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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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記憶が保存壺に吸われるシード

便利すぎる保存壺は、記憶までしまってしまう。

悲しみを入れすぎた世界は、何を大事にしていたのか忘れる。

壺、便利だけど怖い。

 この町の人は、みんな壺を抱えていた。

 草も巻物も、道具も服も、家の鍵も壺へ入れる。便利そうに見えた。けれど、広場の真ん中で泣いていた女の子が涙を壺へ入れた瞬間、どうして泣いていたのか分からない顔になった。


「ログル。今、何を入れたの」

「悲しみの記憶です」

「そんなものまで保存できちゃだめでしょ」



 別の男の人は、仕事で失敗した日の記憶を壺へ入れていた。入れ終えると、彼は晴れやかな顔で笑ったが、手元の工具をどう使うのか分からなくなっていた。広場の老人は、亡くした友人の名前を壺へしまい、ほっとしたように座り込む。けれど次の瞬間、隣の空席を見ても、そこに誰が座っていたのか思い出せなくなった。


「悲しいことをしまったら、楽になるかもしれない。でも、何が大事だったかも一緒にしまっちゃうんだ」

「はい。保存対象の範囲が広すぎます」

「便利の顔してるのが、いちばん怖い」


 町の壁には、壺の使い方が大きく書かれていた。


【つらい記憶は壺へ】

【失敗は壺へ】

【後悔は壺へ】

【空っぽになれば、明日が軽い】


 コヨリはその最後の一行を、しばらく見つめた。


「軽い明日って、いい言葉っぽいけどさ。中身まで軽くなったら、どこに進むか分かんなくなるよ」


 ミーナに似た記録影が、パンの作り方を書いた紙を壺へ入れようとしている。コヨリは慌てて駆け寄った。


「それ、しまっちゃだめ!」


 一回目、紙をつかんだ瞬間、壺がぱくりと口を開けた。コヨリの手から、帰り道の記憶だけを吸い出す。


【死亡ログ:617回目】

【死因:保存壺に帰り道を入れて忘れた】

【評価:大事なものほど名前を書く】


 二回目、壺を割って取り出そうとした。割れた壺から、しまわれていた悲しみが一気にあふれた。涙、後悔、別れ、言えなかった言葉。全部が水のように押し寄せ、コヨリは立っていられなかった。


【死亡ログ:621回目】

【死因:保存した悲しみが一気に出た】

【評価:取り出す場所確認】


 ログルは白紙ログ棚から札を持ってきた。


【保存前に名前を書く】


「勇者様、壺へ入れる前に、何を入れるのかを外側へ残す必要があります」

「それ、すごく地味だけど大事。壺に入れたことまで忘れたら、保存じゃなくて消失だもんね」



 ログルは紙の端へ、さらに細かい字で書き足した。


【誰の記憶か】

【何のための記憶か】

【いつ取り出すか】

【取り出す人は誰か】


「項目が多い」

「大事なものほど、管理情報が必要です」

「思い出に管理票つけるの、ちょっと嫌だけど......忘れるよりは、ずっといいか」


 ミーナの記録影は、まだパンの作り方の紙を握っていた。指先が震えている。彼女自身がなぜその紙を大切にしていたのか、もう半分忘れかけているようだった。


「それ、ミーナさんが誰かに食べさせるための紙だよ。たぶん、腹が減ってちゃ勇者もできないって、笑いながら言うための紙」

 コヨリが言うと、記録影はゆっくり顔を上げた。

「......そうだった気がするねえ」

「気がする、でいい。壺に入れたら、その気がするも消えちゃう」


 コヨリは紙を奪わなかった。ミーナの記録影の手の下へ、そっと封筒を差し出す。

「しまうんじゃなくて、棚に置こう。取り出せる場所に」


 十四回目、コヨリは壺を割らなかった。壺の外側に、ミーナの記録影が持っていた紙の名前を書く。


【パンの作り方】

【しまわない】

【棚へ置く】


 壺は不満そうに揺れたが、紙を吸い込まなかった。コヨリは紙を思い出ログ棚用の封筒へ入れた。その瞬間、町の壺が一斉に鳴る。しまわれた記憶が戻りたがっている。


「全部は無理。でも、これだけは持って帰る」


 保存壺荒らしが背後から飛びつく。コヨリは紙を抱え、転がり、壺荒らしの手から逃げた。逃げ切れなかったけれど、封筒だけはログルの方へ投げる。


【死亡ログ:630回目】

【死因:思い出ログを壺荒らしから守り、本人は壺に吸われた】

【評価:保存したいのは命、でも今回は記憶も】


 拠点へ戻ると、ログルは封筒を持って待っていた。


「届きました」

「よかった。わたし、壺に入った?」

「一瞬だけ」

「感想は?」

「勇者様は壺対応アイテムではありません」

「ログル、それ前にも言った!」



 思い出ログ棚に封筒を置くと、棚の奥からほんのりパンの匂いがした。焼けたわけではない。まだ粉と水が混ざっただけの、始まりの匂いだ。それでもコヨリは、少しだけ肩の力を抜いた。


「これ、食べられないパンの匂いだ」

「レシピの記録です」

「でも、ないよりずっといい。壺に入れて忘れるより、棚に置いて、いつか焼ける方がいい」


 ログルは封筒の上に、もう一枚小さな札を置いた。


【取り出す時は、誰かと一緒に】


「なんで?」

「悲しい記憶を一人で取り出すと、先ほどのように押し流される可能性があります」

「......うん。じゃあ、これを開ける時はログルも一緒」

「はい。ぼくも、一緒に確認します」


【登場人物紹介】

コヨリ:保存壺に記憶を吸われる世界で、思い出をしまいすぎる危険を見た幼女勇者。

ログル:壺へ入れる前に名前を書く重要性を提示した相棒。

ミーナの記録影:パンの作り方をしまいかけた残影。

保存壺荒らし:便利な壺社会で大事な記憶まで盗みに来る敵。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:630回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【保存する前に名前を書く Lv.1】【記憶は壺に入れすぎない Lv.1】【取り出す場所確認 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

保存壺に大事なものを入れて忘れる、入れる前に死ぬ、壺荒らしに盗まれる事故を、記憶そのものへ拡大しました。


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