食べ物がない村で、勇者は逃げ芋に負けました
第3章、食料不足シード開幕です。
敵がいないから安全?
いいえ、空腹と未識別食材が殺しに来ます。
白い床に、転送の光が広がった。
「ログル。今回こそ普通の村、普通の道、普通の薬草採取でお願い」
「勇者様、その発言は死亡ログ上、かなり危険です」
「出発前に縁起悪いこと言わないで!」
わたしは小さな拳を握って、足元の光をにらんだ。
レベルは1。HPは15。
死にまくった週を越えても、開始HPは15のまま。
「神様ァ! せめてHPだけでも増やして!」
白い空間に叫ぶと、どこからともなく明るい声が返ってきた。
「成長は心に残るから大丈夫!」
「体にも残してえええええええええええええええええええええ!」
叫び終わる前に、床が抜けた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次に足がついた場所は、初期村ミルカの入口だった。
村の入口には、前にも見た木の柵が立っている。
井戸も、畑も、パン屋の看板もある。
でも、わたしはすぐに足を止めた。
「ログル。変」
「はい。かなり変です」
パンの匂いがしない。
煙突から煙は上がっているのに、焼きたての匂いが村に流れてこない。
畑にいる村人たちも、鍬を持つ手に力がない。
なにより、村の子供がわたしを見ても走ってこなかった。
お腹を押さえて、じっと座っていた。
「......食べ物がない?」
「満腹度を確認してください」
【現在状態】
Lv1
HP:15/15
満腹度:42/100
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
「開始直後なのに満腹度42!?」
「今回のシード、初期満腹度が低いようです」
「神様ァ! お弁当! せめておにぎり一個おおおおおおおおおお!」
村のパン屋へ入ると、棚は空っぽだった。
焼き台はある。粉袋もある。
でも、中身がない。
「パン屋さんがパンを売ってない......」
「勇者様。泣くのはまだ早いです」
「パン屋さんがパンを売ってない世界で、何を希望に生きればいいの!?」
奥から、丸い頬のおばちゃんが出てきた。
前掛けには粉がついているが、顔には疲れが見える。
「腹が減ってちゃ、勇者もできないよ」
「おばちゃん、パンは?」
「ないよ」
「即答つらい!」
おばちゃんは棚の下から、茶色く曲がった根っこを一本取り出した。
「食べられるところだけ食べな」
「食べられるところだけって、食べられないところもあるの!?」
「あるよ」
「パン屋さんで出てくる説明じゃない!」
わたしは根っこを受け取った。
お腹が、きゅうっと鳴る。
「勇者様。すぐ食べないでください」
「分かってる。未識別は危険。食べる前に疑う。第13話で学んだもん」
「なら、手を止めてください」
「でも、お腹が減ってる時の一口って、すごく大事じゃん?」
わたしは根っこの端を、ほんの少しだけかじった。
その瞬間、根っこが叫んだ。
「ぴゃあああ!」
「食べ物が叫んだああああああああああああああ!」
根っこはわたしの手の中で暴れ、口の中に泡みたいな苦味が広がった。
足元に薄いマス目が浮かぶ。
危険地帯。
わたしが動けば、世界も動く。
「ログル! 口! 泡! 根っこが反抗期!」
「吐き出してください。右後方に腹ぺこウサギが接近しています」
「情報が多い!」
わたしは慌てて吐き出そうとした。
でも、大声を出したせいで世界が動く。
腹ぺこウサギが一マス近づいた。
根っこは手の中から逃げた。
わたしは泡でむせた。
「行動判定厳しすぎない!?」
次の一手で後ろに下がろうとして、足がもつれた。
転び慣れはある。
でも、泡でむせて、空腹で、手には暴れる根っこ。
転び慣れでは、どうにもならない時もある。
腹ぺこウサギが跳んだ。
「歯! ウサギの歯こわっ! 神様ァ! 食料不足の村に腹ぺこウサギ置くなああああああああああ!」
視界が、白く弾けた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
死亡回数:18回目
死因:【未識別の逃げ芋を生でかじり、泡でむせたところを腹ぺこウサギに襲われた】
評価:【食べる前に聞いてください】
解放候補:【食材識別 Lv.1】
白い拠点で、わたしは床に正座していた。
ログルは目の前に座り、ものすごく静かな顔をしている。
「勇者様」
「はい」
「食べる前に」
「聞きます」
「未識別を」
「かじりません」
「お腹が空いていても」
「かじりません」
「よろしい」
「ログルが先生みたいになった!」
死因図鑑室の棚に、新しい項目が増えた。
【逃げ芋:生食非推奨】
【腹ぺこウサギ:空腹時の転倒と相性最悪】
「相性最悪って、食べ合わせみたいに言わないで」
「食料不足シードなので」
「そういうところだけ章テーマに忠実!」
白い床に、また転送の光が広がる。
「再挑戦です。今度は、ミーナさんの根っこをかじる前に確認してください」
「ミーナさん?」
「パン屋のおばちゃんです」
「名前、先に聞きたかったな」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
再び村に戻ると、パン屋のおばちゃんは同じように根っこを差し出した。
「食べられるところだけ食べな」
「食べる前に聞く! わたしは学習する幼女勇者!」
おばちゃんは目を丸くして、それから笑った。
「元気だねえ。あたしはミーナだよ」
「わたしはコヨリ。こっちはログル。根っこは?」
「逃げ芋」
「名前から逃げる気満々!」
ログルが根っこをつつく。
逃げ芋はぴくっと震えたが、今度はかじらない。
【仮鑑定】
名称:【逃げ芋】
危険度:低
生食:非推奨
調理推奨:加熱
「加熱すれば食べられる?」
「少なくとも、生でかじるよりは生存率が上がります」
「味は?」
「生存率を優先しましょう」
「味の話から逃げた!」
ミーナは古い小鍋を出してくれた。
「火を通せば、食べられるものもある。食べられないものもあるけどね」
「そこは全部食べられるって言ってほしかった!」
「嘘はいけないよ」
「この世界、正直な人ほど説明がこわい!」
かまどに火が入る。
逃げ芋が鍋の中でことこと煮える。
パンはない。
でも、温かいものを作る場所は残っていた。
ログルの宝石が光る。
【新規獲得:食材識別 Lv.1】
【クラス適性:料理人 兆候】
「勇者なのに料理人?」
「このシードでは、剣より鍋の方が生存率に貢献します」
「神様ァ! 職業説明に料理人って書いておいてえええええええええ!」
ミーナが、鍋を見ながら言った。
「腹が減ってちゃ、勇者もできないよ。まずは食べな」
その言葉だけが、なぜか白い拠点の壁に残りそうな気がした。
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv1
死亡時HP:0/15
死亡時満腹度:40/100
今回の死因:【未識別の逃げ芋を生でかじり、泡でむせたところを腹ぺこウサギに襲われた】
評価:【食べる前に聞いてください】
新規獲得:【食材識別 Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード012
次回開始:Lv1/HP15
死亡回数:18回
クラス:勇者
クラス適性:料理人適性 兆候
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【恐怖耐性 Lv.1】
【危険察知 Lv.2】
【足元確認 Lv.2】
【罠感知 Lv.1】
【未識別警戒 Lv.2】
【ミミック警戒 Lv.1】
【転び慣れ Lv.1】
【死ぬ前に一言ツッコむ Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【食材識別 Lv.1】
クラス適性:【料理人】兆候発現
【登場人物紹介】
コヨリ:空腹に負けて未識別食材をかじった幼女勇者。学習はした。
ログル:食べる前に聞いてほしい解析神獣。
ミーナ:パンはないが、食べさせる気持ちはあるパン屋のおばちゃん。
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