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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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モンハウだらけシード

部屋に入ればモンスターハウス。

通路に逃げてもミニモンスターハウス。

安全確認する前に、天井から敵が降ります。

 扉を開ける前から、嫌な音がした。

 天井の向こうで、何かがみっしり詰まっている。足音、羽音、壺の転がる音、宝箱が歯を鳴らす音。コヨリは扉の前でぴたりと止まった。


「ログル、開けたくない」

「開けない判断を支持します」

「でも進まないとだめ?」

「はい」

「じゃあ神様が悪い!」



 扉の前の空気は、湿って重かった。魔物の息、罠油の匂い、古い巻物が焦げる紙臭さが、隙間から少しずつ漏れてくる。耳を澄ますと、敵の足音だけではない。壺の中で何かが爪を立てる音や、宝箱が舌なめずりするような金具のきしみまで聞こえた。


「ログル、扉の向こうで宝箱が歯ぎしりしてる」

「はい。少なくとも三つは呼吸しています」

「宝箱の呼吸数を数える相棒、頼もしいけど嫌!」


 コヨリは持ち物を床へ並べた。【眠り玉】、【混乱の巻物】、【小石袋改】、【白紙っぽい巻物】、それからどう見ても怪しい【大部屋っぽい巻物】。どれも打開アイテムに見える。見えるだけで、実際に助けてくれるとは限らない。


「眠り玉で止める。混乱の巻物で散らす。小石で入口を確認する。白紙は最後。大部屋っぽい巻物は」

「使用しないでください」

「だよね! 部屋が多い時に大部屋は、たぶん神様の罠!」

「かなり高確率です」


 ログルの宝石に、薄い赤線が浮かぶ。扉の向こうで、敵が落ちる予定のマスが天井から赤く染まっていた。コヨリが扉へ手を伸ばすと、世界がわずかに盤面化する。敵の爪、落ちかけの爆ぜ岩、空中で止まった白紙巻物喰いの舌。全部が一手前で待っている。


「入ったら落ちる?」

「はい」

「入る前に落ちてこない?」

「今回のシードは、入室判定がかなり前のめりです」

「判定が前のめりって言葉、初めて聞いた!」


 小石を扉の隙間へ投げる。中で小さく跳ねた直後、扉が勝手に開いた。


【モンスターハウスだ!】


 いつもの表示が出た。問題は、部屋の奥にも、右の小部屋にも、通路の曲がり角にも、同じ表示が浮かんでいることだった。


【モンスターハウスだ!】

【ミニモンスターハウスだ!】

【おかわりモンスターハウスだ!】


「おかわりするなあああああ!」


 敵が天井から降る。倍速ヤマネコ、爆ぜ岩、保存壺荒らし、深層狙撃鬼、白紙巻物喰い。アイテムも落ちているが、拾いに行く一手がない。床には罠が光り、階段は部屋のど真ん中でこちらを煽るように揺れていた。


【死亡ログ:561回目】

【死因:モンスターハウス入口で入口停止する前に入室扱いされた】

【評価:扉の向こうから始まっていました】



 死亡受付で、ネムは【入室前入室】という新しい判子を取り出した。


「ネムさん、それ日本語として大丈夫?」

「死亡処理としては大丈夫です」

「死亡処理が文法に勝つな!」

「モンスターハウス系の死因は、だいたい文法より先に敵が来ます」

「それはそうだけど!」


 拠点の反省会テーブルでは、ログルが扉の図を描いた。普通なら扉の内側に赤い危険円があるはずなのに、今回は扉の外側まで赤い円がはみ出している。


「勇者様、次は扉を開ける前に、入口をこちら側で定義する必要があります」

「入口って、勝手にそこにあるものじゃないの?」

「神様側が勝手に前倒しするなら、こちらも勝手に境界を作るしかありません」

「神様のズルに対抗するために、わたしもズルを学んでる! 教育に悪い!」


 二回目、コヨリは眠り玉を投げた。玉は床を跳ね、敵の群れの中央で割れるはずだった。だが、遠投の腕輪を外し忘れていたせいで、玉は部屋の奥を越え、さらに次のモンスターハウスへ消えた。


「眠り玉、遠くの誰かを寝かせに行った!」

「遠投事故です」

「わたしの手元で起きてる敵を寝かせて!」


【死亡ログ:565回目】

【死因:眠り玉を遠投して、目の前の敵が全員起きていた】

【評価:腕輪確認】


 何度も死ぬうち、コヨリは気づいた。モンスターハウスが多いのではない。世界そのものが、部屋に入った者を囲むように折り畳まれている。逃げ道が部屋へ戻り、通路が別の部屋へつながり、階段前には必ず欲張りミミックが湧く。


「ログル。これ、地形がモンハウを作ってる」

「はい。安全な通路が、敵の待機場所へ自動変換されています」

「神様、通路の意味を知らない!」


 十四回目、コヨリは部屋へ入らなかった。扉の前に座り込み、白紙の巻物へ大きく書く。


【入口】


 それを扉の外側へ貼る。部屋の入口を、管理画面で作った【いいえ】と同じように、こちら側で定義し直す。


「ここが入口。入るまでは、入ってない」

「かなり強引ですが、管理画面の未同意処理と似ています」

「神様のズルから学ぶの、すごく嫌!」


 表示が一瞬乱れる。


【モンスターハウスだ!】

【まだ入口です】

【判定保留】


「保留きた!」


 コヨリはその一瞬で、眠り玉ではなく【通路封じの小石】を投げる。敵を眠らせるのではなく、天井から落ちる敵の着地点をずらす。爆ぜ岩が深層狙撃鬼の射線を塞ぎ、保存壺荒らしが白紙巻物喰いの上に落ちた。


「敵同士で渋滞してる!」

「今です。階段まで四歩」


 四歩目で、階段がモンスターハウスになった。


「階段、おまえもか!」


【死亡ログ:574回目】

【死因:階段型モンスターハウスに踏み込んだ】

【評価:階段も部屋扱いでした】


 拠点で目を覚ましたコヨリは、床に転がったまま笑った。


「ログル。入口を作るの、効いた」

「はい。完全突破ではありませんが、モンスターハウスの判定を一瞬止めました」

「一瞬あれば死ねるし、一瞬あれば進める。ほんとこの世界、秒単位で性格悪い」



 ログルは、入口判定を保留にできた場所へ小さな旗を立てた。旗にはコヨリの字で【ここまで入ってない】と書かれている。かなり無理やりな主張だったが、白い表示はまだ戸惑っているらしく、旗の周りだけ敵の落下が遅れた。


「旗、効いてる」

「はい。管理画面で【いいえ】を登録した経験が、境界定義に応用されています」

「神様の嫌な画面で覚えた技が、モンハウで役に立ってるの、気持ちが複雑!」

「役に立つものは使いましょう」

「大人の割り切り!」


 コヨリは旗の横にもう一つ書き足した。


【階段は部屋じゃない】


 すると奥の階段が、露骨に目をそらすように揺れた。

「今、階段が動揺した!」

「かなり怪しいです」

「次はおまえの判定を止めるからね!」


【登場人物紹介】

コヨリ:モンスターハウスだらけのシードで、入口判定を保留にする荒技を覚えた幼女勇者。

ログル:部屋・通路・階段の判定が全部モンハウ化していると解析した相棒。

モンスターハウス群:敵・罠・アイテム・階段まで巻き込む、過剰サービス型の即死部屋。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:574回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【モンスターハウス入口停止 Lv.2】【遠投の腕輪装備確認 Lv.3】【入口判定保留 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

モンスターハウスは入室直後に大量の敵が降る定番事故です。入口で止まる、停止アイテムを使う、遠投装備を確認する、といった対策をシードギミックへ変換しました。


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