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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第18章 白紙ログの保管庫――支給品じゃない相棒

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魔王、ログの抜け道を教える

魔王軍にも監査はある。

監査があるなら、抜け道もある。

希望が事務の隙間から出てくる日が来た。

 魔王ゼルドが、拠点の反省会テーブルに黒い帳簿を置いた。

 表紙には【魔王軍勤務監査記録】と書かれている。重い。紙の束なのに、なぜか玉座みたいな圧がある。ベルはその横に細い付箋を並べ、ログルは額の宝石で帳簿の端を照らしていた。

「魔王軍にも勤務監査はある。だが、監査を作る者もまた面倒を嫌う。ゆえに抜け道は必ずある」

「魔王さん、今すごく社会の話をしてる」

「余の軍は悪の組織ではあるが、勤怠は必要だ」

「悪の組織にもタイムカードがある世界、夢がない!」


 ベルが一枚の紙を取り出した。

「神様側の監査にも、おそらく同じ穴があります。保留、例外、担当神不在、処理待ち、確認中、そして責任者不明。完璧な監査ほど、完璧に見える書類で詰まります」

「責任者不明が希望になるの、だいぶ終わってるけど助かる!」


 その時、白紙ログの保管庫側から鐘が鳴った。白い穴が開き、鎧を着た騎士たちが列を組んで出てくる。槍は細く、盾には【監査執行】の文字。彼らはゼルドを見た瞬間、槍先をそろえた。


【監査騎士団】

【対象:魔王生存ログ】


「余を敵認定しておるな」

「魔王だから?」

「魔王だからだろうな」

「分かりやすいけど今困る!」


 ゼルドは片手を上げた。黒い魔力が指先に集まる。けれどベルが即座に止める。

「魔王様、全力攻撃はお控えください。神様側警戒レベルが上がります」

「余は魔王なのだが」

「今は守られる側です」

「秘書よ、言葉を選べ」

「では、重要保護対象魔王です」

「少しだけましだ」


 つまり、わたしが魔王を守る。

 普通なら逆では? と思うけれど、この世界は宝箱も出口も噛むので、もう何が普通か分からない。


 一回目、わたしはゼルドを安全地帯へ押そうとした。押した先が罠だった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百九十四回】

【死因:魔王を押して罠へ落とした】

【評価:守る方向を確認しましょう】


 二回目、ベルの契約結界を踏んで自分が拘束された。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百九十五回】

【死因:契約結界を踏んで自分が拘束された】

【評価:味方の紙も罠になります】


 三回目、監査騎士の白い槍に射線を通された。カイの射線ログを持っていたのに、魔王のマントで線が見えなかった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百九十六回】

【死因:魔王のマントで射線を見失った】

【評価:黒い布は視界を奪います】


 四回目は、敵味方判定を間違えた。監査騎士が白くて神様側っぽいから、反射的に未識別草を投げたら回復草だった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百九十七回】

【死因:監査騎士に回復草を投げた】

【評価:敵に親切】


 五回目。わたしは押すのをやめ、ゼルドに一歩だけ動いてもらった。

「魔王さん、そこから右へ一マス。マントはたたんで」

「余の威厳が一マス単位で調整されておる」

「命も一マス単位だから!」


 ベルが契約書を床へ滑らせる。そこには【担当神不在】の文字。監査騎士の一体がその紙を踏むと、動きが止まった。

「ベルさん、すごい! 担当がいないだけで止まる!」

「事務は担当者がいなければ進みません」

「事務の闇が役に立った!」


 ゼルドは全力を出さず、マントの端だけで騎士の槍を絡める。ログルは敵の射線を読み、わたしはカイの記録矢を床へ置いた。矢は白い線を引き、槍の通る場所を見せてくれる。

 わたしはその線を避け、監査騎士を一体ずつ【保留棚】へ誘導した。倒すのではない。処理待ちにする。すごく地味な勝ち方だけど、神様側の敵にはよく効いた。


 最後の騎士が棚へ吸い込まれると、床に黒い札が残る。


【魔王生存ルート】

【保留状態で検証継続】


 アドミニスの白い窓が開いた。

「そっか。魔王を倒さない方向へ行くんだ」

「倒さないと帰れないって最初に思わせたの、神様でしょ!」

「思わせた、というより、よくあるルートを置いたんだよ」

「よくあるルートのふりした罠!」

「でも、勇者ちゃんは外れた。いいね」

「褒めるな! 神様の予定を外すためにやってるんだから!」


 ゼルドは黒い札を見て、苦い顔をした。

「余が生きていることが、帰還に必要になるとはな」

「魔王さん、次も手伝って」

「勇者に頼まれる魔王というのも、妙なものだ」

「この世界、階段も踏んでくるし、出口も噛むから、魔王さんが味方になるくらい普通だよ」

「普通の基準が壊れておる」


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百九十八回】

【死因:魔王のマントで再転倒】

【評価:勝利後もマント注意】


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【白紙ログの保管庫】/魔王生存ログ区画

領域状態:監査騎士団出現

死亡回数:198回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【記録保護戦闘 Lv.1】

【一手分の戦場視界 Lv.1】

【逆識別対策 Lv.1】

【酩酊ログ回避 Lv.1】

【監査獣警戒 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔王を守る Lv.1】

新規獲得:【担当神不在利用 Lv.1】

新規獲得:【味方マント警戒 Lv.1】

新規情報:【魔王生存ルート】


【登場人物紹介】

ゼルド:苦労人魔王。今回は守られる側。マントが強いが、味方にも危険。

ベル:有能秘書。担当者不在という事務の闇で監査騎士を止める。

監査騎士団:魔王生存ログを消しに来た神様側の白い騎士。処理待ちに弱い。

アドミニス:魔王を倒さないルートも観測対象。どこまで置いていたのか怪しい。


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