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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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ショップしかないシード

床にも階段にも空気にも値札。

息をしたら呼吸料未払い。

ベル、法務担当として本気で怒ります。

 町に入った瞬間、コヨリは口を押さえた。

 道端の石には【3G】、井戸の水には【一口50G】、遠くに見える階段には【踏み降り料金・時価】と書かれている。空中には薄い札が浮かび、そこには【呼吸料】という信じたくない文字が揺れていた。


「ログル、息したら盗み?」

「呼吸料未払いの可能性があります」

「息止める!」

「勇者様、それは法務以前に身体が負けます」


 ベルが眼鏡を押し上げた。いつも冷静な秘書の眉が、少しだけ低い。


「これは契約ではありません。生活に値札を貼り、拒否できない状態で支払い義務を発生させています。魔王軍法務でも、ここまで雑な徴収は却下です」

「ベルさんが怒ってる。これはだいぶ悪い」



 ゼルドは階段の値札を見て、深く眉間にしわを寄せた。


「魔王軍でも、呼吸に料金は取らぬ」

「魔王軍の倫理ラインが、神様側より上!」

「当然だ。部下が息をするたびに請求していたら、会議が始まる前に全員倒れる。そもそも、拒否不能な生活行為を課金対象にするなど、支配ですらない。雑な嫌がらせだ」

「魔王さんがまともなこと言ってる時、ほんと神様の株が下がる」

「余の株で神の損失を補填するな」


 コヨリは試しに息を止めた。十秒もしないうちに頬が赤くなり、ログルが前足でコヨリの手を軽く叩く。


「勇者様、呼吸を再開してください」

「でも未払い」

「死亡すると、呼吸料以前の問題です」

「命って、法務より強い」

「はい。かなり強いです」


 ベルは札の一枚をつまみ上げた。薄い紙なのに、指先で曲げると金属のような音がする。


「値札に見せていますが、これは契約書ではありません。契約には説明、同意、解除条件、対価の妥当性が必要です。このシードにあるのは、値段の形をした命令だけです」

「ベルさん、長くしゃべると怖い」

「怒っておりますので」


 一回目、コヨリは階段へ向かった。踏んだ瞬間、足元から会計ゴーレムが生えた。


【階段利用料:未払い】


「階段、商品だった!」


【死亡ログ:589回目】

【死因:階段を踏んだら購入扱いになった】

【評価:床と階段の値札確認】


 二回目、コヨリは値札のない床だけを選んで歩いた。三歩目で床が裏返り、裏面に【隠し価格】が表示される。


「裏面商法!」


【死亡ログ:592回目】

【死因:商品ではないと思った床が裏面商品だった】

【評価:床の裏まで見るのは困難】



 ネムの受付で、コヨリはぐったりと椅子に沈んだ。カウンターの上には【金欠死】、【未払い死】、【裏面価格死】という三つの札が並んでいる。


「ネムさん、金欠で死ぬ勇者ってどう思う?」

「珍しくはありません」

「珍しくないんだ!?」

「装備更新、宿代、識別代、回復代。冒険者は常に金欠です」

「そこだけ現実的にしないで!」

「ただ、呼吸料未払いは初めて見ました」

「初めてを取りたくなかった!」


 ネムは眠そうな目で、呼吸料の控えをめくった。


「この請求、死亡後にも継続しています」

「死んでも息してないのに!?」

「死亡処理中のため、呼吸停止扱いがまだ確定していないようです」

「請求だけターン制無視するなあああああ!」


 その後、場所替えで店外扱いになり、呼吸料未払いで番犬会計ゴーレムに追われ、財布を守ろうとして財布ミミックに噛まれた。ネムの受付では、死因票に【金欠死】という新しい分類ができる。


「わたし、お金で死ぬタイプの勇者だった?」

「今回は世界側の課金設定が悪質です」

「世界側の課金設定! 言葉がもう最悪!」


 ベルは地面へ契約書を広げた。風で飛ばないよう、ゼルドが魔王印で端を押さえる。契約書の文字は床の値札へゆっくり伸び、【呼吸料】の札を囲んだ。


「生活に必要な行為へ、事前同意なく対価を設定することは無効です。勇者様、三歩だけ無料にします。その間に、あの中央会計石を取ってください」

「三歩! 幼女の歩幅で三歩!」

「文句は後で受け付けます」



 ベルは契約書の端を指で叩いた。

「一歩目は無料通行権。二歩目は請求猶予。三歩目は異議申立て処理中です。四歩目からは、まだ争えません」

「四歩目から死ぬの!?」

「かなり可能性があります」

「法務の安全地帯、短い!」


 ゼルドが魔王印をもう一つ押した。

「余の保証を追加する。これで半歩くらい伸びぬか」

「半歩!? 魔王印の効果が半歩!?」

「神様側の課金設定が強すぎます」

「魔王の威厳を値引き交渉に使うな!」


 コヨリは三歩半ぶんの距離を見た。幼女の足では微妙に届かない。だから、最後の半歩は小石を投げるしかない。


 コヨリは走らなかった。一歩目で小石を投げ、二歩目で会計ゴーレムの向きを変え、三歩目で中央の石へ白銀の帰還ピンを刺す。


【生活課金設定:保留】


「保留じゃなくて返金して!」


 石は割れたが、同時に大量の値札が雪崩のように降ってくる。


【死亡ログ:602回目】

【死因:呼吸料不服申し立て中、値札雪崩に埋もれた】

【評価:法務勝利と物理安全は別】


 拠点へ戻ったコヨリは、値札の欠片をベルに渡した。ベルはそれを見て、にっこり笑う。怖い笑顔だった。


「勇者様、このシードの記録は私が預かります。神様側へ、かなり丁寧な抗議文を作ります」

「丁寧な抗議文って、ベルさんが言うと攻撃魔法みたい」


【登場人物紹介】

コヨリ:ショップしかない世界で、呼吸料未払いまで経験した幼女勇者。

ログル:課金床と階段利用料を解析しながら、息止めを止めた相棒。

ベル:生活に値札を貼るシードへ法務で本気の怒りを見せた秘書。

ゼルド:魔王印で契約書を押さえる、地味だが重要な役目を果たした魔王。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:602回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【床の値札確認 Lv.1】【呼吸料不服申し立て Lv.1】【店しかない時はベルを見る Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

ダンジョンショップの盗み判定・商品境界事故を、世界全体が店になったシードへ変換しました。床や階段まで商品扱いだと、歩くだけで事故ります。


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