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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第20章 神様の管理画面――いいえはどこですか

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知識神ミネル、仕様書の削除跡を読む

仕様書図書室へ到達。

読めない文字にも、穴は残ります。

神様が消した場所ほど、怪しい。

 利用規約モンスターハウスの奥にあった扉は、紙でできていた。押すと破れそうなのに、手を伸ばすと金属みたいに冷たい。ベルさんが契約書で端を押さえ、ログルが宝石の光で文字の流れを読んでから、わたしはそっと扉を開ける。


 中は図書室だった。けれど、ただの図書室ではない。棚には本が並んでいるのに、背表紙の文字がところどころ白く抜けている。床には削り取られた紙片が積もり、歩くたびにかさりと鳴った。その音が妙に乾いていて、わたしは宝箱の呼吸より嫌なものを聞いた気がした。


「ログル、ここ、なんの部屋?」

「神様側の仕様書図書室(しようしょとしょしつ)です。世界生成、勇者召喚、魔王討伐、帰還門、死亡ログ利用に関する文書が保管されています。ただし、重要部分は削除されています」

「削除しないで! 説明書の大事なページだけ破る人、いちばん嫌われるよ!」


 眼鏡の女神ミネルさんが、棚の影から静かに現れた。いつものように分厚い本を抱えているが、今日は少しだけ眉が寄っている。


「削除された文字は読めません。ただし、どの大きさの穴が空いているかは分かります」

「知識神、穴から知識を読むの怖い!」

「正確には、欠落の形状から元の文量と項目種別を推定します。たとえば、この【魔王討伐報酬】の後ろにある空白は、報酬説明にしては大きすぎます。おそらく、帰還門の別条件が書かれていました」

「それ、めちゃくちゃ大事なやつじゃん! 消すなあああああ!」


 白い窓が、棚の上に開く。アドミニスは笑っているが、さっきまでより少しだけ声が低い。


「ミネル、それ以上は管理者権限に触れるよ」

「主神。私は文字を読んでいません。欠けた場所を見ているだけです」

「その言い逃れ、けっこう好きだけど、危ないよ」

「危ない知識を隠したのは、どなたでしょうか」


 ミネルさんの長い台詞に、わたしは思わず口を挟まなかった。いつもの説明過多なら途中で「長い!」と言うところだけれど、今はその一文一文が、削られた床を踏むみたいに怖かった。


 書架の奥で、削除済みの文字が集まって人型になる。【削除済み司書】だ。顔は空白。手には大きな白いはさみを持っている。さらに、床から【空白ページゴーレム】が立ち上がり、読もうとした本を丸ごと挟んできた。


 最初は、削除済みの穴を覗き込んで落ちた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:325回】

【死因:削除済み仕様書の穴に落ちた】

【評価:穴は文字ではありません】


 二回目は復元ボタンを押して爆発した。三回目は仕様書の紙で指を切った拍子に一手遅れ、四回目はアドミニス権限エラーに押し戻されて空白ページに挟まれた。


 白い拠点で、わたしは指に包帯を巻きながらミネルさんを見た。


「ミネルさん、仕様書って紙なのに攻撃力高いね」

「知識は刃にもなります」

「かっこいいけど、指を切った本人としてはやめてほしい」


 成功周回では、読むのをやめた。代わりに、ミネルさんが空白の縁を指し、ログルが死因ログと照合し、ベルさんが契約文として不自然な余白を拾う。ゼルドさんは魔王討伐の項目で何度も顔をしかめた。


「余、資料上では何度死んだことになっておる」

「魔王様、神様側の表記では『討伐済み想定』が複数あります」

「想定で殺すな」

「それはわたしも言いたい! 想定で死亡予定入れるな!」


 ミネルさんが、最奥の仕様書を開く。そこには、削除されていない見出しだけが残っていた。


【勇者死亡ログ】

【拠点世界種化】

【1000回閾値】


 わたしの背中が冷える。ログルが、少しだけ近づいてきた。


「勇者様。死亡ログは、ただの記録ではありません。拠点をリセット外へ育てる材料として扱われています」

「つまり、わたしが死ぬほど拠点が育つってこと?」

「はい。ただし、神様側の説明は未実施です」

「未実施じゃなくて、黙ってたって言うんだよ」


 アドミニスは答えない。白い窓の向こうで、ただ静かにこちらを見ていた。


 わたしは、削除跡だらけの仕様書をにらむ。


「世界を救いたいなら、そう言って頼んでよ。勝手に死なせて、あとから実は世界のためでしたって言われても、うれしくない」


 その言葉だけは、図書室の白い空気に吸い込まれず、しばらく残った。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【神様の管理画面・仕様書図書室】

領域状態:神域固定ダンジョン/削除済み文書地帯

死亡回数:338回

クラス:帰還者

一時役割:管理画面侵入者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【ログ管理 Lv.2】

【監査対策 Lv.1】

【一フレームの神様 Lv.2】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【削除跡読解 Lv.1】

新規獲得:【仕様書不信 Lv.1】

新規獲得:【神様の穴を見る Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

説明書や識別情報の欠落が最大の罠になる回。分からないものを無理に読もうとして死ぬのも、立派な未識別事故です。


【登場人物紹介】

コヨリ:削除済み仕様書の穴に落ちた。神様が隠した情報への怒りが強まった。

ログル:死亡ログが拠点世界種化に使われていると説明し、言葉を選んだ相棒。

ミネル:削除された文字ではなく、削除跡を読む知識神。主神への言い逃れも知的。

ゼルド:資料上で何度も討伐済み想定にされて怒った魔王。

ベル:空白を契約上の不自然さとして読む法務担当。

アドミニス:世界のためという目的を隠したまま、死亡ログを集めていた主神。


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