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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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見えている罠ほど踏むシード

罠は見えていれば安全、ではありません。

見えているからこそ、気にしすぎて別の罠を踏みます。

トラッパの記録影、正論が痛い。

 床が派手だった。

 落とし穴には赤い縁取りがあり、眠り罠には月の印が描かれ、爆発罠は親切にも煙を上げている。隠す気がない。だからこそ、コヨリは一歩目から信用できなかった。


「ログル、見えてる」

「はい。罠密度は高いですが、可視化されています」

「見えてる罠って、逆に踏むんだよ。目立つやつを避けた先の地味なやつとか、見えてるのに忘れるやつとか、ぜったいある」


 通路の奥で、トラッパに似た記録影がしゃがんでいた。彼は床に印をつけながら、こちらを見ずに言う。


「罠は敵に踏ませるものです。自分で踏むものではありません」

「知ってる! でも足が勝手に!」



 トラッパの記録影は、返事の代わりに床へ細い線を引いた。赤い線は落とし穴、青い丸は眠り罠、黄色の三角は爆発罠。まるで地図のように見えるが、コヨリには半分くらいしか分からない。印が多すぎるせいで、床そのものが罠の説明書になっている。


「これ、読むだけで一日終わらない?」

「本来は訓練を受けた罠師用の記号です」

「幼女向けルビを振って!」


 記録影はそこで初めて、コヨリを見た。

「罠を利用する者は、敵の足より先に、自分の足を置く場所を決めます。罠の種類を覚えるより、自分の歩く線を失わない方が先です」

「めちゃくちゃ正論。言い方が先生」

「罠は、待ってくれません」

「先生、厳しい!」


 ログルは反省会用の小さな紙を取り出し、床に置いた。そこには、コヨリが歩く予定の線だけが太く描かれている。敵を罠へ誘う派手な矢印は、まだ書かれていない。


「勇者様、まずはこの線から外れないでください」

「罠師なのに、自分の道だけ見るの?」

「罠師以前に生存者です」

「職業の前に命! それはそう!」


 一回目、コヨリは赤い落とし穴を避けた。避けた先にあった透明な転倒罠で、きれいに回転しながら赤い落とし穴へ戻った。


【死亡ログ:519回目】

【死因:見えている罠を避けて、見えていない罠で戻された】

【評価:避けた先確認】


 二回目、敵を罠へ誘導した。倍速ヤマネコが眠り罠へ近づく。あと一歩。コヨリは勝ちを確信して、地図に丸を書いた。その丸を書く一手で、足元の鈍足罠を踏んだ。


「地図師として死んだ!」

「危険地帯で地図を書いたためです」

「職業名が死亡ログに負けた!」



 ネムの受付では、死因票の職業欄に【地図師見習い】と書かれ、その横に赤字で【危険地帯筆記】と押されていた。


「ネムさん、この赤いハンコなに」

「死亡事務上、再発防止のためです」

「役所の安全講習みたい!」

「今回の死因は、かなり安全講習向きです。危険地帯では地図を書かない。罠の上で丸をつけない。敵の前で反省文を始めない」

「三つ目はやってない! たぶん!」


 拠点の反省会テーブルでは、ログルが地図の端に小さく書き足した。


【地図を書く場所:安全地帯】

【罠を使う前:自分の道】

【敵が寝た後:通路幅】


 コヨリは三つ目を指でつつく。


「敵が寝たら勝ちじゃないの?」

「眠った敵は、障害物にもなります」

「寝相まで盤面!」


【死亡ログ:523回目】

【死因:敵を誘導する前に自分が鈍足になった】

【評価:罠師ごっこは足元から】


 何度も死んだ。罠を移設して場所を忘れ、罠消しの巻物で床ごと消し、敵を落とすつもりの落とし穴に自分が吸い込まれた。トラッパの記録影は、毎回少しだけ首を横に振る。その控えめな反応が、怒鳴られるより痛い。


 十三回目、コヨリは敵を見なかった。床だけを見る。罠の印を地図へ写すのではなく、自分の歩く線だけを太く描いた。敵を罠へ誘う線は、二番目でいい。


「ログル。わたしの道、先」

「はい。敵の道はその後です」

「罠師っぽくない」

「生きている罠師の方が、罠師として優秀です」

「それはそう!」


 コヨリは眠り罠を踏まない位置で止まり、小石を投げた。小石は壁へ当たり、倍速ヤマネコが反応する。猫は最短距離で飛びかかり、見えている眠り罠へ自分から乗った。


「よし!」


 喜んだ瞬間、眠ったヤマネコの体が通路を塞ぎ、後ろから来た爆ぜ岩に押される。


「寝る場所まで考えてなかった!」



 眠ったヤマネコの尻尾が、通路の幅いっぱいに広がっていた。ふかふかしている。見た目だけなら枕にしたいくらいだ。しかし、その向こうで爆ぜ岩がごろごろと近づき、さらに後ろから別の敵が押してくる。眠らせることには成功したのに、眠った体が今度は壁になっている。


「ログル、敵を止めたら勝ちじゃないの?」

「止めた敵がどこで止まるかまで盤面です」

「ローグライク、結果の結果まで見るの!?」

「はい。結果の結果でよく死んでいます」

「言い返せない!」


 トラッパの記録影は床に新しい印をつけた。眠り罠の横に、小さく【寝床注意】と書かれている。


【死亡ログ:532回目】

【死因:眠った敵が通路を塞ぎ、爆ぜ岩に押された】

【評価:罠の結果も盤面です】


 拠点へ戻ったコヨリは、反省会テーブルに大きく書いた。


【敵より先に、自分の歩く道】


「これ、罠師として地味すぎない?」

「かなり重要です」

「ローグライク、派手な技より歩き方が強い時あるよね......」

【登場人物紹介】

コヨリ:見えている罠ほど踏むシードで、罠利用の前に自分の導線を見ることを覚えた幼女勇者。

ログル:罠の位置だけでなく、罠を踏ませた後の盤面まで見るよう促した相棒。

トラッパの記録影:罠は敵に踏ませるものだと正論で刺してきた記録影。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:532回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【見えてる罠ほど踏むな Lv.2】【罠移設メモ Lv.1】【誘導前に足元 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

罠を利用しようとして自分が踏む、見えている罠に意識を取られて別の罠を踏む、という罠師あるあるをシード全体に広げました。


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