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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第19章 魔王生存ルート――倒さない魔王城

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知識神ミネルの欠けた攻略本

攻略本は便利です。

ただし、神様に都合の悪いページは削除済みでした。

知識神ミネル、静かに刺します。


 裏魔王城の書庫は、魔王城の中でいちばん静かな場所だった。

 壁一面の本棚には黒い背表紙の本が並び、ところどころに白い紙の帯が巻かれている。帯には【削除済み】とだけ書かれていた。ほこりは少ないのに、空気は古い。誰かが大事なところだけ消して、消した跡を片づけ忘れたような部屋だった。


「ログル、攻略本っぽい本がある」

「はい。ただし、削除済みの帯が多いです」

「神様、消すならもっときれいに消せばいいのに」

「都合の悪い知識ほど、消した跡が残るものです」


 声が本棚の影からした。

 白い髪をゆるく結んだ、静かな女神が立っている。知識神ミネル。指先には薄い紙片が何枚も浮かんでいて、目元は穏やかなのに、言葉だけがやけに鋭い。


「ミネル様」

「コヨリさん。答えは渡せませんが、欠けた形なら見せられます」

「神様の職場、権限が面倒くさすぎる」

「その感想は、概ね正しいです」


 机の上に、古い神様文書が開かれていた。


【勇者召喚手順】

【魔王討伐報酬】

【帰還門起動条件】

【削除済み】

【削除済み】

【魔王生存時のみ開く裏制御盤】


「削除済み、多すぎ!」

「知識を消すことと、知識が存在しなかったことにすることは違います。主神は前者を選びましたが、後者までは徹底していません」

「ミネル様、かなり攻めた発言ですね」

「事実を並べただけです」


 白い窓が本棚の上に開きかけたが、ミネル様が視線を向けると、窓は半分だけで止まった。アドミニスの声が少し遠くから聞こえる。


「ミネル、それ以上は権限外だよ」

「主神。知識は、隠した瞬間から痕跡になります」

「本当に、君は言い方が硬いなあ」

「硬い知識ほど、折ると音がします」


 わたしは文書の削除部分をのぞき込んだ。黒い文字の隙間に、ほんの一瞬だけ別の文が見える。


【魔王を倒した勇者】ではなく、【魔王を生かしたまま名を結んだ勇者】。


「ログル、今の」

「見えました。ただし、表示が不安定です」

「名を結ぶって、魔法?」

「帰還門制御における証明名の可能性があります」

「説明が難しい時のログルだ」


 読もうとした瞬間、本棚から白い手が伸びた。【削除済み司書】だ。顔は本の表紙で、両腕がしおりになっている。さらに、空白ページの束が集まり、ゴーレムの形になった。


「書庫の敵、見た目が勉強の悪夢」

「勇者様、削除済み司書は文字を読ませない敵です」

「本を読ませない司書、職業倫理どうなってるの!」


 わたしは【復元】と読める魔法名を唱えようとした。けれど、名前の真ん中が削除されている。嫌な予感はしたが、敵が迫っていた。


復元(ふくげん)......たぶん!」

「勇者様、たぶんで唱えないでください」


 魔法は復元ではなく爆発だった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:239回】

【死因:復元魔法だと思って爆発魔法を唱えた】

【評価:魔法名確認】


 次は削除済みの文字を指でなぞって読もうとして、文字に噛まれた。三回目は空白ページに挟まれ、四回目は攻略本の余白に落ちた。五回目は、ミネル様の「白い棚を見てはいけません。白くない棚の影を見てください」を深読みしすぎて、白い棚に正面から突っ込んだ。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:244回】

【死因:ミネルのヒントを深読みしすぎた】

【評価:知識神の暗号は、ほどほどに受け取る】


 六回目、わたしは文書を読まなかった。読む代わりに、白い帯が巻かれた本棚の影を見た。影の中に、削除されなかった文字の輪郭が残っている。


「魔王を倒す、じゃない。魔王の名前と、勇者の帰還意思を同じ制御盤に置く。ベルさんの契約書、ゼルドさんの魔王印、ログルの未送信ログ......必要なのは、討伐じゃなくて証明?」

「勇者様、その解釈なら、神様側の削除線を避けられます」


 ミネル様が、小さくうなずいた。


「答えを渡してはいません。あなたが、欠けた文字から選びました」

「その言い方、神様の権限回避として美しいですね」

「ベルさんみたいな評価しないで!」


 削除済み司書が突っ込んでくる。わたしは本を閉じず、ページの余白へ小石を投げた。文字がそちらへ集まる間に、ログルが制御盤の位置を記録する。


【帰還情報:魔王討伐条件に疑義】

【新規仮説:魔王生存証明】


 その文字を見た時、わたしは少しだけ黙った。今まで何度も、魔王を倒せば帰れると言われてきた。でも、消された文字は違うことを言っている。


「......じゃあ、わたし、最初から別の道を探してたんだ」

「はい。おそらく、勇者様はだいぶ前から、神様の道から外れています」

「外れてよかったって、初めて思った」


 書庫の奥で、白い窓が完全に閉じた。

 アドミニスは、何も言わなかった。



【今回の勇者ステータス】

現在領域:【裏魔王城・欠けた書庫】

領域状態:神域固定ダンジョン/削除済み文書領域

死亡回数:244回

クラス:帰還者

一時役割:魔王護衛兼帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【ログ管理 Lv.2】

【魔法安全確認 Lv.1】

【一フレームの神様 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【削除跡確認 Lv.1】

新規獲得:【神様文書不信 Lv.1】

新規獲得:【魔法名確認 Lv.1】

新規獲得:【削除済み詠唱警戒 Lv.1】

更新:【答えをもらわない読解 Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ:削除済み文書を読もうとして、文字と本棚と余白に負けた。

ログル:削除線の向こうに帰還情報を見つける解析神獣。

ミネル:知識神。答えは渡せないが、欠けた形を見せることでアドミニスへ刺す。

アドミニス:都合の悪い知識を消したが、消した跡までは消しきれていない主神。


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