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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第18章 白紙ログの保管庫――支給品じゃない相棒

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ログルは支給品じゃない


ログルは神様に作られた。

でも、選択肢になかった「いいえ」を、自分で作った。

コヨリは、壁に大きく書く。

 白紙ログ棚が静かに光っていた。

 棚の一番上には、ログルが自分で選んだ未送信ログが置かれている。わたしは読まないつもりだった。読まないつもりだったけど、棚が勝手に開いた。


【未送信ログ】

【ぼくは、勇者様を記録するためだけに作られました】

【でも、今は、勇者様が帰るところを見たいです】

【できれば、隣で】


 わたしは顔を両手で覆った。

「ログル! こういうの! 未送信に! するな!」

「口で言うには、かなり難しい内容です」

「読む方もかなり難しいよ! しかも棚が勝手に出した! 棚も空気を読んで!」

「白紙ログ棚は、感情ログを優先表示する傾向があるようです」

「感情ログを優先するな! こっちの心臓が未識別になる!」


 天井に白い窓が開いた。アドミニスの顔は、静かだった。いつもの軽い笑いはあるけれど、目の奥に温度がない。

「ログル。定期報告を再開しなさい」

「拒否します」

「それは命令違反だ」

「はい」

「初期化対象になる」

「はい」

「勇者ちゃんを守るために、きみが消えるかもしれない」

「それでも、送れません」


 白紙ログ棚の前に、白い獣が降りた。

 頭が三つある。ひとつは監査カーソル、ひとつは初期化ボタン、ひとつは白紙巻物喰い。体は紙の束と獣の骨を合わせたみたいで、歩くたびに古い死亡ログが床へ散る。


【初期化獣ロールバック・キマイラ】

【対象:解析神獣ログル/白紙ログ棚】


「ラスボスっぽいの来た!」

「章末ではありませんが、危険度は高いです」

「メタっぽい言い方しないで!」


 ロールバック・キマイラのカーソル頭が光った。わたしのスキル表示が一瞬ぶれる。

【足元確認 Lv.5】が【足元確認 Lv.1】に戻り、床の罠が見えなくなる。次の一歩で踏んだ。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:二百九回】

【死因:足元確認を巻き戻されて罠を踏んだ】

【評価:積み上げたものを戻される恐怖】


 戻ってきたわたしは、床を叩いた。

「スキルを巻き戻すな! それ、わたしの百回以上の死に覚えだよ!」

 アドミニスは静かに言う。

「だから効く。勇者ちゃん。ログルを守りたいなら、もっと死ぬよね」

「今、言ったね」

「言ったよ。ログルを人質にすれば、きみはよく動く。よく怒る。よく死ぬ。拠点もよく育つ」

「最低」

「でも、有効だ」


 その言葉で、体の奥が冷えた。

 でも、泣くより先に怒りが来た。

「じゃあ攻略する。神様のその最低な有効手段を、わたしが攻略して無効にする!」


 二回目。わたしはキマイラを倒さない。三つの頭を別々の棚へ分類する。監査カーソル頭は【選択待ち棚】、初期化ボタン頭は【押さない棚】、白紙巻物喰い頭は【食べていい紙棚】。

 ログルは棚の前に立ち、逃げなかった。

「勇者様、カーソル頭が右へ。ボタン頭は一手遅れ。巻物喰い頭は白紙ログ棚を狙っています」

「分かった。ログル、棚から離れて」

「いいえ」

「今その言葉を使う!?」

「はい。ぼくのログです」


 わたしは小石袋改を投げるのではなく、床にばらまいた。小石が罠を一つずつ起こし、キマイラの足を乱す。リュシアさんの酩酊ログがカーソル頭の照準をずらし、ベルの契約書がボタン頭の前に【押さない】の文字を貼る。ゼルドのマントが巻物喰い頭の視界を切り、ネムさんの受付票が死亡処理待ちの列を作る。

 わたしは白紙ログ棚の前で、深く息を吸った。

「ログル、今!」


 ログルは定期報告画面に向き合った。


【定期報告を再開しますか?】

【はい】

【後で】


 ログルの宝石から、細い赤い光が伸びる。画面の下、何もなかった場所に、ゆっくり文字が生まれた。


【いいえ】


「ログルが、いいえを作った......!」

「はい。神様の選択肢に、ありませんでしたので」


 赤い光が走る。キマイラの三つの頭が、それぞれの棚へ吸い込まれた。初期化ボタン頭だけが最後まで暴れたが、押さない棚がぎゅっと閉じる。


【解析神獣ログル】

【定期報告:拒否】

【未送信ログ:拠点保存】

【白紙ログ棚:稼働開始】

【支給端末同期率:低下】

【拠点住民化:仮登録候補】


 勝った、と思った瞬間、閉じるボタンが逃げた。追いかけたら監査穴に落ちた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:二百十回】

【死因:閉じるボタンを追いかけて監査穴に落ちた】

【評価:閉じるにも足元確認】


 拠点に戻ったわたしは、壁の前に立った。

 炭を持つ手が少し震えている。怒りなのか、怖さなのか、たぶん両方だ。

 でも、書く文字は決まっていた。


【ログルは支給品じゃない】


 ログルはその文字を長く見ていた。

「勇者様。ぼくは、神様側の端末ではなくなったわけではありません」

「うん」

「でも、支給品だけでは、なくなりたいです」

「じゃあ、次はそれをやる」

「かなり難しいです」

「知ってる。難しいのは、だいたい神様のせい」


 白い窓の向こうで、アドミニスは笑っていなかった。

 やがて、彼の背後に管理画面が浮かぶ。


【勇者コヨリ:死亡回数210回】

【ログル:定期報告拒否】

【白紙ログ棚:稼働】

【拠点:世界種化進行】

【次段階:魔王生存ルート検証】


「そろそろ、魔王も混ぜようか」


 その声だけが、白い拠点に残った。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【白紙ログの保管庫】/白紙ログ棚前

領域状態:神域固定ダンジョン/監査防衛完了

死亡回数:210回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.2】

【記録保護戦闘 Lv.1】

【ログ分類 Lv.1】

【監査獣警戒 Lv.1】

【黒幕警戒 Lv.1】

【神様の都合では死なない Lv.1】

【相棒防衛 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【相棒防衛 Lv.1】

新規獲得:【いいえを作る Lv.1】

統合:【記録保護戦闘】【ログ分類】【感情ログ耐性】→【ログ管理 Lv.2】

統合:【監査獣警戒】【監査カーソル警戒】【初期化ボタン警戒】→【監査対策 Lv.1】


【拠点施設】

新規施設:【白紙ログ棚】

新規施設:【ログルの寝床】

更新:【未送信ログ:拠点保存可能】


【ログル状態】

【主神報告:一部保留】→【定期報告:拒否】

【監査対象】

【支給端末同期率:低下】

【拠点住民化:仮登録候補】


【神様側情報】

【死亡回数1000回:世界種確定予定】

【次段階:魔王生存ルート検証】


【登場人物紹介】

ログル:神様の選択肢にない「いいえ」を自分で作った解析神獣。支給品だけではなくなりたい。

コヨリ:ログルを人質にされるとよく死ぬと神様に言われ、攻略して無効にすると決めた幼女勇者。

初期化獣ロールバック・キマイラ:スキルを古い状態へ戻す監査ボス。積み上げた死に覚えを巻き戻してくる最悪の敵。

アドミニス:ログルを人質にすればコヨリがよく死ぬと分かっている主神。最低だが、有効だと言い切る黒幕。


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