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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第20章 神様の管理画面――いいえはどこですか

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神様の管理画面に入る前に、同意させるな

魔王生存ルートを確定したコヨリたち。

次の入口は、扉ではなく利用規約でした。

いいえがない画面は、だいたい敵です。

 裏魔王城(うらまおうじょう)の制御盤は、魔王ゼルドさんの印とベルさんの契約書を受け取ったあと、しばらく白と黒の火花を散らしていた。白は神様側の管理光で、黒は魔王城の古い制御線。そこにログルの宝石から伸びた青い記録光が混ざり、わたしの目の前に、見たくなかったくらい大きな扉が立ち上がる。


 扉そのものは、すごくきれいだった。白くて、つるつるしていて、無駄に神々しい。けれど、取っ手の位置に大きなチェックボックスがあり、その横に細かい文字がずらずらと浮いている時点で、わたしの中のローグライクゲーマー警報が全力で鳴った。


【神様の管理画面へ入場します】

【利用規約に同意してください】

【□ 同意する】


「入る前から同意を求めてくるダンジョン、性格が悪すぎる。ログル、これ押したらどうなると思う?」

「管理画面への入場権限が付与される可能性が高いです。ただし、同時に勇者様の死亡ログ利用、拠点成長率の観測、ログルの本来機能参照、魔王様の生存ルート検証に関する包括同意が含まれているようです」

「包括同意って、かわいい顔で言う言葉じゃないよ。ランドセルに爆弾つけるみたいな説明やめて」


 ベルさんが眼鏡を押し上げ、白い文字列を横から眺めた。魔王軍の有能秘書は、神様の細かい規約文を前にしても顔色を変えない。むしろ、少しだけ目つきが鋭くなった。


「勇者様、この規約は悪質です。読み終えるまでに満腹度が自然減少し、読み飛ばすと未読警告が攻撃してくる仕様です。さらに、同意欄の周囲三マスに同意床(どういゆか)が配置されています」

「満腹度で規約を読ませるな! おなかで法律バトルするゲーム、聞いたことない!」

「余の魔王軍でも、契約書を読む者に弁当くらいは出すぞ」

「魔王さんの方が神様より福利厚生ちゃんとしてるの、本当にこの世界の終わりって感じする!」


 白い窓が、扉の右上にぽんと開いた。アドミニスはいつもの軽い笑顔でこちらを見下ろしている。


「読まなくても同意できるよ、勇者ちゃん」

「いちばん信用しちゃだめな言葉! それ、お母さんが知らないアプリ入れる時に絶対怒るやつ!」

「君のお母さんは正しいね」

「正しいと思うならやるなああああああああああ!」


 最初の死亡は、ベルさんが止める前に一歩下がったせいだった。床に小さく浮いていた【同意する】の文字を踏んだ瞬間、扉から白い紙束が飛び出し、わたしをぺたんと押しつぶした。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:271回】

【死因:同意する床を踏まされた】

【評価:同意は足元にもあります】


 二回目は、規約を本気で読んだ。三行目までは耐えたけれど、四行目の「本サービスにおける死亡、消滅、再生成、記憶保持、相棒感情の扱いについて」に入ったあたりで満腹度がごりごり削れ、読み終える前におなかが空きすぎて倒れた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:272回】

【死因:利用規約を読み終える前に満腹度が切れた】

【評価:規約は非常食ではありません】


 三回目はチェックボックスに足を挟まれ、四回目は規約スクロールに巻き込まれ、五回目は読まずに進もうとして未読警告に殴られた。ネムさんが白い拠点に臨時の小さな札を置く。


「コヨリさん、今回は死因分類が早くも『押した』『読んだ』『踏んだ』に分かれています。管理画面、事務的にはかなり嫌です」

「わたしも嫌です! 神様、管理画面で殺すならせめて説明会を開いて!」

「説明会資料は八百ページあります」

「ミネルさんの親戚みたいなこと言うな!」


 六回目の挑戦で、ベルさんが規約の穴を見つけた。彼女は魔王軍の黒い契約書を広げ、神様側の白い規約の端へ、きれいな文字で【保留】と書き込む。


「同意しなければ入れない、とは書いてあります。しかし、同意しないまま保留してはならない、とは書いてありません」

「ベルさん、天才! 神様のズルを事務のズルで返してる!」

「勇者様、これは適法な保留です」

「余の秘書をズル呼ばわりするな。だが、今のは少し気持ちがいい」


 扉はしばらく震えたあと、いやそうに開いた。わたしは踏む床を指差し確認し、ログルに満腹度を確認してもらい、ゼルドさんのマントを踏まない位置で息を吸う。


「よし。神様の管理画面、入場」

「勇者様、まだ入口です」

「入口で六回死んでるんだけど!?」


 それでも、扉は開いた。白い光の奥から、冷たい風が吹いてくる。そこには剣も魔物も見えないのに、宝箱ミミックの口より嫌な気配がした。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【神様の管理画面・入口】

領域状態:神域固定ダンジョン/入場規約罠

死亡回数:282回

クラス:帰還者

一時役割:管理画面侵入者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【ログ管理 Lv.2】

【監査対策 Lv.1】

【相棒防衛 Lv.1】

【非討伐攻略 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.2】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【規約を読む場所確認 Lv.1】

新規獲得:【チェックボックス足元確認 Lv.1】

新規獲得:【同意床警戒 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

入口前の安全確認を怠ると、ダンジョンに入る前から死ぬ。今回は階段でも宝箱でもなく、規約とチェックボックスが罠でした。


【登場人物紹介】

コヨリ:入口で同意床に殺された幼女勇者。管理画面の利用規約に初見殺しの匂いを嗅ぎ取った。

ログル:規約内の包括同意を読み取り、かわいい顔で重い警告を出した解析神獣。

ゼルド:魔王軍の方が福利厚生が良いことを証明してしまった苦労人魔王。

ベル:神様の規約に【保留】を差し込んだ有能秘書。法務で神様に殴り返すタイプ。

アドミニス:読まなくても同意できるよ、と言う最悪の主神。

ネム:管理画面死因を事務分類し始めた死亡受付担当。


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