魔王軍補給庫は、店です
補給庫は倉庫ではありません。
床に商品が並んで、会計ゴーレムがいるなら、それはもう店です。
支払い前に一歩出たら終わります。
補給搬入口の奥には、魔王軍補給庫があった。
扉の上には【魔王軍備品管理室】と書いてある。けれど、中を見た瞬間、わたしのローグライクゲーマーの魂が警報を鳴らした。床には品物がきれいに並び、値札が立っていて、奥には犬の頭をした大きな会計ゴーレムが座っている。
「ログル、これ、倉庫じゃない」
「はい。店です」
「魔王軍補給庫って書いてあるよ」
「支払い判定、商品境界、会計担当、番犬がいます。分類は店です」
「魔王様、補給庫を店にするのやめてください」
「余のせいではない。補給には管理が必要なのだ」
「床に置いた時点で、管理じゃなくて事故の準備です」
値札はどれも高い。
【未識別の種:99999G】
【未識別の壺:50000G】
【未識別の腕輪:77777G】
【未識別の巻物:白紙っぽい】
【未識別の杖:残り回数?】
わたしは両手を後ろで組んだ。自分の手が信用できないからだ。
「この値段、絶対レアだよ。超天使の種かもしれないし、強化壺かもしれないし、腹減らずの腕輪かもしれない。でも裏だから、超不幸の種、割れる保存壺、呪い腕輪の可能性も同じくらいある。しかも店。店は、商品を持ったまま境界を越えた瞬間に人生が終わる」
「勇者様、かなり正しい理解です」
「褒められても触らない。今日は触らない勇者になります」
「余の補給庫で、己の手を信用しない宣言をされるとは」
「魔王様、勇者様の自己分析は的確です」
ベルさんが財布係になり、ゼルドさんが保証人として会計ゴーレムの横に立つ。魔王が自分の補給庫で保証人をする絵面は、なかなか珍しかった。ネムさんがいれば死亡受付票に「珍事」と書いたかもしれない。
わたしは確認用の小石を一つ、床の境界線へ転がした。罠確認のつもりだった。小石は商品には当たらず、境界線の手前で止まる。よし、と小さく息を吐いた瞬間、床の黒いマスがぬるりと動いた。
「場所替え床です!」
「なんで店内に場所替え床があるの!?」
わたしと【未識別の腕輪】の位置が入れ替わった。腕輪は境界線の外へころん、と転がる。
【無断持出判定】
番犬会計ゴーレムの目が赤く光った。
「持ってない! わたし持ってない! 腕輪が勝手に出た!」
「勇者様、商品境界を越えています」
「商品が! 商品が勝手に!」
【死亡ログ】
【累計死亡回数:221回】
【死因:場所替え床で商品を店外へ出した】
【評価:盗む気がなくても盗難判定です】
次の周回では、場所替え床を避けた。わたしは偉い。けれど、今度は小石が値札に当たり、値札が倒れて未識別の壺を押し出した。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:222回】
【死因:値段確認用の小石で商品を店外へ出した】
【評価:店内投擲禁止】
三回目、わたしは小石も投げなかった。なのに、未識別の腕輪があまりにも魅力的で、見ているだけのつもりが一歩近づいた。ベルさんが静かに言う。
「勇者様、距離が近いです」
「見てるだけです」
「その台詞は、補給庫事故の直前に多いです」
「ベルさん、買い物中の正論やめて」
我慢した。そこまでは本当に頑張った。けれど、足元の床に【試着歓迎】と小さく書いてあるのを見てしまった。気づいた時には、腕輪が手首に収まっていた。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:223回】
【死因:未識別の腕輪を試着したら呪われた】
【評価:試着する前に財布と呪い確認】
四回目は、眠り玉で番犬を眠らせようとして、会計ゴーレムに当たった。営業妨害扱いで死亡。五回目は、保存壺を投げて確認しようとして割った。六回目は、遠投の腕輪を外し忘れて、支払い前の商品を番犬の口へ投げた。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:226回】
【死因:遠投の腕輪を外し忘れ、支払い前の商品を番犬の口へ投げた】
【評価:遠投は親切ではありません】
白い拠点に戻ったわたしは、両手を頭の上に乗せた。
「ログル、補給庫は敵?」
「店です」
「店は敵?」
「状況によります」
「わたしには敵だった」
「かなり敵でした」
それでも、成果はあった。反省会テーブルに、ベルさんが補給庫の境界線を赤く引いてくれた。ログルは、商品に小石を当てるな、と書き足す。ゼルドさんは何か言いたそうにしていたけれど、わたしの死亡ログを見て黙った。
「魔王様、補給庫に罠が多すぎます」
「本来、勇者が補給庫で買い物をする想定ではない」
「じゃあ神様が悪いですね」
「そこは同意する」
天井に白い窓が開く。アドミニスが、にこにことこちらを見ていた。
「勇者ちゃん、すごいね。盗む気がないのに盗難ログを六種類も出せた」
「褒める場所が最低!」
「でも、盗み判定の境界を覚えたでしょ」
「覚えたよ。死んで覚えたよ。神様の教材、毎回わたしを削りすぎ!」
わたしは補給庫地図の端に、かなり強い筆圧で書き込んだ。
【店内で投げない】
【商品に近づく前に財布】
【遠投の腕輪を外す】
短いメモだけど、血の味がした。いや、受付のお茶の味かもしれない。
【今回の勇者ステータス】
現在領域:【裏魔王城・魔王軍補給庫】
領域状態:神域固定ダンジョン/店判定あり
死亡回数:226回
クラス:帰還者
一時役割:魔王護衛兼帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因学習 Lv.3】
【足元確認 Lv.5】
【未識別警戒 Lv.5】
【ミミック警戒 Lv.2】
【総合盤面確認 Lv.2】
【遠隔戦術 Lv.1】
【ログ管理 Lv.2】
【一フレームの神様 Lv.1】
※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【店内境界確認 Lv.1】
新規獲得:【商品に小石を当てるな Lv.1】
新規獲得:【店内投擲禁止 Lv.1】
更新:【遠投の腕輪装備確認 Lv.1】→【遠投の腕輪装備確認 Lv.2】
【登場人物紹介】
コヨリ:買い物をするだけで六回死んだ。手を後ろに組んでも、床と商品が事故る。
ログル:補給庫を冷静に店分類した。店内投擲禁止の看板を書きたい。
ゼルド:自軍補給庫で勇者が死にまくるのを見た魔王。神様への同意が増えた。
ベル:財布係兼法務担当。正論でコヨリの欲望を刺してくる。
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