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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第19章 魔王生存ルート――倒さない魔王城

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魔王城厨房と満腹度戦争

食べるか、投げるか、焼くか、凍らせるか。

厨房は安全地帯ではありません。

満腹度が敵になると、ツッコミも細ります。


 裏魔王城の厨房は、いい匂いと嫌な匂いが同時にした。

 煮込まれた肉の香り、香草の苦み、魔界キノコの湿った匂い。それに混ざって、腐敗床の酸っぱい空気が鍋の下から上がってくる。床の一部は黒く濡れていて、別の一部は神様側の白いタイルに張り替えられていた。


「ログル、厨房って休憩場所じゃないの」

「通常は補給地点です。ただし、裏魔王城では危険食材と満腹度罠が確認されています」

「ごはんまで敵にしないでほしい」

「食べ物を粗末にすると、だいたい死因になります」

「それは正しいけど、正しさの種類が違う!」


 拠点からリュシアさんが来ていた。腕まくりをして、酒場のエプロンをつけている。厨房の奥では、魔王軍の料理番が申し訳なさそうに鍋をかき混ぜ、ゼルドさんは妙に居心地悪そうに壁際へ立っていた。


「ちび勇者ちゃん、食べる前に疑うのは正しいわ。でも、疑いすぎて満腹度を切らしたら、ただの飢えよ。神様より先に、お腹があなたを倒しに来るわ」

「リュシアさんの正論、香りつきで痛い」

「いい匂いの正論って、逃げ場が少ないのよ」


 テーブルには未識別食材が並ぶ。


【未識別の肉】

【未識別のスープ】

【未識別のパン】

【未識別の酒】

【未識別の魔界キノコ】

【魔界豆】


 魔界豆だけは、リュシアさんが「これは投げても食べても使える」と言った。つまり迷う。


「魔界豆、食べれば満腹度が少し回復。投げれば敵が怯む。今の満腹度は?」

「37です」

「微妙! 食べたいけど、敵が来たら投げたい。投げたいけど、食べ物を投げるとあとでお腹が泣く」

「勇者様、悩んでいる間に満腹度が36になりました」

「悩みでお腹が減る世界、現実味がある!」


 厨房の奥から【腹減らしコック】が現れた。顔が鍋で、手には大きなレードルを持っている。さらに床から【満腹度吸いスライム】がぬるりと出てきた。


 わたしは、魔界豆を投げるか食べるか迷った。ほんの少しだった。でも、ローグライクのほんの少しは、だいたい命より高い。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:245回】

【死因:魔界豆を食べるか投げるか迷って満腹度切れ】

【評価:迷う前にお腹を見る】


 二回目は、【ころころ火球】で未識別肉を焼いた。肉はじゅうっと音を立て、いい匂いを出した。成功かと思った瞬間、肉の中の爆裂草成分が反応して、鍋ごと跳ねた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:246回】

【死因:ころころ火球で爆裂肉を作った】

【評価:魔法調理事故】


 三回目、【霜ふり床】で保存食を冷やそうとして、床ごと滑った。四回目、未識別スープを敵に投げたら自分にも跳ね、鈍足になって腹減らしコックに調理された。五回目、満腹度吸いスライムに魔界豆を投げたら、スライムが満腹になって巨大化した。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:249回】

【死因:満腹度吸いスライムに魔界豆を投げて育てた】

【評価:敵にも栄養があります】


 六回目、わたしはリュシアさんの隣で深呼吸した。食材を見る。床を見る。敵を見る。お腹を見る。ログルが小さくうなずく。


「魔界豆、半分食べて、半分投げるのは?」

「可能です。ただし、割る行動に一手かかります」

「その一手でコックが来る?」

「来ます」

「じゃあ、コックを一マス止める」


 わたしは【霜ふり床】を敵ではなく、コックの足元から一マス前に敷いた。コックは滑って止まり、レードルが空を切る。その隙に、魔界豆を半分口に入れた。苦い。豆というより小石に近い。


「食べ物?」

「分類上は食料です」

「分類が甘い!」


 残り半分を満腹度吸いスライムではなく、その手前の床へ投げる。スライムは豆を追って進路を変え、ベルさんの契約書壁にぺたりと張りついた。リュシアさんがそこへ酒瓶を軽く振る。瓶の中からふわっと香りが広がり、スライムが酔ったように揺れた。


「ちび勇者ちゃん、今のはいい使い方。食べ物はお腹に入れるだけじゃなく、敵の気を引くこともできるわ。ただし、最後に食べる分は残しなさい」

「はい。お腹、神様より正直」

「そこに気づけたなら、厨房で六回死んだ甲斐があるわね」

「甲斐の値段が高い!」


 厨房の奥で、ゼルドさんがぽつりと言った。


「余の城の厨房で、勇者が食育されておる」

「魔王様、いいことです」

「ベルよ、余の城は何の施設になりつつあるのだ」


 答えは出なかった。少なくとも、安全な厨房ではない。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【裏魔王城・厨房】

領域状態:神域固定ダンジョン/満腹度管理区

死亡回数:250回

クラス:帰還者

一時役割:魔王護衛兼帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【食材識別 Lv.2】

【魔法安全確認 Lv.1】

【遠隔戦術 Lv.1】

【総合盤面確認 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔界食材識別 Lv.1】

新規獲得:【疑いすぎ満腹度切れ警戒 Lv.1】

新規獲得:【投げる食材と食べる食材 Lv.1】

新規獲得:【魔法調理事故警戒 Lv.1】

新規獲得:【食材投擲判断 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:厨房で食べる・投げる・焼く・凍らせるの全部に失敗した。

リュシア:酒神。厨房ではかなり頼れるが、助言の後ろに死因がちらつく。

ゼルド:自分の城の厨房が勇者の食育施設になって困惑している魔王。

ベル:契約書壁でスライムを止めた。食材より書類の扱いがうまい。


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