ログルの寝床と夢ログバトル
ログルに寝床を作ることになった。
寝具ももちろん未識別。
夢の中で、ログルはただの端末に戻っていた。
白紙ログ棚の隣に、ぽっかり空いた小さな場所があった。
そこへ何を置くかで、わたしは朝から悩んでいた。白紙ログ棚だけでは足りない。未送信ログを置く棚があるなら、ログルが休んでいい場所も必要だと思ったからだ。
「ログルの寝床を作ります」
「勇者様。ぼくに寝床は必須ではありません」
「必要。拠点住民には寝床がいる。あと、神様側端末って言われるたびに腹が立つから、拠点側の寝床で上書きする」
「寝床に上書き機能はありません」
「気持ちの話!」
リュシアさんが未識別の綿を、ネムさんが小さな布を、ベルが「所有権が複雑になりにくい寝具契約書」を持ってきた。最後の一つが不穏すぎる。
材料はどれも白紙ログの保管庫から出たものだ。
【未識別の綿】
【未識別の毛布】
【未識別の枕】
【未識別の夢ログ】
「ログル。寝具が全部未識別なの、普通に怖い」
「はい。眠り粉、悪夢、簀巻き、呪い、夢ミミックなどが考えられます」
「寝るための道具が攻撃的すぎる!」
まず枕を小石でつついた。ふわりと眠り粉が出た。分かっていたのに吸った。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:百九十九回】
【死因:未識別枕から出た眠り粉で寝落ちし、夢ログに踏まれた】
【評価:寝具も識別しましょう】
二回目、毛布を広げたら毛布ワームだった。やわらかい布に巻かれたまま床を転がり、罠へ入った。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:二百回】
【死因:未識別毛布に巻かれて罠へ転がった】
【評価:毛布にも移動力があります】
三回目、わたしは夢ログを先に識別しようとした。触れた瞬間、白い拠点が消え、昔のチュートリアル部屋みたいな場所に落ちた。
そこに、ログルがいた。
けれど、目が合わない。額の宝石は冷たい光を放ち、しっぽはぴんと伸びている。
「ログル?」
「死亡ログ対象を確認。勇者コヨリ。現在HP15。行動記録を開始します」
「やめて。そういう言い方、今のログルじゃない」
「解析神獣ログルは、勇者死亡ログの収集と送信を行います」
「ログル、わたしのこと、記録だけで見ないで」
返事はなかった。
その沈黙が、宝箱よりずっと怖かった。
背後で、夢宝箱が口を開ける音がした。気づいた時には遅い。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:二百一回】
【死因:夢の中で宝箱を開けた】
【評価:夢でも宝箱は呼吸します】
四回目、夢のログルが端末のままなのを見て、一手遅れた。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:二百二回】
【死因:ログルが支給端末に戻る夢で一手遅れた】
【評価:心の罠は足を止めます】
五回目は、おやすみミミックに優しく寝かしつけられた。優しい声で「もう頑張らなくていい」と言われたのが、逆に危なかった。
【死亡ログ】
【累計死亡回数:二百三回】
【死因:おやすみミミックに寝かしつけられた】
【評価:優しい罠もあります】
拠点へ戻ったあと、ログルは長く黙っていた。
「勇者様。夢の中のぼくは、神様側の初期状態に近かったと思われます」
「うん。すごく嫌だった」
「ぼくも、少し嫌です」
「少し?」
「かなり、かもしれません」
わたしは未識別の綿を、三回確認してから小さな寝床に詰めた。毛布ワームではない布だけを選び、枕は眠り粉を出し切ってから干す。ベルの契約書には「ログルを所有物として扱わない」と太く書き足してもらった。
完成した寝床は、豪華ではない。白い棚の横に置いた、小さな丸い布の巣みたいなものだ。でも、ログルが前足をそっと乗せた瞬間、拠点の床が淡く光った。
【拠点施設追加】
【ログルの寝床】
【支給端末同期率:微低下】
「ログル、どう?」
「寝床は、なくても機能します」
「感想が端末!」
「ですが......戻っていい場所があるのは、少し変な感じです」
「それ、うれしいって言うんだよ。たぶん」
天井に白い窓が開く。アドミニスは、今回は笑っていなかった。
「ログル。戻れなくなるよ」
ログルは、寝床の上で静かに問い返した。
「どちらへ、ですか」
アドミニスは答えなかった。
【今回の勇者ステータス】
現在領域:拠点/白紙ログ棚予定地
領域状態:ログル寝床設置完了
死亡回数:203回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因学習 Lv.3】
【足元確認 Lv.5】
【未識別警戒 Lv.5】
【記録保護戦闘 Lv.1】
【逆識別対策 Lv.1】
【酩酊ログ回避 Lv.1】
【魔王を守る Lv.1】
【黒幕警戒 Lv.1】
※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【寝具識別 Lv.1】
新規獲得:【優しい罠警戒 Lv.1】
新規施設:【ログルの寝床】
ログル状態:【支給端末同期率:微低下】
【登場人物紹介】
ログル:寝床を手に入れた解析神獣。必要ないと言いつつ、戻る場所ができたことを少し変だと言う。
夢ログル:支給端末状態のログルの夢。怖い。本人も少し嫌だった。
おやすみミミック:優しく寝かしつける危険な敵。優しさも罠になる。
アドミニス:笑わずに「戻れなくなる」と告げた主神。今回はかなり不穏。
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