火を通せば安全とは限りません
逃げ芋の次は爆裂キノコ。
料理人クラスは万能ではありません。
むしろ厨房が爆発します。
逃げ芋のスープは、まずかった。
「ログル。正直に言って」
「安全性は確保されています」
「味の話をして」
「安全性は、料理において非常に重要です」
「味の話から逃げるなああああああああ!」
ミーナは、木の椀に入った薄茶色のスープを平気な顔で飲んでいる。
「まあ、食べられるね」
「その評価、料理人として一番心にくるやつ!」
「最初からうまい飯なんて作れないよ。死なない飯を作れたなら上出来さ」
「料理の合格ラインが低い!」
でも、お腹は少し落ち着いた。
満腹度は42から55へ。
口の中に土っぽさは残っているが、生きている。
この世界では、それだけで勝利と言える。
言いたくないけど。
「ログル、次は何を探す?」
「村の外れに食材反応が複数あります。ただし、敵意と爆発反応も混ざっています」
「食材反応と爆発反応を同じ畑に植えるな!」
「植えたのは神様です」
「神様ァ! 食料ガチャに爆発物を入れるなああああああああああ!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
村の外れには、畑だった場所が広がっていた。
土はひび割れている。
でも、ところどころに妙なものが生えていた。
赤いキノコが、ぷくぷく膨らんでいる。
青い草は、風もないのにゆらゆら揺れている。
白い大根みたいなものは、わたしの足音に合わせて土の中へ引っ込もうとしていた。
「ログル。食べ物に見えない」
「見た目だけで判断しない方が良いです」
「じゃあ食べられるの?」
「見た目通り、危険な可能性も高いです」
「どっち!?」
赤いキノコから三マス離れる。
第13話で学んだ。
赤いものは、だいたい何か起きる。
キノコは、だいたい裏切る。
「勇者様、足元」
「え?」
右足を下ろしかけた場所に、小さな穴があった。
底には青い粉が見える。
「罠?」
「食材変換罠のようです。踏むと、所持品が何かしらの食材に変わる可能性があります」
「便利じゃん」
「勇者様自身が食材判定される可能性もあります」
「神様ァ! 勇者を材料にするなあああああああああ!」
足を戻す。
世界はまだ止まっている。
危険地帯では、わたしが動くまで敵も罠も動かない。
でも、選べる一手は一つだけ。
後方二マスには、腹ぺこウサギ。
前には赤キノコ。
足元には食材変換罠。
「会議! ログル、会議!」
「赤キノコは爆裂反応。青い草は睡眠反応。白い大根型は逃走反応。ウサギを赤キノコへ誘導できます」
「食材を爆弾として使うの?」
「生で食べるよりは安全です」
「その比較対象、昨日のわたし!」
わたしは小石を赤キノコへ投げた。
ぽん、ではなかった。
ぼふん、と畑の一角が赤い煙に包まれる。
腹ぺこウサギが転がった。
わたしも爆風で前髪を焦がした。
「熱っ! でも生きてる!」
「爆裂キノコは食材兼投擲武器として扱えそうです」
「料理人クラスってそういう職業だっけ!?」
赤キノコの破片を拾う。
ログルが止める。
「勇者様。持ち帰るなら、袋を分けてください」
「分かってる。これは爆発するやつ。鍋に入れる時も少しだけ」
「今、鍋に入れると言いましたか」
「火を通せば安全になるって、ミーナおばちゃんが」
「食べられるものもある、と言っていました。全部とは言っていません」
「大丈夫。少しだけだから!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
パン屋の厨房で、わたしは小鍋の前に立っていた。
逃げ芋。
白大根の端っこ。
ちょっと青い草。
そして、赤キノコの破片。
「勇者様、赤キノコは別処理を推奨します」
「ちょっとだけ。ほんの少し。香りづけ」
「爆発物を香りづけに使わないでください」
「料理は挑戦だよ!」
「死亡ログに挑戦と書く準備をします」
「やめて!」
赤キノコの破片を、鍋へ入れる。
一秒。
二秒。
三秒。
鍋の中が、ぷくっと膨らんだ。
「ログル」
「はい」
「これ、煮えてる?」
「爆発前です」
「先に言ってええええええええええ!」
小鍋が跳ねた。
視界が赤く光る。
厨房の天井が遠ざかる。
ミーナの「だから言ったろうに」という声が、妙に落ち着いて聞こえた。
【死因:爆裂キノコを煮込んだ】
【評価:火を通せば何でも安全になるわけではありません】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
白い拠点で、わたしは黒いすすだらけの気分で座っていた。
実際には体は戻っている。
でも、心がすすだらけだった。
ログルが静かに言う。
「勇者様」
「はい」
「少しだけ、は危険です」
「はい」
「爆発物を鍋に入れない」
「はい」
「香りづけに爆発を使わない」
「はい」
「ログルが家庭科の先生みたいになってる!」
【死亡ログ】
死亡回数:19回目
死因:【爆裂キノコを煮込んだ】
評価:【火を通せば何でも安全になるわけではありません】
新規獲得:【加熱前確認 Lv.1】
死因図鑑室に、爆裂キノコの絵が追加された。
横には、赤い字で書かれている。
【加熱注意】
【鍋に入れるな】
【香りづけにするな】
「最後のやつ、わたし専用じゃん」
「はい」
「否定して!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
再挑戦では、赤キノコを鍋に入れなかった。
爆裂キノコは、畑でウサギを倒すために使う。
食べるものは、逃げ芋と白大根と、ログルが許可した緑の葉だけ。
できあがったスープは、相変わらず地味だった。
でも、爆発しない。
それだけで、わたしは泣きそうになった。
「ログル。爆発しない料理ってすごいね」
「普通は料理に爆発しないことを褒めません」
「このシードでは褒める!」
ログルの宝石が光った。
【新規獲得:非常食変換 Lv.1】
【新規獲得:満腹度節約 Lv.1】
【新規獲得:加熱前確認 Lv.1】
ミーナが、スープをかき混ぜながら笑った。
「失敗したぶん、覚えるさ」
「うん。鍋は爆発させない」
「そこからかい」
「そこから!」
空っぽだったパン屋に、少しだけ温かい匂いが戻った。
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv1
死亡時HP:0/15
死亡時満腹度:49/100
今回の死因:【爆裂キノコを煮込んだ】
評価:【火を通せば何でも安全になるわけではありません】
ロスト:【未登録食材一式】【小鍋の平穏】
新規獲得:【加熱前確認 Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード012
次回開始:Lv1/HP15
死亡回数:19回
クラス:勇者
クラス適性:料理人適性 強化
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【恐怖耐性 Lv.1】
【危険察知 Lv.2】
【足元確認 Lv.2】
【罠感知 Lv.1】
【未識別警戒 Lv.2】
【ミミック警戒 Lv.1】
【食材識別 Lv.1】
【死ぬ前に一言ツッコむ Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【非常食変換 Lv.1】
新規獲得:【満腹度節約 Lv.1】
新規獲得:【加熱前確認 Lv.1】
【登場人物紹介】
コヨリ:爆裂キノコを香りづけに使おうとして厨房ごと反省した幼女勇者。
ログル:鍋に爆発物を入れないでほしい解析神獣。
ミーナ:失敗した鍋も、落ち着いて片づけてくれるパン屋のおばちゃん。
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