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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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深層モンスターだらけシード

チュートリアル村の外に、深層級の敵がいます。

配置ミスではなく、神様側の難易度調整ミスです。

コヨリ、入口で帰りたくなる。

 村の外に出た瞬間、地面が低く震えた。

 草むらの向こうから現れたのは、黒い鎧をまとった巨人だった。片手には、村の門より大きな棍棒。額には【深層百階級】という白い印が浮いている。


「ログル、村の外、何階?」

「地形上は一階相当です」

「じゃあ、あの百階級って何!?」

「配置だけ深層です」

「チュートリアル村にラスボス置くなあああああ!」


 深層巨人が一歩進む。たったそれだけで、村の柵が風圧で倒れた。コヨリは小石を投げる。小石は巨人の膝に当たり、蚊より弱い音を立てて落ちた。


「効いてない!」

「効いていません」

「同じこと言わないで! 現実が二倍つらい!」


【死亡ログ:547回目】

【死因:一階相当の村外で深層巨人に踏まれた】

【評価:階層詐欺】



 拠点へ戻ったコヨリは、しばらく床に寝転がったまま動かなかった。ログルが心配して顔をのぞき込むと、コヨリは両手で空をつかむような動きをした。


「村外って、普通はスライムとか、ちょっと強い犬とか、そういうところでしょ。なんで門を出た瞬間、足の裏が空いっぱいに見えるの。わたし、踏まれるために異世界来たんじゃない」

「勇者様、今回は敵の配置階層が地形階層と一致していません」

「一致させて! 神様の仕事、まず一致!」


 再接続した村では、村人が普通に洗濯物を干していた。その横を、深層巨人の影がゆっくり通りすぎる。洗濯物の白い布が風圧でぱん、と鳴り、村人は慣れた顔で竿を押さえた。慣れてはいけない風景だった。


「この村の人、なんで普通に暮らしてるの」

「暮らすしかないためです」

「そんな悲しい普通、ある?」


 遠くで、戦神バルガの大きな声が響いた。


「強敵は勇者を育てる! よい配置ではないか!」

「バルガさん、村の洗濯物見て! 育つ前に乾いた服が飛んでる!」

「む。洗濯物は想定外だ!」

「想定に生活を入れてええええええええええええ!」


 二回目は、深層狙撃鬼だった。まだ姿も見えない距離から、白い矢が飛んでくる。コヨリは射線を読み、岩陰へ転がり込んだ。岩陰の中には深層眠り粉コウモリがいた。


「岩陰まで深層!」


【死亡ログ:550回目】

【死因:深層狙撃鬼から逃げた先で深層眠り粉コウモリに寝かされた】

【評価:逃げ道にも階層があります】


 死因は増え続けた。深層保存壺荒らしに大事な小石袋改を盗まれ、深層倍速ヤマネコに二手で詰められ、深層階段前の誘惑が村の井戸の横に宝箱を置いてきた。


 コヨリは反省会テーブルで地図を見下ろした。村の周囲だけ、敵名がぎっしり詰まりすぎて黒い円になっている。


「これ、世界が滅ぶ理由、魔物が強いからじゃなくて、強い魔物の置き場所がバグってるんだ」

「はい。安全地帯が存在しません」

「安全地帯なしで人間に暮らせって、神様の家にも深層巨人置くぞ!」



 ログルは地図の黒い円を指でなぞった。円の中には、深層巨人の足跡、狙撃鬼の射線、眠り粉コウモリの飛行範囲が重なっている。村の井戸も、畑も、門も、その円の内側に入っていた。


「勇者様。安全地帯がないということは、攻略者だけの問題ではありません。村人が水を汲む一手、畑へ出る一手、洗濯物を取り込む一手。そのすべてに深層級の敵ターンが乗ります」

「それ、生活が毎日ボス戦ってことじゃん」

「はい」

「神様、生活にボス戦を混ぜるな!」


 コヨリは村の柵を見た。低い木の柵は、深層巨人の膝くらいまでしかない。隠れるには低すぎるし、守るには細すぎる。それでも村人たちは、柵の向こうを家の外と呼んでいた。


「ここ、滅びるよ。だって、逃げる場所がないもん」

「はい。このシードの滅亡原因は、強敵そのものではなく、安全圏の消失です」

「神様の難易度調整、町づくりを知らない人が作ったやつだ......」


 十四回目、コヨリは巨人を倒すのをやめた。深層狙撃鬼の射線を地図に引き、深層巨人の足音を待つ。巨人が歩くと、狙撃鬼の射線が巨人の背中で一瞬だけ切れた。


「巨人を壁にする」

「危険ですが、現状では最も生存率が高いです」

「深層巨人を家具扱いする日が来るとは思わなかった!」



 巨人の影は、地面を夜みたいに暗くした。コヨリはその影の端を走る。右へ出すぎると狙撃鬼の射線に入り、左へ寄りすぎると巨人の足に巻き込まれる。ログルの宝石が赤と青の線を浮かべるが、巨人が一歩動くたびに線はぐにゃりと曲がった。


「家具、動く!」

「生き物です」

「知ってるけど、家具扱いしないと怖い!」

「恐怖対策としては理解できます」


 村の門まであと六マス。巨人の背中で狙撃鬼の白い矢が一瞬だけ止まる。その隙間を抜けるために、コヨリは小石袋改から一つだけ石を取り出した。巨人の足元へ投げるのではない。足音を一拍ずらすために、横の空き樽へ当てる。


 コヨリは巨人の影を走り、村の門へ白銀の帰還ピンを打ち込んだ。ピンの周囲に浮かんだのは、白い配置表だった。


【難易度調整:村外に深層敵を配置】

【目的:成長促進】


「促進じゃない! 即死!」


 叫んだ瞬間、巨人がくしゃみをした。風圧でコヨリは飛ばされ、狙撃鬼の射線へ入る。


【死亡ログ:560回目】

【死因:深層巨人を壁にしたが、くしゃみで射線へ押し出された】

【評価:生き物の壁は動きます】


 拠点へ戻ると、コヨリは配置表の欠片を棚へ置き、肩を怒らせた。


「神様の成長促進、雑!」

「はい。成長前に踏まれます」


【登場人物紹介】

コヨリ:深層モンスター前倒し配置にキレた幼女勇者。巨人を壁として使うという変な発想に至った。

ログル:安全地帯が存在しない配置ミスを解析した相棒。

深層巨人:一階相当の村外に置かれた、成長促進という名の即死配置。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:560回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【深層配置警戒 Lv.1】【生き物の壁は動く Lv.1】【安全地帯確認 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

序盤に深層級の敵が出る配置事故です。強敵そのものより、安全地帯や逃走導線が消えることが滅亡原因になります。


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