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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第19章 魔王生存ルート――倒さない魔王城

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戦神バルガ、倒さない戦いを見る

敵を倒せば勝ち。そうとは限らないのが裏魔王城です。

戦神バルガが見に来ました。

でも、助け方が戦神らしく不親切です。

 大広間を抜けた先には、細い橋があった。

 下は黒い霧で、橋の左右には白い弓兵が並んでいる。前方には【勇者補正兵】と表示された白い鎧の兵士が立ち、こちらへ剣を向けていた。名前の時点で嫌な予感しかしない。


「ログル、勇者補正兵ってなに」

「勇者様が攻撃すると、勇者の正義に反応して強化される敵のようです」

「わたしの正義、敵の栄養になってる!」

「魔王様が攻撃した場合は、神様側の警戒レベルが上がります」

「じゃあ誰が攻撃するの」

「攻撃しない方法を検討します」

「出た、難しいやつ」


 ゼルドさんが剣に手をかけると、橋の上に白い警告線が走った。ベルさんが即座に手で止める。


「魔王様、ここで本気を出すと監査レーザーが来ます」

「余の城で、余が本気を出せぬとは屈辱だ」

「屈辱より生存判定を優先してください」

「今日のそなたは、そればかりだな」

「仕事です」


 その時、橋の上に重い足音が響いた。空気が熱くなり、黒い霧の中から大柄な神が現れる。戦神バルガだ。前に見た時と同じく、鎧は古く、傷だらけで、目だけがまっすぐこちらを見ている。


「小さい勇者。殺せる相手を殺さぬ戦は、殺す戦より難しい」

「戦神の言葉が急に重い! あと、できればもうちょっと幼女向けに言ってください」

「敵を倒さず、盤面を倒せ」

「もっと分からない!」

「余は少し分かるぞ。だからこそ困る」


 白い窓が空中に開き、アドミニスが顔を出した。


「バルガ、あまり肩入れしないでね」

「肩入れではない。貴様の用意した戦場が、あまりに片側へ傾いているだけだ」

「戦神が公平性を語るのは、ちょっと面白いね」

「戦と処分は違う。貴様は、勇者に選ばせているようで、選ぶ前の盤面を歪めている」


 アドミニスは笑った。否定はしない。


 バルガは、わたしへ手を伸ばした。手のひらに、小さな赤い光がある。


「一手分だけ戦場を見せる。敵を倒すためではない。倒さずに通すために使え」

「一手だけ!?」

「戦とは、一手で死ぬものだ」

「わたしの人生に刺さりすぎる!」


 赤い光が目に入った瞬間、橋の上の線が見えた。白弓兵の射線、勇者補正兵の踏み込み、ゼルドさんが一歩前に出た場合の監査レーザー、ベルさんの契約結界が壁になる位置。全部が一度に見える。多すぎて、頭が熱い。


 わたしは【壁ぎわ風弾】を唱え、勇者補正兵を一マスだけ横へ押そうとした。攻撃ではない。位置ずらしだ。けれど、風弾は橋の縁で跳ね、ゼルドさんの背を押した。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:233回】

【死因:壁ぎわ風弾で魔王を橋の端へ押した】

【評価:魔法で押す前に見る】


 次は短弓で足元の罠を起動しようとした。矢は罠へ届いたが、連鎖した床がこちらまで割れた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:234回】

【死因:短弓で起動した罠が自分の足元まで連鎖した】

【評価:罠の連鎖範囲確認】


 三回目、小石で敵の向きを変えたら、勇者補正兵がゼルドさんの方を向いた。四回目、倒さないつもりで吹き飛ばした敵が壁にぶつかって倒れ、魔王生存ルートの判定が不穏に光った。五回目は、バルガの助言を熱血解釈しすぎて突撃し、普通に刺された。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:238回】

【死因:バルガの助言を熱血解釈して突撃した】

【評価:戦神の言葉は勢いで飲まない】


 白い拠点で、わたしはバルガをじっと見た。


「戦神様、助言が濃いです」

「薄い助言で生き残るなら、ここまで死んでおらん」

「正論が武器みたいに重い!」


 六回目、わたしは赤い視界をそのまま信じず、ログルの盤面確認と合わせた。敵を倒すのではなく、ベルさんの契約書壁へ誘導し、ゼルドさんには一歩だけ後ろへ下がってもらう。勇者補正兵が強化される前に、わたしは小石を敵の足元ではなく、敵の視線の先に投げた。


 音に反応して、勇者補正兵が半歩ずれる。そこへベルさんの契約結界が立ち上がり、敵の進路だけが止まった。


「倒してない!」

「はい。敵は生存、魔王様も生存、進路は封鎖されています」

「やった。すごく地味に勝った!」


 バルガが腕を組む。


「小さい勇者。お前は弱いが、盤面を見始めている。それは戦いの入口だ」

「褒められてる?」

「おそらく」

「おそらくなの!?」


 ゼルドさんは、止まった勇者補正兵を見て小さく笑った。


「勇者よ。倒さぬ戦は、相手を生かすだけではない。自分が神の勝利条件へ入らぬ戦でもある」

「魔王様、たまにラスボスっぽくいいこと言う」

「たまにとは何だ」

「普段、苦労人なので」

「否定できぬのが悔しい」


 橋の向こうに、黒い扉が開いた。そこに白い文字が浮かぶ。


【非討伐進行:確認】


 アドミニスの窓はもうなかった。でも、見ている。たぶん、かなり面白がっている。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【裏魔王城・射線橋】

領域状態:神域固定ダンジョン/魔王生存ルート

死亡回数:238回

クラス:帰還者

一時役割:魔王護衛兼帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【ミミック警戒 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.2】

【遠隔戦術 Lv.1】

【魔法安全確認 Lv.1】

【一フレームの神様 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【倒さない戦闘 Lv.1】

新規獲得:【魔法で押す前に見る Lv.1】

新規獲得:【投擲誘導 Lv.1】

新規獲得:【倒さない位置ずらし Lv.1】

一時補助:【一手分の戦場視界】


【登場人物紹介】

コヨリ:倒さない戦いの難しさを、橋の上で何度も体験した。

バルガ:戦神。直接助けず、一手分の戦場視界だけ渡して去る不親切な先生。

ゼルド:倒されない魔王として、非討伐の意味を語る。たまにラスボスっぽい。

アドミニス:盤面そのものを傾けている疑いが強い主神。


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