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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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帰還門が開きっぱなしのシード

帰還門は、開けばいいものではありません。

閉じない門は、世界を吸います。

帰還ピン、仕事して。額へ帰ってくるな。

 空に穴が開いていた。

 青空の真ん中に、家の扉ほどの光が浮かんでいる。けれど、その扉は帰り道には見えない。村の屋根瓦が一枚ずつ吸い上げられ、木の葉が逆さの雨みたいに空へ落ちていく。井戸の水も、洗濯物も、道端の小石まで、ゆっくり門へ引かれていた。


「ログル、帰還門?」

「はい。ただし開閉条件が壊れています。帰る対象が、勇者様ではなく世界側へ広がっています」

「帰還門が掃除機になってる! 吸引力で世界を救うな!」



 吸われているのは物だけではなかった。村の入口に立っていた看板から、文字だけが剥がれて空へ流れていく。井戸端で叫んだ女の人の声は、途中で糸を切られたみたいに細くなり、門の光に吸われると、誰が何を言おうとしたのか分からなくなった。家の窓辺に飾ってあった小さな木彫りの鳥も、羽ばたく前の形のまま、光へ向かって滑っていく。


 コヨリは、足を一歩引いた。

 帰りたい。絶対に帰りたい。元の世界へ帰るために、ここまで死んできた。けれど、目の前の門は帰り道ではなく、世界の中身を雑に吸い上げる穴に見えた。


「ログル」

「はい」

「わたし、帰還門って、もっとあったかいものだと思ってた。玄関みたいに、ただいまって言える感じのやつ」

「この門は、帰還対象の定義が壊れています。扉ではなく、穴に近いです」

「神様ァ! わたしの帰り道を穴にするな! 玄関マットくらい敷いて!」


 ログルはいつも通り冷静な声で返したが、額の宝石の光は少し揺れていた。さっき額へ帰還ピンを受けたコヨリを見てから、警告の文字がやけに早く浮かぶ。


「勇者様。ピンを投げる場合、額を守ってください」

「相棒が心配してくれるのはうれしいけど、心配の理由がピン刺さりすぎなの、かなり嫌!」


 コヨリは白銀の帰還ピンを構えた。門の座標を固定すれば、吸引の方向を読めるかもしれない。そう思って投げたピンは、空へ向かってまっすぐ飛び、途中でぐにゃりと曲がった。門に吸われ、戻され、なぜかコヨリの額へ一直線に帰ってくる。


「帰ってくるのはわたしだけでいいいいいい!」


【死亡ログ:491回目】

【死因:帰還ピンが帰還してきた】

【評価:帰還属性の誤適用】


 二回目、場所替えの杖を使って門の真下から離れようとした。振った瞬間、門に吸われていた屋根と場所が替わり、コヨリは屋根の上で一秒だけ勇者らしいポーズになった。


「高いところ苦手!」


 次の瞬間、屋根ごと吸われた。


【死亡ログ:494回目】

【死因:場所替えの杖で門の真下へ出た】

【評価:場所替え先も吸引中でした】


 何度も吸われた。吹き飛ばしの杖で自分が門へ近づき、帰還の巻物を読んだら屋根だけが先に帰り、保存壺に重りを入れて踏ん張ろうとしたら壺ごと空へ持っていかれた。


 ベルは契約書を地面へ打ちつけ、風に飛ばされないよう足で踏んでいる。

「帰還対象が定義されていません。帰る者、帰る場所、帰ってはいけないもの。その境界を分けないまま門を開けた結果です」

「神様ァ! 扉を開ける前にラベル貼って! これは人用、これは屋根用、これは小石用って!」

「小石用の帰還門は不要かと」

「でも小石が吸われてる!」



 ベルは契約書の余白に、細い字で三つの欄を書いた。


【帰る者】

【残るもの】

【絶対に吸ってはいけないもの】


「帰還という処理は、対象と除外対象を分けなければ成立しません。勇者様を帰すことと、世界を空にすることは違います。扉を開ける前に、誰が通るのか、何を残すのか、誰がそれに同意したのかを固定する必要があります」

「ベルさん、今の神様に千回くらい聞かせたい」

「千回は勇者様の死亡回数と混同されますので、抗議文では控えます」

「気遣う場所そこ!?」


 コヨリは布を広げた。最初は【わたしだけ帰る】と書こうとして、筆を止める。ログルが首を傾げた。


「迷っていますか」

「うん。わたしだけって書くと、ログルが置いていかれそうで嫌」

「ぼくは、まだ帰還対象に含まれていません」

「だから嫌なの! こういう雑な門は、言葉の穴をつついてくるんだよ!」


 コヨリは何度も書き直した。布には、消した文字の跡が薄く残る。【コヨリだけ】【ログルも】【世界は残す】【屋根は残す】【小石は残す】。最後には布の端が黒く汚れ、ログルが小さくため息をついた。


「勇者様、情報量が多すぎると、門が読めません」

「帰還門、幼女の作文くらい読んで!」


 十四回目、コヨリは帰還ピンを投げなかった。まず、吸われていくものを見る。屋根、葉っぱ、小石、村人の帽子。全部が門へ向かうように見えたが、井戸の横に置かれた古い木箱だけは動いていない。


「あれ、なんで吸われてないの」

「箱に名前が書かれています。所有者と用途が固定されているため、帰還対象から外れている可能性があります」

「名前、大事!」


 コヨリは白銀の帰還ピンに布を巻き、そこへ大きく書いた。


【帰るのはコヨリ】

【世界は吸わない】


「文章が幼女」

「分かりやすさは高いです」



 コヨリはさらに布の端へ小さく書き足した。


【屋根は家へ】

【井戸水は井戸へ】

【声は人へ】

【小石は地面へ】


「勇者様、かなり増えました」

「だって、見てたら全部かわいそうなんだもん。屋根は屋根の仕事してたし、井戸水は井戸にいたかったはずだし、小石だって急に空へ帰りたくないよ」

「小石の意思は未確認です」

「未確認だから勝手に吸わない!」


 ベルはその布を見て、ほんの少しだけ笑った。

「幼い文章ですが、契約として一番重要な部分があります。残すものを残す、と明記されています」

「ベルさんに褒められた!」

「ただし、句読点は後で直します」

「法務の赤ペンが来た!」


 ピンを投げる。門の吸引がピンを曲げようとした瞬間、【一フレームの神様】の白い線とは別の亀裂が見えた。門が世界を対象にする、その直前の揺らぎだ。コヨリは狙いを門ではなく、門の影へずらす。ピンが地面に刺さり、空の穴が一瞬だけ細くなった。


 村の屋根が落ちてくる。


「屋根、帰ってくるの早い!」


【死亡ログ:504回目】

【死因:帰還門から戻った屋根に潰された】

【評価:帰ってくる場所も確認】


 拠点へ戻ると、コヨリは額をさすりながら言った。


「帰るって、ただ開ければいいわけじゃないんだね」

「はい。何を帰すか、何を残すか。その定義が必要です」

「じゃあ神様の帰還門、雑すぎ。扉じゃなくて穴だよ、あれ」

【登場人物紹介】

コヨリ:帰還門が掃除機化した世界で、帰還対象の定義を学んだ幼女勇者。額に帰還ピンを受けすぎた。

ログル:帰還属性の誤適用と門の吸引方向を解析した相棒。名前による対象固定を見つけた。

ベル:帰る者と残すものの境界を契約目線で整理した法務担当。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:504回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【帰還ピン帰還警戒 Lv.1】【門の吸引確認 Lv.1】【帰るものを選べ Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

帰還アイテム、場所替え、吹き飛ばし、投擲物の挙動事故を、帰還門暴走シードへ変換しました。帰るための道具が自分へ帰ってくると、だいたい死にます。


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