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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第19章 魔王生存ルート――倒さない魔王城

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裏魔王城は、正門から入ると負ける

正面玄関が親切な時ほど、だいたい罠です。

魔王城の正門が、なぜか勇者向けに改装されていました。

神様の営業努力が怖い。


 裏魔王城は、遠くから見るとゼルドさんの城だった。

 黒い尖塔、赤黒い旗、巨大な門。そこまでは魔王城らしい。けれど、近づくにつれて、ところどころに白い神様の飾りが混ざっているのが分かる。門柱には天使っぽい羽根の意匠が貼られ、赤い絨毯の上には、やけにきれいな矢印が描かれていた。


【勇者はこちら】

【魔王討伐ボーナスあり】

【聖剣貸出中】


 わたしは矢印の前で止まった。


「ログル、地図に赤い×を書いて」

「はい。正門、勇者誘導門、聖剣貸出カウンターに危険印を付けます」

「あと、看板に『親切すぎる』って書いて」

「分類は罠ですか」

「罠の上位種。営業スマイル罠」


 ゼルドさんが、門を見上げて額を押さえた。


「余の城の正門が、完全に神様側の観光案内所になっておる。魔王城の威厳が、聖剣貸出中の一文でだいぶ削られたぞ」

「魔王様、苦情窓口を設置しますか」

「相手が神では、苦情の宛先が面倒だ。そもそも、神は苦情を仕様確認に分類するであろう」

「かなり理解が深いですね」

「理解したくなかった」


 ベルさんの書類が、風もないのにぱらりとめくれる。そこには、裏魔王城の簡易地図があった。正門から入るルートはまっすぐで、いかにも簡単そうに見える。その簡単さがもう怖い。


 わたしは小石袋改から小石を一つ取り出し、正門前の白い柱へ投げた。罠確認用の、いつもの手順だった。小石は柱に当たり、乾いた音を立てる。そこまではよかった。


 次の瞬間、小石はなぜかゼルドさんの角に当たり、きれいな角度で跳ね返ってきた。


「え、角で反射するの!?」

「勇者様、頭を下げてください」


 ログルの声を聞いてしゃがんだつもりだった。けれど、小石はわたしの額に軽く当たり、その衝撃で一歩下がった先に白い矢印床があった。


【勇者誘導門、起動】


「あ」


【死亡ログ】

【累計死亡回数:215回】

【死因:小石が魔王の角で跳ね返り、勇者誘導門を起動した】

【評価:投げる前に角を見る】


 白い拠点で目を覚ましたわたしは、ゼルドさんを見た。


「魔王様の角、地形?」

「余は地形ではない」

「でも反射判定ありました」

「ログルまで言うな」


 二回目は、角を避ける軌道で小石を投げた。今度は柱に当たった小石が床へ転がり、聖剣貸出カウンターのベルを鳴らした。


【貸出処理を開始します】


 カウンターから白い聖剣が飛び出し、わたしの手に収まろうとする。受け取ったら、たぶん魔王討伐行動にされる。わたしは必死で手を後ろに組んだ。


「ログル、手を使わない方法!」

「避けるなら左へ一マスです。ただし、ベル様の契約書壁があります」

「ベルさん、壁しまって!」

「契約書は一度展開すると、最低一ターンは壁として有効です」

「有効が邪魔!」


 左へ避けようとして契約書壁にぶつかり、そのまま聖剣の鞘に足を取られた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:216回】

【死因:聖剣貸出カウンターで足を取られた】

【評価:無料貸出ほど危険です】


 その後も、正門の勝利ファンファーレに気を取られて白聖騎士に刺され、補給搬入口へ逃げようとして番犬ゴーレムに勇者臭で噛まれ、射線を読んだのにゼルドさんの角で敵弓兵が見えず、合計六回死んだ。


 六回目の受付を終えて戻ると、反省会テーブルにはかなり汚い地図が広がっていた。正門には赤い×、聖剣カウンターには黒いドクロ、ゼルドさんの角が邪魔をした場所には、ログルが勝手に小さな角マークを描いている。


「ログル、この角マーク、便利だけど失礼じゃない?」

「実用性を優先しました」

「余の角を地図記号にするな」

「魔王様、かなり再現性の高い障害物です」

「ベルまで実用性で殴るな」


 結局、正門は捨てた。ベルさんが地図の裏側を指でなぞると、補給搬入口の横に細い作業通路が見つかる。床は汚れていて、壁には魔王軍の古い荷物札が残っていた。神様の白い装飾が届いていない、いかにも魔王城らしい隙間だ。


「ここなら、神様の勇者誘導が薄いかもしれません」

「薄いってことは、ゼロじゃないんだよね」

「ゼロではありません。床に小さな【正しい勇者はこちら】の矢印があります」

「神様の営業、しつこい」


 わたしは地図の端に、少し小さく書いた。


【親切すぎる正門は行かない】

【小石を投げる前に、魔王の角を見る】


 ゼルドさんはその文字を見てから、ため息をついた。


「勇者に守られるだけでも複雑なのに、角まで攻略情報にされた。余の魔王としての尊厳は、どこへ行けばよい」

「たぶん、神様への苦情窓口です」

「やはり宛先が面倒ではないか」


 白い窓が空に開いた。アドミニスが、楽しそうにわたしたちの地図を見下ろしている。


「いいね。正門を疑えた。勇者ちゃん、また少し神様の正解から外れたよ」

「褒め方が黒幕のそれ!」


 わたしは地図を丸めて、小脇に抱えた。正しい勇者の道は、通らない。汚れた作業通路から入る勇者がいたっていい。

【今回の勇者ステータス】

現在領域:【裏魔王城・外縁】

領域状態:神域固定ダンジョン/魔王生存ルート

死亡回数:220回

クラス:帰還者

一時役割:魔王護衛兼帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【ミミック警戒 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【ログ管理 Lv.2】

【監査対策 Lv.1】

【一フレームの神様 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【勇者誘導警戒 Lv.1】

新規獲得:【投げる前に角を見る Lv.1】

新規獲得:【契約書壁警戒 Lv.1】

新規獲得:【魔王の角越し射線確認 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:正門の親切さを見て即座に疑えるようになった。成長方向は正しいが、死亡回数も正しく増える。

ゼルド:自分の城で、自分の角を地図記号にされた魔王。苦情先が神様なので詰んでいる。

ベル:契約書を壁にできる有能秘書。便利だが、コヨリの進路もふさぐ。

アドミニス:正しい勇者ルートを用意し、外れるコヨリを観測して笑っている主神。


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