表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
165/340

階段前で欲張るシード

階段は見えている。

でも横には宝箱、壺、巻物、種、腕輪。

欲を捨てても、欲の方から近づいてきます。

 階段があった。

 石造りの小さな階段で、下りるだけなら三歩で届く。その横には宝箱が二つ、白紙っぽい巻物、丸い保存壺、金色の腕輪、ぷっくりした未識別の種が、まるでお供え物のように並んでいた。


 コヨリは深呼吸した。


「ログル。これは何」

「階段前欲張り試験です」

「試験って言えば、何してもいいと思うなよ神様ァ!」



 宝箱は、こちらを見ていた。目はない。口も閉じている。けれど、蓋の金具がわずかに動くたびに、コヨリには「開けないの?」と聞こえる気がした。金色の腕輪は光を拾ってきらりと鳴り、保存壺は階段へ向かう道の真ん中へ、ほんの少しだけ転がってくる。


「ログル、布。宝箱に布かける」

「視界遮断ですか」

「そう。見なければ欲は発生しない」

「前回、見なくても階段が宝箱を抱えて近づいてきました」

「言わないで! 対策前から心を折らないで!」


 ログルは宝箱の上に布をかけた。すると布の下から、こほん、と小さな咳払いが聞こえる。コヨリは両耳をふさいだ。


「咳払いする宝箱、初めて見た!」

「見てはいません。聞いています」

「揚げ足取らないで! 聴覚にも欲が来る!」


 階段は三歩先にある。たった三歩なのに、床の上には欲が多すぎる。コヨリは自分の膝を軽く叩き、声に出して確認した。


「一歩目、まっすぐ。二歩目、白線確認。三歩目、階段。宝箱は見ない。壺は拾わない。腕輪は光っても無視。種はぷるぷるしても無視」

「勇者様、最後の二つはかなり誘惑を見ています」

「無視するために把握してるの!」


 一回目、宝箱を見た。見ただけだった。見ただけなのに、宝箱の蓋が少し開き、白い歯がのぞいた。


【死亡ログ:533回目】

【死因:階段前で宝箱を見た】

【評価:視線にも欲があります】


「見るだけで死ぬの、もう恋じゃん!」

「かなり悪質な片思いです」


 二回目、巻物だけ拾って階段へ行こうとした。巻物は床に貼りついており、はがすのに一手使う。その一手で階段が一段ぶん遠ざかった。


「階段が逃げた!」

「欲張り検知で距離が変動しています」

「距離に感情を持たせるな!」


 三回目、全部無視して階段へ走った。偉い。かなり偉い。ところが階段が、横の宝箱を抱えてこちらへにじり寄ってきた。


「階段まで欲張りを持ってくるなあああああ!」


【死亡ログ:539回目】

【死因:階段が宝箱を抱えて近づいてきた】

【評価:誘惑の出前】


 ネムの受付では、死因票に【欲張り】【欲張らないつもり】【欲が追ってきた】の三つが並んでいた。


「ネムさん、三つ目おかしくない?」

「今回のシードでは正確です」

「正確なのが嫌!」



 ネムは眠そうな顔で、さらに一枚の受付票をめくった。そこには【欲を捨てたつもり死亡】と書かれている。


「増えてる!」

「欲を捨てたあと、捨てた欲につまずいています」

「比喩じゃなくて物理だったのが最悪!」

「受付としては、比喩死より物理死の方が処理しやすいです」

「死神の事務目線、ありがたくない!」


 コヨリは受付カウンターへ両手を置き、真顔で言った。


「ネムさん。わたし、次は欲を見ない。宝箱も見ない。階段だけ見る」

「それで死んだ場合は」

「まだ死んでないのに分類しないで!」

「予約票だけ作ります」

「予約するなあああああああああああ!」


 十三回目、コヨリは階段を見なかった。宝箱も見ない。壺も、腕輪も、種も見ない。足元だけを見る。階段へ進む三歩のうち、二歩目にだけ薄い白線がある。欲を捨てた者を転ばせるための、最後の嫌がらせだった。


「ログル、白線」

「はい。欲を捨てた足元確認が必要です」

「スキル名が人生訓みたい!」


 コヨリは小石を二歩目へ置き、白線を起動させた。床から黒い手が出て、小石を宝箱の方へ引っ張る。手が小石を持っていく間に、コヨリは階段へ一歩進んだ。


 あと一歩。横で未識別の種がぷるぷる震える。どう見ても超天使っぽい。拾えば、次が楽になるかもしれない。そんな考えが頭をかすめた瞬間、ログルが言った。


「勇者様。次が楽になるかもしれません」

「言わないで!」

「ですが、今は下りれば生きます」

「その言い方、ずるい。すごく効く」



 コヨリは唇を尖らせた。次が楽になる、という言葉は強い。これまで何度も、その一手に助けられてきた。拾った壺、投げた杖、未識別の草。使い方を間違えて死んだものも多いが、拾わなければ進めなかった瞬間もある。


「ログル、今拾わないと、後で困るかもしれない」

「はい」

「でも、今拾うと死ぬかもしれない」

「はい」

「両方はいって言うのやめて」

「どちらも事実です」

「事実が階段前でケンカしてる!」


 ログルは少し間を置いてから言った。

「勇者様。後で困る可能性は、後で考えられます。今死ぬと、今は終わります」

「......それ、すごく当たり前なのに、階段前だと忘れる」


 コヨリは種を見ずに階段を踏んだ。世界が切り替わる直前、宝箱が名残惜しそうに「ちっ」と鳴いた。


「舌打ちする宝箱、嫌い!」


 成功したと思ったが、階段の最下段に小さな宝箱ミミックがいた。最後まで性格が悪い。


【死亡ログ:546回目】

【死因:階段を降りた先の小さい宝箱に噛まれた】

【評価:欲を捨てても確認は必要】


 拠点で、コヨリは壁へ書く。


【階段を見たら下りる】

【ただし下りた先も見る】


「人生が階段に支配されてる......」

「かなりローグライクです」

【登場人物紹介】

コヨリ:階段前欲張りシードで、見ただけ欲張り死まで経験した幼女勇者。

ログル:誘惑に負けそうなコヨリへ、次より今の生存を優先させた相棒。

ネム:欲が追ってきた死亡票を正確に分類した死亡受付。

宝箱ミミック:視線だけで噛みに来る、ひどい誘惑担当。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:546回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【階段前欲張り警戒 Lv.3】【拾う前に階段を見る Lv.1】【欲を捨てた足元確認 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

階段横の宝箱、白紙っぽい巻物、レア腕輪を拾いたくなる欲張り事故です。下りれば助かるのに一手使って死ぬ、王道あるあるです。


楽しんでいただけましたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューなどで応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ