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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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食料が足りないシード

二つ目の滅亡シードは、鍋の底までからっぽだった。

満腹度は、勇者にも村にも平等に厳しい。

リュシア、ちょっと本気で怒ります。

 次のシードに足を下ろした瞬間、コヨリの腹が鳴った。

 いつもの空腹ではない。体の中から、すとん、と温度が落ちるような感覚があった。村の入口に立っている木の柵は半分倒れ、井戸の滑車には縄だけが揺れている。風が吹くたび、畑の土がさらさらと舞い、鼻の奥に乾いた匂いが残った。


「ログル、わたしの満腹度、何か変じゃない?」

「初期満腹度は通常値です。ただし、このシードでは食料湧きが極端に低く、行動するたびに心理的な空腹補正が入っています」

「心理的な空腹補正って何!? お腹すいた気分でお腹が減るの、だいぶ理不尽!」


 村の台所には、大鍋があった。中身は空で、底に焦げた麦の粉だけがこびりついている。窓辺には、見覚えのある少女の記録影が立っていた。ミーナに似たその子は、粉の入っていない袋を抱えたまま、炉の前で困った顔をしている。


「今日は、焼けません」


 たったそれだけの言葉なのに、コヨリの足が止まった。


「......パンを焼けないミーナ顔、つらい」

「同一人物ではありません。ですが、記録影として、過去の接触ログが混ざっています」

「分かってる。でも、分かってるって言えば平気になる仕様じゃないんだよ」


 拠点側から、リュシアが現れた。酒神なのに手に持っているのは酒瓶ではなく、湯気の立つスープ鍋だった。彼女は村の土を指でつまみ、舌打ちする。


「ちび勇者ちゃん、これは食料不足じゃなくて、食料を出さないように絞られてる世界ね。飢えを試練と勘違いした神様の自動調整が、いちばんやっちゃいけない方向へ働いてる」

「神様ァ! 飢えは難易度じゃない! ごはんは基本的人権!」


 コヨリはリュシアのスープを村人に渡そうとした。しかし、鍋を持って三歩進んだところで、床から白い数字が立ち上がる。


【満腹度:急速減少】


「え、わたしじゃなくて鍋持ってるだけで減るの!?」

「勇者様、食料運搬に重量補正が入っています」

「幼女の腕力を見てから補正して!」


 四歩目で目の前が白くなった。


【死亡ログ:435回目】

【死因:スープを村へ運ぶ途中で満腹度が切れた】

【評価:善意にも行動コストがあります】


 二回目、コヨリはスープを小分けにした。軽くなった鍋を持ち、今度こそ台所へ進む。途中で【未識別の草】を見つける。葉はぷっくりしていて、どう見ても満腹草っぽい。


「ログル、これ満腹草に見える」

「見た目は似ています」

「食べる?」

「聞く前に口へ運ばないでください」

「まだ運んでない! 口の近くで相談してるだけ!」


 相談している間に、草の根元から小さなネズミが顔を出した。丸々している。非常食みたいな丸さだった。


「......ネズミって食べられる?」

「勇者様、倫理と衛生と敵判定の三方向からおすすめしません」


 ネズミは鳴いた。次の瞬間、コヨリの満腹度がごっそり吸われた。


【死亡ログ:436回目】

【死因:満腹度吸いネズミを非常食だと思った】

【評価:丸い敵を食べ物扱いしない】


 その後も死んだ。満腹草だと思った草は【空腹草】で、腐ったパンを焼き直したら【爆裂パン】になり、村人へ渡すか自分で食べるか迷っている間に腹が鳴り、鍋を守って転んだら中身を頭からかぶった。


 ネムの受付では、死因票に【食べる前に死んだ】【食べたから死んだ】【食べなかったから死んだ】の三種類が並んだ。


「ネムさん、食事まわりの死因がひどい」

「はい。今回は食事分類が充実しています」

「充実してほしくない!」


 十四回目、コヨリは村人へスープを配るのをやめた。代わりに、台所の壁へ小さな帰還ピンを打ち、空の大鍋の底を見つめる。底の焦げ跡はただの焦げではない。白い修正線が混ざっていて、食料が湧く場所だけを丁寧に縫い潰していた。


「ここだ。食べ物がないんじゃなくて、出ないように塞がれてる」

「食料湧きポイント、確認しました」


 リュシアは鍋を置き、低い声で言った。


「主神様に伝えておきなさい。飢えは、人を強くする前に、人を人でいられなくするわ。試練という言葉で飾っていいものじゃない」


 白い窓は開かなかった。アドミニスは出てこない。その沈黙が、かえって腹立たしかった。


 コヨリは焦げた鍋底を小さく削り、白紙ログ棚へ持ち帰った。帰還直前、満腹度吸いネズミが最後の一口を狙って飛びついてくる。


【死亡ログ:448回目】

【死因:鍋底の焦げを持ち帰る直前、満腹度吸いネズミに吸われた】

【評価:最後まで食料事故】


 拠点で目を覚ましたコヨリは、リュシアにもらった甘いパンを両手で持ち、真顔で言った。


「ログル。次から、滅亡シードへ入る前におやつ持つ」

「かなり重要な作戦です」

「勇者の作戦名が、おやつ持つ、でいいのかな」

「今回に限れば、かなり強いです」


【登場人物紹介】

コヨリ:食料不足シードで、食べる・渡す・運ぶ全部に殺された幼女勇者。おやつの重要性を深く理解した。

ログル:満腹度と食料湧きの異常を解析した相棒。丸い敵を食べ物扱いしないよう止めた。

リュシア:飢えを試練扱いする神様側調整に本気で怒った酒神。今回はスープ担当。

ミーナの記録影:パンを焼けなかった村の残影。本人ではないが、コヨリには刺さった。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:448回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【自分も食べよう Lv.1】【空腹草警戒 Lv.1】【食料を渡す前にルート確認 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

満腹度管理、食料の使い惜しみ、危険な草を食べてしまう事故を滅亡シード化しました。食べるか投げるか渡すかで迷って一手遅れるのも、かなりあるあるです。


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