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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第19章 魔王生存ルート――倒さない魔王城

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魔王を倒すな

魔王を倒せば帰れる。そんな説明を信じていた時期もありました。

でも、神様の正解はだいたい疑った方がいい。

今回は、魔王を守る勇者です。

 白紙ログ棚の上に、白い封筒が落ちていた。

 落ちていた、というより、神様がわざと見える場所に置いた、という感じだった。封筒の角は妙にきれいで、紙なのに影がない。こういうものは、だいたい開けたら面倒が始まる。


「ログル」

「はい」

「開ける前から嫌な予感がする」

「かなり正しい予感です。封筒の表面に、主神アドミニスの監査印があります」

「じゃあ開けない」

「開けない場合、封筒が自動開封されます」

「神様ァ。選択肢の皮をかぶった一本道やめて」


 コヨリが指先で封筒をつつくと、紙がひとりでにほどけた。中から出てきた文字は、白紙ログ棚の前で待っていたネムさん、リュシアさん、ゼルドさん、ベルさんの前にも浮かび上がる。


【次段階】

【魔王生存ルート検証】

【条件:魔王ゼルドを生存させたまま、裏魔王城へ接続してください】


 わたしは三回読んだ。三回読んでも、意味が変わらなかった。


「ログル、これ、魔王を倒せじゃないよね。わたしの目が、宝箱死の後遺症でおかしくなったわけじゃないよね」

「はい。表示は、魔王ゼルドを生存させたまま、と読めます」

「勇者なのに?」

「勇者なのに、です」


 ゼルドさんが、腕を組んだまま深くため息をついた。黒い外套の襟元には、いつも通り魔王らしい金糸の刺繍がある。本人は威厳を出そうとしているのに、肩に乗った苦労が重すぎて、拠点の相談窓口にいる管理職に見えた。


「余は魔王である。守られる対象ではない。勇者に護衛される魔王など、魔王史に残すにはあまりに気まずい」

「魔王様、神様側の条件により、今回は重要保護対象です。気まずさより生存判定を優先してください」

「ベルよ。そなたは時々、余の威厳を帳簿の余白に置いてくるな」

「必要なら、あとで回収します」


 ベルさんは涼しい顔で書類を整えている。サキュバス秘書という肩書きなのに、今日の色気は法務部の圧に負けていた。いや、これはこれで強い。


 リュシアさんは酒場のカウンターから大きな布袋を持ってきた。中には眠り玉、小石袋改、短弓、こども杖、魔界豆の小袋が入っている。


「ちび勇者ちゃん、魔王様を守るなら、遠くから止める手段は多い方がいいわよ。ただし、食べ物を投げる前には、食べた方がいい場面かも考えなさい。満腹度って、だいたいツッコミより先に尽きるから」

「リュシアさんの助言、やさしいのに死因の匂いがする」

「経験者っぽい顔をしているわね」

「わたし、食べ物をケチって死んだことも、投げて後悔したこともあります」

「立派ね。立派な方向がかわいそうだけど」


 わたしは袋の中身を一つずつ反省会テーブルへ並べた。短弓を置くと、ゼルドさんが少し身を引く。眠り玉を置くと、ネムさんが受付票を一枚増やした。


「ネムさん、なんで今増やしたの」

「眠り玉は、味方に当たると死亡受付が増えやすいので」

「事務の未来予測が暗い!」


 そのとき、拠点の天井に白い窓が開いた。アドミニスが、まるで見学授業の先生みたいに笑っている。


「やあ、勇者ちゃん。魔王を守れるかな」

「神様が楽しそうなのが一番嫌。魔王を倒す勇者は管理しやすいけど、魔王を守る勇者は困る、とか言うつもりでしょ」

「先に言われると、少しだけ言いにくいな。でも、だいたい正解だよ。魔王を倒す勇者は、物語の枠に収まる。魔王を守る勇者は、世界の定義を壊す」

「その定義を最初に雑に作ったの、神様でしょ」

「うん。だから、壊されるところまで見たいんだ」


 軽い声だった。けれど、窓の向こうの目だけは、死亡ログを数えていた時と同じ冷たさを持っている。


 わたしは短弓を持ち上げ、弦を軽く引いた。試し撃ちのつもりで壁際の的へ向ける。ログルが言うより早く、弓から木の矢が飛び、ゼルドさんのマントの端を縫い止めた。


「......勇者よ」

「ごめんなさい。今のは、魔王討伐じゃなくて布地討伐です」

「余のマントは魔王軍備品である」

「補給庫案件です」

「ベルさん、今すぐ法務にしないで!」


 矢を抜こうとして、わたしはマントに足を取られた。あ、と思った時には、眠り玉の袋を踏み抜いている。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:211回】

【死因:魔王護衛用に並べた眠り玉を踏んだ】

【評価:準備中もダンジョンです】


 白い拠点に戻ると、ネムさんが何も言わずに受付票へ判を押した。


「ネムさん、無言がつらい」

「準備中死亡は、分類上かなりよくあります」

「分類されてるのがもっとつらい!」


 その後も、魔王HPバーを見て固まり、ゼルドさんが保護対象なのに前へ出て、さらに【魔王を倒すな】と書かれた看板にぶつかって、わたしは合計四回、白い受付机の前に座ることになった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:214回】

【死因:魔王を倒すな看板にぶつかった】

【評価:看板も盤面です】


 四回目の受付を終えたあと、わたしは反省会テーブルに大きく書いた。


【魔王は敵じゃない。今回だけじゃなく、たぶん本当に】


 ゼルドさんはその文字をしばらく見てから、ふっと笑った。


「勇者よ。魔王を守る道は、勇者にとって恥ではない。神が用意した勝利条件を疑えるなら、それはもう立派な反逆だ」

「反逆って言葉、ちょっとかっこいいけど、わたしの身長で言うと反抗期くらいになりません?」

「神に対する反抗期なら、十分に歴史的であろう」


 アドミニスの窓は、まだ開いていた。神様は笑っている。

 でも、ほんの少しだけ、笑い方が薄くなっていた。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【白い拠点/魔王生存ルート準備】

領域状態:裏魔王城接続前

死亡回数:214回

クラス:帰還者

一時役割:魔王護衛兼帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【ミミック警戒 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【ログ管理 Lv.2】

【監査対策 Lv.1】

【相棒防衛 Lv.1】

【一フレームの神様 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔王保護対象確認 Lv.1】

新規獲得:【味方HPバー警戒 Lv.1】

新規獲得:【準備中も足元確認 Lv.1】

死亡ログ追加:【魔王護衛用に並べた眠り玉を踏んだ】ほか


【登場人物紹介】

コヨリ:魔王を守る勇者という肩書きに、早くも職業欄の破綻を感じている幼女勇者。

ログル:魔王護衛の盤面確認を担当する解析神獣。相変わらず正論が痛い。

ゼルド:守られることになった苦労人魔王。威厳と保護対象欄の間で揺れている。

ベル:魔王軍秘書。保護対象、契約、補給庫規則を淡々と整理する毒舌法務枠。


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