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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第19章 魔王生存ルート――倒さない魔王城

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魔王軍補給庫は、店です

補給庫は倉庫ではありません。

床に商品が並んで、会計ゴーレムがいるなら、それはもう店です。

支払い前に一歩出たら終わります。


 補給搬入口の奥には、魔王軍補給庫があった。

 扉の上には【魔王軍備品管理室】と書いてある。けれど、中を見た瞬間、わたしのローグライクゲーマーの魂が警報を鳴らした。床には品物がきれいに並び、値札が立っていて、奥には犬の頭をした大きな会計ゴーレムが座っている。


「ログル、これ、倉庫じゃない」

「はい。店です」

「魔王軍補給庫って書いてあるよ」

「支払い判定、商品境界、会計担当、番犬がいます。分類は店です」

「魔王様、補給庫を店にするのやめてください」

「余のせいではない。補給には管理が必要なのだ」

「床に置いた時点で、管理じゃなくて事故の準備です」


 値札はどれも高い。


【未識別の種:99999G】

【未識別の壺:50000G】

【未識別の腕輪:77777G】

【未識別の巻物:白紙っぽい】

【未識別の杖:残り回数?】


 わたしは両手を後ろで組んだ。自分の手が信用できないからだ。


「この値段、絶対レアだよ。超天使の種かもしれないし、強化壺かもしれないし、腹減らずの腕輪かもしれない。でも裏だから、超不幸の種、割れる保存壺、呪い腕輪の可能性も同じくらいある。しかも店。店は、商品を持ったまま境界を越えた瞬間に人生が終わる」

「勇者様、かなり正しい理解です」

「褒められても触らない。今日は触らない勇者になります」

「余の補給庫で、己の手を信用しない宣言をされるとは」

「魔王様、勇者様の自己分析は的確です」


 ベルさんが財布係になり、ゼルドさんが保証人として会計ゴーレムの横に立つ。魔王が自分の補給庫で保証人をする絵面は、なかなか珍しかった。ネムさんがいれば死亡受付票に「珍事」と書いたかもしれない。


 わたしは確認用の小石を一つ、床の境界線へ転がした。罠確認のつもりだった。小石は商品には当たらず、境界線の手前で止まる。よし、と小さく息を吐いた瞬間、床の黒いマスがぬるりと動いた。


「場所替え床です!」

「なんで店内に場所替え床があるの!?」


 わたしと【未識別の腕輪】の位置が入れ替わった。腕輪は境界線の外へころん、と転がる。


【無断持出判定】


 番犬会計ゴーレムの目が赤く光った。


「持ってない! わたし持ってない! 腕輪が勝手に出た!」

「勇者様、商品境界を越えています」

「商品が! 商品が勝手に!」


【死亡ログ】

【累計死亡回数:221回】

【死因:場所替え床で商品を店外へ出した】

【評価:盗む気がなくても盗難判定です】


 次の周回では、場所替え床を避けた。わたしは偉い。けれど、今度は小石が値札に当たり、値札が倒れて未識別の壺を押し出した。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:222回】

【死因:値段確認用の小石で商品を店外へ出した】

【評価:店内投擲禁止】


 三回目、わたしは小石も投げなかった。なのに、未識別の腕輪があまりにも魅力的で、見ているだけのつもりが一歩近づいた。ベルさんが静かに言う。


「勇者様、距離が近いです」

「見てるだけです」

「その台詞は、補給庫事故の直前に多いです」

「ベルさん、買い物中の正論やめて」


 我慢した。そこまでは本当に頑張った。けれど、足元の床に【試着歓迎】と小さく書いてあるのを見てしまった。気づいた時には、腕輪が手首に収まっていた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:223回】

【死因:未識別の腕輪を試着したら呪われた】

【評価:試着する前に財布と呪い確認】


 四回目は、眠り玉で番犬を眠らせようとして、会計ゴーレムに当たった。営業妨害扱いで死亡。五回目は、保存壺を投げて確認しようとして割った。六回目は、遠投の腕輪を外し忘れて、支払い前の商品を番犬の口へ投げた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:226回】

【死因:遠投の腕輪を外し忘れ、支払い前の商品を番犬の口へ投げた】

【評価:遠投は親切ではありません】


 白い拠点に戻ったわたしは、両手を頭の上に乗せた。


「ログル、補給庫は敵?」

「店です」

「店は敵?」

「状況によります」

「わたしには敵だった」

「かなり敵でした」


 それでも、成果はあった。反省会テーブルに、ベルさんが補給庫の境界線を赤く引いてくれた。ログルは、商品に小石を当てるな、と書き足す。ゼルドさんは何か言いたそうにしていたけれど、わたしの死亡ログを見て黙った。


「魔王様、補給庫に罠が多すぎます」

「本来、勇者が補給庫で買い物をする想定ではない」

「じゃあ神様が悪いですね」

「そこは同意する」


 天井に白い窓が開く。アドミニスが、にこにことこちらを見ていた。


「勇者ちゃん、すごいね。盗む気がないのに盗難ログを六種類も出せた」

「褒める場所が最低!」

「でも、盗み判定の境界を覚えたでしょ」

「覚えたよ。死んで覚えたよ。神様の教材、毎回わたしを削りすぎ!」


 わたしは補給庫地図の端に、かなり強い筆圧で書き込んだ。


【店内で投げない】

【商品に近づく前に財布】

【遠投の腕輪を外す】


 短いメモだけど、血の味がした。いや、受付のお茶の味かもしれない。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【裏魔王城・魔王軍補給庫】

領域状態:神域固定ダンジョン/店判定あり

死亡回数:226回

クラス:帰還者

一時役割:魔王護衛兼帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【ミミック警戒 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.2】

【遠隔戦術 Lv.1】

【ログ管理 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【店内境界確認 Lv.1】

新規獲得:【商品に小石を当てるな Lv.1】

新規獲得:【店内投擲禁止 Lv.1】

更新:【遠投の腕輪装備確認 Lv.1】→【遠投の腕輪装備確認 Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ:買い物をするだけで六回死んだ。手を後ろに組んでも、床と商品が事故る。

ログル:補給庫を冷静に店分類した。店内投擲禁止の看板を書きたい。

ゼルド:自軍補給庫で勇者が死にまくるのを見た魔王。神様への同意が増えた。

ベル:財布係兼法務担当。正論でコヨリの欲望を刺してくる。


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