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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第21章 滅亡シード千本ノック――世界の死に方を識別する

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滅亡シード群へ、はいを押す

管理画面に、ようやく【いいえ】が生えた。

だからこそ、コヨリは自分で【はい】を押す。

神様、死亡ログの密度って言うな。


 神様の管理画面の奥に、黒い種が浮かんでいた。

 最初は炭みたいに見えた。けれど近づくほど、それが小さな世界の残骸だと分かってくる。黒い殻の中で、村の明かりが一瞬だけ灯り、次の瞬間には砂のように崩れた。隣の種では、空に開いた穴が畑を吸い上げている。さらに奥では、白い修正線が山を縫い合わせ、縫い目から真っ黒な煙が漏れていた。


「ログル、これ、宝箱じゃないよね。黒くて丸くて、ちょっとだけ触りたくなる形をしてるけど、宝箱じゃないよね」

「宝箱ではありません。ただし、触ったら死ぬ可能性は宝箱より高いです」

「じゃあ宝箱より悪いじゃん! 黒い世界の実みたいな顔して、宝箱より悪いじゃん!」


 床に選択肢が浮かぶ。


【滅亡シード群】

【接続しますか?】

【はい】

【いいえ】


 コヨリは、まず【いいえ】を見た。過去、無理やり作った拒否欄は、白い管理画面の中で少しだけ不格好に浮いている。字も、神様のきれいな文字ではなく、コヨリが壁に書いた時の勢いを残したままだった。


「いいえがある」

「はい。勇者様が作りました」

「じゃあ、はいもわたしのものだよね。押されたはいじゃなくて、選んだはいなら、ちょっとだけ許せる」


 ログルはすぐに止めなかった。宝石の奥で白い光が小さく揺れ、しばらくしてから、静かな声で言う。


「勇者様。ここから先は、死因が個人の失敗だけではなくなります。世界が壊れる理由を、勇者様の死亡ログで確認する領域です。ぼくは止めたい気持ちがありますが、止めてもあなたは行くと思います」

「そこまで分かってるなら、止め方がやさしい! よし、行く。神様が捨てた失敗世界を、わたしが見て、持って帰る。死に方を袋に詰める仕事は勇者の業務内容から外してほしいけど、見ないと神様に文句も言えないから!」


 白い窓が開いた。アドミニスは、いつもの軽い笑顔で手を振ってくる。


「勇者ちゃん、自分で選んだ死亡ログは密度が高いよ」

「命をプリンみたいに言うな! 密度とか食感とか、そういう話じゃないから!」

「プリンではないね。世界種の栄養に近い」

「もっと悪くなった!」


 コヨリは【はい】を踏んだ。

 床が沈み、黒い種が口のように開く。落ちる感覚はなかった。ただ、拠点の白い光が遠ざかり、次の瞬間、コヨリは小さな石畳の上に立っていた。


 目の前には看板がある。


【お試し滅亡シード】

【安全な導入です】


「安全って書いてある」

「はい」

「信じない」

「かなり正しいです」


 コヨリは小石袋改から小石を一つ取り出し、看板の前へ投げた。石は床に当たり、かちん、と軽い音を立てる。何も起きない。


「安全......?」

「勇者様、二投目をおすすめします」

「一投目で信じたら死ぬやつだね。ローグライク、そういうところある」


 二つ目の小石を投げる。看板の下から白い手が出て、石をつかんだ。

 次の瞬間、看板がものすごく丁寧な声で言った。


「お試しですので、まず一回死んでください」

「お試しの意味を辞書で調べてこいいいいいいいいいい!」


 白い手が伸び、コヨリの足首をつかむ。床に【導入用落とし穴】と表示された時には、もう遅かった。


【死亡ログ:421回目】

【死因:お試し滅亡を、お試しだと思った】

【評価:導入の顔をした本番】


 戻る。ネムの受付に、見たことのない判子が増えていた。


「コヨリさん、滅亡シード死の受付を開始しました」

「開設しないで! 仕事を増やさないで!」

「もう増えています。次の方、どうぞ」

「わたししか並んでない列で次の方って言うな!」


 それから十三回、コヨリは入口で死んだ。黒い種を宝箱感覚で触って噛まれ、キャンセルボタンに戻ろうとしてキャンセルミミックに噛まれ、戻るボタンに逃げたら初期村の黒狼前へ戻され、足元にあった【導入用睡眠床】で寝ている間に【お試し処分兵】へ運ばれた。


 十四回目。コヨリは看板を読まず、戻るボタンを見ず、黒い種にも触らず、ただ足元だけを見た。石畳の隙間に、小さな白い亀裂がある。亀裂は、世界が壊れる直前の息みたいに細く震えていた。


「ログル。今、床が壊れる前の白い線が見えた」

「【神様操作前兆】とは違います。これはシード側の破綻前兆です」

「名前、つく?」

「仮称なら」


【派生反応:滅亡前兆視認】


「見るだけで助かる?」

「いいえ」

「正直! でも、見えないよりはまし!」


 コヨリは白い亀裂を避け、黒い種の表面へ白銀の帰還ピンを刺した。今度は噛まれない。種の中から、折れた看板の破片が出てくる。


【滅亡原因メモ:選択肢があるように見せ、実際には神様側の都合へ誘導する導入設計】


「導入からズルしてるじゃん!」

 叫んだ瞬間、種が爆ぜた。コヨリはきれいに吹き飛び、白い拠点の床へ転がった。


【死亡ログ:434回目】

【死因:導入設計の破片を持ち帰ろうとして爆ぜた】

【評価:持ち帰る時も足元確認】


 それでも、コヨリの手の中には黒い破片が残っていた。ログルはそれを白紙ログ棚へ運び、神様側ではなく拠点側の棚へそっと置く。


「一個目、持って帰った」

「はい。かなり雑な入口でしたが、成果です」

「神様に見せる?」

「見せません」

「えらい!」


 黒い破片の奥で、次のシードがゆっくり開いた。そこから漂ってきたのは、焦げた土でも、血の匂いでもない。何も煮えていない鍋の、からっぽな匂いだった。

【登場人物紹介】

コヨリ:滅亡シード群へ自分の意思で入った幼女勇者。お試しという言葉を今後しばらく信用しない。

ログル:黒いシードの破綻前兆を読み、コヨリの新しい視認能力の兆しを確認した相棒。

ネム:滅亡シード死の受付を開設してしまった死神。仕事が増える速度がひどい。

アドミニス:死亡ログの密度を語って、コヨリにプリン扱いするなと怒られた主神。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【滅亡シード群】

領域状態:神域固定ダンジョン/破棄シード検証領域

死亡回数:434回

クラス:帰還者

一時役割:滅亡シード検証者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.2】

※表示は主要スキルのみです。下位・派生・細かな死因スキルは統合済み、または内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【選んだはい Lv.1】【お試し表示不信 Lv.1】

新規派生:【滅亡前兆視認 Lv.1(未確定反応)】


【ローグライクあるあるネタ】

『お試し』『チュートリアル』『安全な導入』ほど信用できない、という初見殺し系あるあるです。入口で小石確認しても、二段罠があると普通に死にます。


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