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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第19章 魔王生存ルート――倒さない魔王城

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倒さない勇者と、生きている魔王

正しい勇者になれば、魔王を斬る。

帰りたい勇者なら、魔王を生かす。

最後の一手は、攻撃ではなく証明です

 裏制御盤の前で、わたしたちはもう一度並んだ。

 ベルさんの契約書は制御盤の左端へ広げられ、ゼルドさんは魔王印を手にしている。ログルは白紙ログ棚から持ち出した未送信ログを、宝石の光で浮かべていた。わたしの手には白銀の帰還ピン。指先は少し震えているけれど、もう聖剣は見ない。


 討伐条件番人ジャッジメントは、剣を差し出したまま言う。


【勇者の勝利条件:魔王討伐】

【報酬:帰還門表層安定】

【称号:正しい勇者】


 正しい勇者。

 その文字は、思ったより胸に刺さった。わたしはずっと帰りたかった。家に帰るなら、正しい方を選んだ方がいいのかもしれない。神様が用意した道を通れば、楽になるのかもしれない。


 ゼルドさんが、静かに口を開いた。


「勇者よ。神に正しいと言われたいなら、余を斬れ。余は魔王であり、そういう役を押しつけられてきた存在だ。だが、お前が帰りたいのは、神に褒められるためではなかろう」

「......うん。わたし、正しい勇者じゃなくていい。帰る勇者でいいし、ログルを置いていかない勇者でいいし、魔王様を倒さない勇者でもいい」

「肩書きは長いが、悪くない」

「履歴書には書きにくいです」

「帰ってから考えよ」


 わたしは聖剣を蹴った。勢いが強すぎて、剣はベルさんの足元へ滑る。


「勇者様、蹴る方向」

「ごめんなさい!」

「謝罪は後で受領します。今は証明を優先してください」


 ジャッジメントが動く。白い線が空中を走り、わたしのピンへ向かってくる。神様の判定線だ。見える。見えるけれど、長く見ていると視界が焼ける。


「ログル、位置」

「ベル様の契約書端、魔王印、未送信ログ、制御盤の黒い欠け。四点が重なる一マスがあります。ただし、神様判定線が先に触れると、ピンは聖剣化します」

「分かった。敵は狙わない。制御盤も狙わない」

「では、何を狙いますか」

「魔王を倒さないっていう、わたしたちの答え」


 ベルさんが契約書を押さえる。ゼルドさんが魔王印を構える。ログルの宝石から、未送信ログが流れた。


【未送信ログ】

【魔王ゼルドは、神様運営の被害者である】

【魔王討伐は、帰還条件ではない可能性が高い】

【勇者様は、魔王を倒さない道を選んだ】


 アドミニスの窓が開く。笑っている。でも、その声は少し低い。


「勇者ちゃん。そこまでやると、本当に管理画面へ近づくよ」

「近づくために来た」

「魔王を生かす勇者は、神様側ではかなり困る」

「じゃあ成功だね」


 一度目、投げる直前に満腹度が切れて死んだ。二度目、証明点を一マス間違えた。三度目、契約書の端ではなくベルさんの袖を留めた。四度目、魔王印のインクが乾いておらず、証明がにじんだ。五度目、最後のピンを遠投しかけてログルに止められ、止まった反動で罠を踏んだ。六度目、勝利ログを拾う一手でジャッジメントに殴られた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:269回】

【死因:勝利ログを拾う一手で殴られた】

【評価:勝ってから拾いましょう】


 白い拠点で、わたしは湯のみを握ったまま深く息を吐いた。


「ログル、次で決める」

「はい。遠投の腕輪は外れています。満腹度は補給済みです。ベル様の袖ではなく契約書端を狙います。魔王印のインクは乾いています」

「最後だけすごく現実的」

「前回の死因ですので」


 七度目。

 制御盤前の空気は、さっきより重かった。ジャッジメントの剣が白く光る。アドミニスの判定線が、ピンへ向かってくる。


 わたしは【一フレームの神様】で、その白い線だけを見る。長く見ない。見るのは、貼られる直前。そこから目をそらし、反射しにくい小石袋で床を一度鳴らす。番人の剣先が半歩ずれた。


「今」


 白銀の帰還ピンを投げた。狙いは、敵ではない。制御盤でもない。ベルさんの契約書の端、ゼルドさんの魔王印、ログルの未送信ログが重なる、一マスの証明点。


 ピンは、角にも、壁にも、神様判定にも弾かれなかった。

 白い線が触れる直前、ベルさんの契約書がぴんと張り、ゼルドさんの魔王印が黒く光り、ログルの未送信ログが制御盤へ流れ込む。


【魔王ゼルド:生存】

【勇者コヨリ:非討伐】

【帰還ピン:証明点へ到達】

【魔王生存ルート:確定】

【帰還門裏制御盤:接続】


 ジャッジメントの鎧に、ひびが入った。剣は床に落ち、称号の文字が薄れていく。


【正しい勇者】


 その表示が消える前に、わたしは小さく言った。


「いらない」


 代わりに、制御盤へ新しい文字が浮かぶ。


【新領域候補】

【神様の管理画面】

【接続条件:勇者・魔王・解析神獣の三者合意】


「三者合意って、急に会議っぽい!」

「契約としては前進です」

「余、ついに帰還門の合意者になったのか」

「魔王様の扱いが、かなり重要になりました」

「魔王を倒す話、どこ行ったの!?」


 アドミニスの窓が、静かに開いた。神様は笑っている。


「そっか。魔王を生かしたんだ」

「うん」

「やっぱり、勇者と魔王を会わせすぎたかな」

「神様の後悔、ちょっと気持ちいい」

「でも、ここから先はもっと見えるよ。僕の管理画面も、君たちの間違いも」

「見に行くよ。間違いなら、自分で直す」


 窓が消えたあと、ゼルドさんがわたしを見下ろした。


「勇者よ。余は生きている」

「はい」

「倒さなかったな」

「はい。だって、倒したら帰れないし、魔王様も普通に困ってるし」

「普通に困っている魔王という表現は、やや威厳を損なう」

「でも本当です」

「否定しにくい」


 ログルが、わたしの肩に乗る。


「勇者様。死亡回数は270回です」

「まだ千回まで遠いね」

「はい。ですが、神様の正解をひとつ、確実に外しました」


 わたしは制御盤の黒い光を見た。正しい勇者じゃなくていい。帰るための道を、自分で選ぶ。魔王を倒さない一手は、白い神様の線を一つだけ切った。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【裏魔王城・生存監査区】

領域状態:神域固定ダンジョン/魔王生存ルート確定

死亡回数:270回

クラス:帰還者

一時役割:魔王護衛兼帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【ミミック警戒 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【ログ管理 Lv.2】

【監査対策 Lv.1】

【相棒防衛 Lv.1】

【一フレームの神様 Lv.2】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【証明点投擲 Lv.1】

新規獲得:【魔王生存証明 Lv.1】

新規獲得:【護衛投擲術 Lv.1】

新規獲得:【護衛魔法術 Lv.1】

更新:【非討伐攻略 Lv.1】→【非討伐攻略 Lv.2】

統合:【神様判定線視認】【攻撃しない魔法】【当てない投擲】→【非討伐攻略 Lv.2】


【帰還門情報】

魔王討伐条件:帰還条件から除外

魔王生存ルート:確定

裏魔王城制御盤:接続成功

新領域候補:【神様の管理画面】


【協力者情報】

魔王ゼルド:共同攻略者化

ベル:帰還門法務担当候補

ログル:未送信ログ使用/定期報告拒否継続


【登場人物紹介】

コヨリ:正しい勇者の称号を蹴り、倒さない証明点へ帰還ピンを投げた。

ログル:未送信ログで魔王生存証明を支えた相棒。神様側への報告拒否は継続中。

ゼルド:生きている魔王として、帰還門の合意者になった苦労人。

ベル:契約書と魔王印で、神様側の討伐条件を上書きした法務担当。

アドミニス:魔王生存ルート確定を見届け、管理画面への侵入リスクを認識した主神。


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