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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第20章 神様の管理画面――いいえはどこですか

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戻るボタンは、戻してくれない

管理画面第一層へ入場しました。

戻る、閉じる、キャンセル。

便利そうな言葉ほど、神様側では信用できません。


 神様の管理画面は、白い廊下だった。壁も床も天井も、磨いた石のようにつるつるしているのに、足音だけがやけに軽く響く。魔王城の石廊下にあった湿った冷たさはなく、ここにはにおいも温度も足元のざらつきもない。だからこそ、わたしは怖かった。罠の匂いがしない罠ほど、ローグライクではだいたいひどい。


 廊下の壁には、同じ形のボタンが等間隔で並んでいた。どれも丸く、押しやすそうで、白い文字で【戻る】と書いてある。


「ログル、あの戻るボタン、押したら入口に戻る?」

「保証できません」

「戻るって書いてあるのに?」

「神様側の戻るです。勇者様にとって戻りたい場所とは限りません」

「戻るの定義から話し合いたい!」


 ゼルドさんが腕を組んだ。角の影が白い壁へ長く伸びる。魔王の影ですら、ここではなぜか輪郭が薄い。


「余の城にも脱出通路はあるが、少なくとも戻ると書いた扉は戻る場所へ続くぞ」

「魔王さんの株が、管理画面に入ってから上がり続けてる」

「勇者よ、それは喜ぶべきなのか」

「神様よりまともって意味では、かなり喜ぶべきです」

「基準が低い!」


 試しに小石を投げると、【戻る】ボタンは小さくへこんだ。次の瞬間、廊下の景色がひっくり返り、わたしは階段横の宝箱の前に立っていた。


「え」


 宝箱が呼吸した。見覚えがありすぎる呼吸だった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:283回】

【死因:戻るボタンで宝箱死へ戻された】

【評価:戻る先を確認しましょう】


 白い拠点でお茶を出してくれたネムさんは、受付票に淡々と記入する。


「コヨリさん、今回は過去死因再生型です」

「戻るって、入口に戻るじゃなくて、死因に戻るなの!? そんな戻る、いらない!」


 二回目は【閉じる】ボタンを見つけた。画面を閉じれば廊下が消えるかもしれない。そう思ったわたしは、念のため小石で確認したあと、指で押そうとした。するとボタンが足を生やして逃げた。


「逃げるな! 閉じられる側が逃げるな!」

「勇者様、追うとターンを消費します」

「分かってるけど、閉じるボタンが逃げるの腹立つ!」


 追った。案の定、床が開いた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:286回】

【死因:閉じるボタンを追いかけて監査穴に落ちた】

【評価:腹立つボタンほど追わないでください】


 その後も、キャンセルミミックに噛まれ、ヘルプを開いたら八百ページの説明書に押しつぶされ、履歴から消されかけた。ミネルさんが一度だけ白いしおりを差し込んでくれたが、そのしおりにも細かい注釈があり、読み始めるとまた満腹度が削れた。


「説明書は悪くありません。悪いのは、必要な情報を八百ページ目に置く設計です」

「ミネルさん、味方なのに耳が痛い!」


 七度目の挑戦で、ログルが白紙ログ棚から持ち込んだ小さな札を取り出した。前に、ログルが神様の選択肢に作った【いいえ】だ。白い札なのに、文字だけは黒く、少しだけ手書きに見える。


「勇者様、この【いいえ】は、神様側の正式ボタンではありません。管理画面へ貼れば、拒否欄として認識される可能性があります」

「可能性ってことは、ミミックになる可能性もある?」

「あります」

「もう全部ミミックって言ってくれた方が安心する!」


 ベルさんが契約書で【閉じる】ボタンの逃げ道を塞ぎ、ゼルドさんが影で監査穴の位置を隠した。わたしは【戻る】の横に、そっと【いいえ】を貼る。ボタンは震え、白い文字をにじませた。


【戻る】

【いいえ】


 廊下の奥に、ようやく別の道が開いた。


「ログル、今の成功?」

「はい。ただし、管理画面がかなり嫌そうです」

「画面の機嫌とか知りたくない!」


 わたしたちは進んだ。戻るボタンを押さずに前へ進むだけで、こんなに達成感があるのは、たぶん神様の画面が悪い。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【神様の管理画面・第一層】

領域状態:神域固定ダンジョン/戻るボタン罠地帯

死亡回数:296回

クラス:帰還者

一時役割:管理画面侵入者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【ログ管理 Lv.2】

【監査対策 Lv.1】

【非討伐攻略 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.2】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【戻るボタン不信 Lv.1】

新規獲得:【閉じるを追うな Lv.1】

新規獲得:【ヘルプ重量警戒 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

安全そうな操作を試した瞬間に過去の死因へ飛ばされる事故。帰還アイテムや階段と同じく、「どこへ戻るか」は確認が必要です。


【登場人物紹介】

コヨリ:戻るボタンに過去の宝箱死へ戻された。便利そうなUIを一段と信用しなくなった。

ログル:【いいえ】札を管理画面へ持ち込んだ相棒。拒否欄を作る準備を進めている。

ゼルド:魔王城の脱出通路の方がまともだと証明した魔王。

ベル:閉じるボタンの逃げ道を契約書で塞いだ法務担当。

ミネル:八百ページ説明書の問題点を真面目に指摘する知識神。

ネム:過去死因再生型の死亡受付票を作った。


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