戦神バルガ、処分場を戦場に戻す
管理画面の兵士は、戦うためではなく処分するために動く。
戦神バルガ、珍しくまともに怒ります。
ただし助言はやっぱり熱いです。
仕様書図書室を抜けると、空気の硬さが変わった。そこは広い訓練場のように見えたが、足元の白い線は闘技場の境界ではなく、処理待ちの枠だった。奥に並ぶ白い兵士たちは、剣を構えていない。槍も、盾も、魔法杖も持っていない。
そのかわり、胸に【処分】と書かれた印が浮いていた。
「ログル、敵?」
「敵対存在です。ただし、戦闘モンスターではなく、管理画面の処分兵です」
「処分って、言葉がもう嫌」
処分兵は、こちらを見ても怒らない。叫ばない。殺意もない。ただ、規約違反の項目を見つけた画面みたいに、無表情で腕を上げる。天井から白い決裁印が落ちてきた。
逃げる方向は合っていた。けれど、処分命令はマスではなく理由に落ちる。わたしが「未同意保留中」という理由に引っかかった瞬間、決裁印が床ごとわたしを押しつぶした。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:339回】
【死因:白い決裁印に潰された】
【評価:印鑑も上から落ちると鈍器です】
白い拠点へ戻ると、バルガさんがいた。戦神は腕を組み、いつもの「根性で勝て」顔ではなく、かなり不機嫌そうに管理画面の入口を見ている。
「勇者娘、今のは戦いではない」
「バルガさんが、根性じゃなくて分類から入った!」
「敵が己の意思で刃を振るうなら戦場だ。だが、あの兵どもは命令で消すだけの道具にすぎん。主神殿、貴様の画面はつまらん」
アドミニスの窓が開く。神様は微笑むが、バルガさんの視線を受けても軽さを崩さない。
「でも、勇者ちゃんはよく死ぬ。戦場でも処分場でも、結果は同じじゃない?」
「結果しか見ぬから、貴様の戦場は腐る」
その言葉に、わたしもログルも黙った。バルガさんがまともなことを言うと、世界の乱数が心配になる。
「バルガさん、今日どうしたの。変な草食べた?」
「食っておらん! 俺を何だと思っている!」
「根性で毒草食べそうな神様」
「否定しきれないのが腹立たしい!」
再挑戦では、バルガさんが一手分だけ戦場視界を貸してくれた。けれど、それだけでは足りない。処分兵の攻撃は槍の軌道ではなく、決裁の線として降ってくる。
「ログル、普通の射線じゃない。白い線が、敵じゃなくて理由から来てる」
「はい。処分命令の前兆です。勇者様、【一フレームの神様】と合わせれば見える可能性がありますが、視界負荷が大きいです」
「負荷が大きいのは、もう神様関係だいたいそう!」
見た。白く焼ける一瞬の中で、処分兵の腕が上がる前に、床の【未同意】の文字から線が伸びる。それが決裁印へつながり、落下点を決めている。わたしはそこへ小石を投げず、ベルさんの契約書の端を滑らせた。
処分理由が、ずれた。
「今!」
ゼルドさんが影を広げ、処分兵の足元を一瞬止める。バルガさんの戦場視界で動くべき一マスを見て、わたしは横へ跳んだ。決裁印はわたしではなく、【処分理由未確定】の空白へ落ちる。
何度も死んだ。処分命令を避けたのに処分理由へぶつかり、戦場視界と管理画面視界を見間違え、バルガさんの熱い助言を熱く受け取りすぎて突撃した。けれど、十数回目で、処分兵の列の後ろにある【自動処分キュー】へたどり着く。
「倒さないのか」
バルガさんが聞いた。
「倒しても命令が残るなら、命令元を詰まらせる。ローグライクで敵が無限湧きするなら、湧き口をふさぐ方がいいもん」
「よい。敵の首ではなく戦場の流れを見たか」
「褒められた気がするけど、言い方が戦神で怖い!」
自動処分キューに【保留】札を詰め込むと、処分兵たちは一斉に停止した。部屋の白い圧力がふっと弱まり、出口が開く。
バルガさんは帰り際、アドミニスの窓へ背中を向けたまま言った。
「主神殿。勇者娘は弱い。だが、貴様の処分場を戦場に戻すくらいの根性はある」
「根性でまとめた!」
「最後でいつものバルガさんになった!」
【今回の勇者ステータス】
現在領域:【神様の管理画面・処分兵部屋】
領域状態:神域固定ダンジョン/自動処分キュー戦
死亡回数:352回
クラス:帰還者
一時役割:管理画面侵入者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因学習 Lv.3】
【足元確認 Lv.5】
【未識別警戒 Lv.5】
【総合盤面確認 Lv.2】
【ログ管理 Lv.2】
【監査対策 Lv.1】
【非討伐攻略 Lv.2】
【一フレームの神様 Lv.2】
※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【処分命令前兆確認 Lv.1】
新規獲得:【決裁印警戒 Lv.1】
新規獲得:【戦場と処分場の違い Lv.1】
派生獲得:【神様操作前兆 Lv.1】
【ローグライクあるあるネタ】
敵を倒しても湧き口が残るなら、発生源を止める。今回はモンスターではなく自動処分キューが湧き口でした。
【登場人物紹介】
コヨリ:処分兵を倒すのではなく、処分キューを詰まらせた幼女勇者。
ログル:処分命令の前兆を解析し、コヨリの一フレーム視界を支えた。
バルガ:珍しく真面目に怒った戦神。最後はやっぱり根性で締めた。
ゼルド:影で処分兵の足を止めた共同攻略者。
ベル:保留札と契約書で処分理由をずらした有能秘書。
アドミニス:戦場と処分場を同じ結果で見ようとした主神。
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