戦神バルガ、倒さない戦いを見る
敵を倒せば勝ち。そうとは限らないのが裏魔王城です。
戦神バルガが見に来ました。
でも、助け方が戦神らしく不親切です。
大広間を抜けた先には、細い橋があった。
下は黒い霧で、橋の左右には白い弓兵が並んでいる。前方には【勇者補正兵】と表示された白い鎧の兵士が立ち、こちらへ剣を向けていた。名前の時点で嫌な予感しかしない。
「ログル、勇者補正兵ってなに」
「勇者様が攻撃すると、勇者の正義に反応して強化される敵のようです」
「わたしの正義、敵の栄養になってる!」
「魔王様が攻撃した場合は、神様側の警戒レベルが上がります」
「じゃあ誰が攻撃するの」
「攻撃しない方法を検討します」
「出た、難しいやつ」
ゼルドさんが剣に手をかけると、橋の上に白い警告線が走った。ベルさんが即座に手で止める。
「魔王様、ここで本気を出すと監査レーザーが来ます」
「余の城で、余が本気を出せぬとは屈辱だ」
「屈辱より生存判定を優先してください」
「今日のそなたは、そればかりだな」
「仕事です」
その時、橋の上に重い足音が響いた。空気が熱くなり、黒い霧の中から大柄な神が現れる。戦神バルガだ。前に見た時と同じく、鎧は古く、傷だらけで、目だけがまっすぐこちらを見ている。
「小さい勇者。殺せる相手を殺さぬ戦は、殺す戦より難しい」
「戦神の言葉が急に重い! あと、できればもうちょっと幼女向けに言ってください」
「敵を倒さず、盤面を倒せ」
「もっと分からない!」
「余は少し分かるぞ。だからこそ困る」
白い窓が空中に開き、アドミニスが顔を出した。
「バルガ、あまり肩入れしないでね」
「肩入れではない。貴様の用意した戦場が、あまりに片側へ傾いているだけだ」
「戦神が公平性を語るのは、ちょっと面白いね」
「戦と処分は違う。貴様は、勇者に選ばせているようで、選ぶ前の盤面を歪めている」
アドミニスは笑った。否定はしない。
バルガは、わたしへ手を伸ばした。手のひらに、小さな赤い光がある。
「一手分だけ戦場を見せる。敵を倒すためではない。倒さずに通すために使え」
「一手だけ!?」
「戦とは、一手で死ぬものだ」
「わたしの人生に刺さりすぎる!」
赤い光が目に入った瞬間、橋の上の線が見えた。白弓兵の射線、勇者補正兵の踏み込み、ゼルドさんが一歩前に出た場合の監査レーザー、ベルさんの契約結界が壁になる位置。全部が一度に見える。多すぎて、頭が熱い。
わたしは【壁ぎわ風弾】を唱え、勇者補正兵を一マスだけ横へ押そうとした。攻撃ではない。位置ずらしだ。けれど、風弾は橋の縁で跳ね、ゼルドさんの背を押した。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:233回】
【死因:壁ぎわ風弾で魔王を橋の端へ押した】
【評価:魔法で押す前に見る】
次は短弓で足元の罠を起動しようとした。矢は罠へ届いたが、連鎖した床がこちらまで割れた。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:234回】
【死因:短弓で起動した罠が自分の足元まで連鎖した】
【評価:罠の連鎖範囲確認】
三回目、小石で敵の向きを変えたら、勇者補正兵がゼルドさんの方を向いた。四回目、倒さないつもりで吹き飛ばした敵が壁にぶつかって倒れ、魔王生存ルートの判定が不穏に光った。五回目は、バルガの助言を熱血解釈しすぎて突撃し、普通に刺された。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:238回】
【死因:バルガの助言を熱血解釈して突撃した】
【評価:戦神の言葉は勢いで飲まない】
白い拠点で、わたしはバルガをじっと見た。
「戦神様、助言が濃いです」
「薄い助言で生き残るなら、ここまで死んでおらん」
「正論が武器みたいに重い!」
六回目、わたしは赤い視界をそのまま信じず、ログルの盤面確認と合わせた。敵を倒すのではなく、ベルさんの契約書壁へ誘導し、ゼルドさんには一歩だけ後ろへ下がってもらう。勇者補正兵が強化される前に、わたしは小石を敵の足元ではなく、敵の視線の先に投げた。
音に反応して、勇者補正兵が半歩ずれる。そこへベルさんの契約結界が立ち上がり、敵の進路だけが止まった。
「倒してない!」
「はい。敵は生存、魔王様も生存、進路は封鎖されています」
「やった。すごく地味に勝った!」
バルガが腕を組む。
「小さい勇者。お前は弱いが、盤面を見始めている。それは戦いの入口だ」
「褒められてる?」
「おそらく」
「おそらくなの!?」
ゼルドさんは、止まった勇者補正兵を見て小さく笑った。
「勇者よ。倒さぬ戦は、相手を生かすだけではない。自分が神の勝利条件へ入らぬ戦でもある」
「魔王様、たまにラスボスっぽくいいこと言う」
「たまにとは何だ」
「普段、苦労人なので」
「否定できぬのが悔しい」
橋の向こうに、黒い扉が開いた。そこに白い文字が浮かぶ。
【非討伐進行:確認】
アドミニスの窓はもうなかった。でも、見ている。たぶん、かなり面白がっている。
【今回の勇者ステータス】
現在領域:【裏魔王城・射線橋】
領域状態:神域固定ダンジョン/魔王生存ルート
死亡回数:238回
クラス:帰還者
一時役割:魔王護衛兼帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因学習 Lv.3】
【足元確認 Lv.5】
【未識別警戒 Lv.5】
【ミミック警戒 Lv.2】
【総合盤面確認 Lv.2】
【遠隔戦術 Lv.1】
【魔法安全確認 Lv.1】
【一フレームの神様 Lv.1】
※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【倒さない戦闘 Lv.1】
新規獲得:【魔法で押す前に見る Lv.1】
新規獲得:【投擲誘導 Lv.1】
新規獲得:【倒さない位置ずらし Lv.1】
一時補助:【一手分の戦場視界】
【登場人物紹介】
コヨリ:倒さない戦いの難しさを、橋の上で何度も体験した。
バルガ:戦神。直接助けず、一手分の戦場視界だけ渡して去る不親切な先生。
ゼルド:倒されない魔王として、非討伐の意味を語る。たまにラスボスっぽい。
アドミニス:盤面そのものを傾けている疑いが強い主神。
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