敵が勝手にレベルアップするシード
放置した弱い敵が、勝手に育つ。
勇者が何もしていなくても、世界は詰む。
敵だけ放置系育成ゲームを始めないでください。
このシードの森は、最初だけ静かだった。
木漏れ日の下を、小さなスライムがぽよぽよ跳ねている。コヨリは思わず肩の力を抜きかけたが、その瞬間、スライムが足元のコウモリを飲み込んだ。ぽよん、と音がして、スライムの体がひとまわり大きくなる。
「ログル。今、食べた?」
「はい。敵同士の討伐により経験値が移動しました」
「わたしが何もしてないのに、敵が経験値もらってるの? ずるくない?」
「システム上は正常処理に近いです」
「正常の顔をした異常、いちばん嫌い!」
コヨリは逃げた。逃げるのは正しい。だが、背後ではスライムが黒狼に食べられ、黒狼が矢ガラスを倒し、矢ガラスを食べた黒狼が二本足で立ち上がった。
【黒狼王 Lv.8】
「成長が早い! 塾行ってる!?」
「勇者様、敵成長速度が村人訓練速度の十二倍です」
「村人が木剣を握る前に、敵が王になるやつじゃん!」
最初の死因は、うしろを振り返ったことだった。黒狼王は一歩で二マス詰めてきて、コヨリの叫びより早く牙が届いた。
【死亡ログ:463回目】
【死因:弱い敵を放置したら王になった】
【評価:育つ前に逃げる、または育てない】
二回目、コヨリは弱敵を先に倒そうとした。木の矢を番え、スライムへ向けて撃つ。矢は外れ、奥にいた【経験値喰らい】へ当たった。経験値喰らいは喜んで矢を食べ、なぜかレベルが上がる。
「矢で育つな! 栄養バランスどうなってるの!」
【死亡ログ:465回目】
【死因:経験値喰らいに矢を食べさせた】
【評価:投擲物も経験値扱いされました】
何度も死んだ。罠へ誘導した敵が、罠を踏んだ衝撃で進化した。混乱玉を投げたら、混乱した敵同士が倒し合って最終個体だけが残った。眠り玉で止めたつもりの黒狼は、寝ている間に近くの敵が勝手に倒れて経験値を吸い、起きた時には黒狼王改になっていた。
バルガは、森の端でその光景を見ていた。戦神にしては珍しく、手を出さない。ただ、育ちすぎた魔物の足跡を見て、低く言う。
「鍛錬とは、積む時間がある者の特権だ。人が鍛える前に魔物だけが育つなら、それは戦場ではなく配分の失敗だ」
コヨリは息を切らしながら、地図へ敵の成長経路を書き込んだ。矢印は何本も枝分かれし、最後は全部、深い赤い丸へつながる。
「ログル、これ、どれを止めればいいの」
「全部を止めるのは困難です。ですが、経験値喰らいを村から離すだけで、最終個体の発生場所が変わります」
「倒すんじゃなくて、育つ場所をずらす?」
「はい。勝てない敵を作らないための一手です」
コヨリは【壁ぎわ風弾】を使った。経験値喰らいを倒すためではなく、餌になる弱敵から一マスだけ離すために。風は頼りなく、敵はすぐ戻ろうとする。それでも、その一手で黒狼王が村へ向かう道から外れた。
成功したと思った瞬間、足元の小さなコウモリが、倒れていたスライムをぺろりと食べた。
【倍速コウモリ王】
「新しい王朝を始めるなあああああ!」
【死亡ログ:476回目】
【死因:経験値ルートを一つ止めたら、別ルートで王が生まれた】
【評価:敵成長事故は複線です】
拠点に戻ると、コヨリは地図を反省会テーブルへ広げ、赤い丸を全部にらんだ。
「これ、世界が滅ぶ理由、敵が強いからじゃなくて、敵だけ成長が早すぎるからだ」
「はい。村人の訓練時間より、魔物の進化時間が短すぎます」
「神様、バランス調整ヘタ! 敵だけ経験値二倍キャンペーンするな!」
【登場人物紹介】
コヨリ:敵が勝手に育つ理不尽に叫び続けた幼女勇者。放置の怖さを学んだ。
ログル:敵同士の経験値移動と成長経路を解析した相棒。敵が王になりすぎて少し嫌そう。
バルガ:敵だけ成長が速い世界を、戦場ではなく配分ミスだと断じた戦神。
【今回の勇者ステータス】
現在領域:【滅亡シード群】
領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域
死亡回数:476回
クラス:帰還者
一時役割:滅亡シード検証者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】
※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【敵レベルアップ警戒 Lv.1】【弱敵放置確認 Lv.1】【育つ場所をずらす Lv.1】
【ローグライクあるあるネタ】
敵同士の討伐や合成で強敵が生まれる事故です。弱敵を放置した結果、手に負えない上位種が誕生する流れを、世界の滅亡原因へ変換しました。
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