。きっと酒場で説教してくれる」


 コヨリは線を切らず、写した。壊すにはまだ早い。何がどう強くされているのか、持ち帰らなければまた同じ事故になる。


 十四回目、コヨリは魔法を撃つのをやめた。魔力を指先に集め、地面へほんの少しだけ流す。敵を倒すためではなく、床に隠れた白い威力調整線を浮かび上がらせるために。


「撃たない魔法」

「はい。出力を攻撃ではなく観測へ回しています」

「地味だけど、村が燃えない。えらい」


 白い線が見えた。神様側の調整が、すべての生活魔法まで戦闘用へ引き上げている。水を出す魔法は洪水になり、火をつける魔法は火事になる。便利を強くした結果、生活が壊れていた。


 コヨリは線を封筒へ写した。持ち帰ろうとした瞬間、背後で小さな回復魔法が暴走する。庭の花が一気に成長し、コヨリをつるで巻いた。


【死亡ログ:644回目】

【死因:回復魔法が強すぎて花に捕まった】

【評価:回復も範囲確認】


 拠点で、コヨリは黒板に書く。


【強い=えらい、ではない】


「これ、神様に百回読ませたい」

「一回で理解していただきたいです」

「神様に期待しすぎ!」



【登場人物紹介】

コヨリ:魔法が全部強すぎる世界で、撃たない魔法を覚えた幼女勇者。

ログル:威力係数と調整線を解析した相棒。

リュシア:火加減の大事さを料理目線で教えた酒神。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:644回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【強すぎる魔法警戒 Lv.1】【撃たない魔法判断 Lv.1】【威力より範囲確認 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

強アイテムや強魔法を雑に使って味方や地形ごと壊す事故です。威力より範囲、攻撃より観測という方向へ変換しました。


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