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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第18章 白紙ログの保管庫――支給品じゃない相棒

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戦神バルガ、監査獣にキレる

保管庫に重装の監査兵が現れた。

それは戦いというより、記録の処分だった。

戦神バルガは、そのやり方が気に入らない。


 白紙ログの保管庫の空気が、急に重くなった。

 棚と棚の間に、白い鎧を着た巨人が立っている。肩から下がる紙の鎖には、削除済みの札が何枚も吊られていた。盾は分厚く、表面には【同意】の文字が刻まれている。見た瞬間、わたしは後ずさった。

「ログル。あの盾、絶対ろくでもない」

「はい。接触した対象に、同意判定を付与する可能性があります」

「盾で殴られて同意したことにされるの!? 暴力と契約を混ぜるな!」


【監査重装兵】

【特性:未送信ログの強制削除】

【装備:同意盾】


 監査重装兵は、わたしではなく白紙ログ棚の材料へ向かっていた。足元の紙片が踏まれるたび、文字が薄くなる。ログルの宝石が低く鳴った。

「勇者様、あれは戦闘用ではなく、処分用の監査獣です」

「処分用って言い方がもう嫌!」


 盾が振られる。棚板が軋み、未送信ログの束が宙に散った。わたしは小石を投げたが、盾に当たった小石は倍の速度で跳ね返ってきた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十五回】

【死因:同意盾の反射で自分の小石が戻った】

【評価:盾の文字を読んでから投げましょう】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 二回目、わたしは正面から行かず、棚の影を回った。ところが監査重装兵は棚ごと押してきた。白い棚板がずずずと動き、わたしはログ棚と壁の間でぺたんと挟まれた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十六回】

【死因:ログ棚ごと押しつぶされた】

【評価:敵が大きい時は家具も敵】


 三回目、わたしはバルガにもらったわけでもないのに気合いで突撃した。結果、盾の裏に隠れていた削除小鬼に足を刺され、一手遅れた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十七回】

【死因:盾の裏の削除小鬼に刺された】

【評価:大きい敵の裏も確認】


 戻ってきたわたしが「正面突破だめ、裏もだめ、じゃあ神様の顔を殴る?」とつぶやいた時、保管庫の天井が低く鳴った。

 赤黒い光が落ちて、太い腕を組んだ大男が現れる。獣の皮を肩にかけ、傷だらけの槍を背負った神様。戦神バルガだ。

「小さい勇者。殴る相手を間違えるな。あれは戦いではない。弱い者の記録を消す処分だ」

「バルガさん! 戦える!?」

「余が直接潰せば、主神権限が動く。ゆえに、一手だけ貸す」


 白い窓に、アドミニスが現れた。

「戦神が情に流されるのは珍しいね」

「情ではない。戦場の形をしていないものを、戦いと呼ぶなと言っている」

「厳しいなあ」

「貴様の白い獣は、敵を倒すのではなく記録を消す。剣を持つ者として、つまらん」


 バルガの目がこちらへ向く。次の瞬間、わたしの視界が広がった。床のマス、盾の向き、削除小鬼の位置、罠の赤い影が一枚の戦場図みたいに重なる。


【一時付与】

【一手分の戦場視界】


「一手だけ!?」

「戦とは、一手で死ぬものだ」

「わたしの人生に刺さりすぎる!」


 わたしは深呼吸した。小石は投げない。盾に当てれば戻る。なら、盾の向きを変える。床の罠は未識別。けれど、監査重装兵の足元にある赤い影は、押し出し系だ。

「ログル、左の棚板を倒す。重装兵の盾を罠へ向ける」

「はい。ただし、棚板を倒すと未送信ログが三枚落ちます」

「落ちるだけなら拾う。消えるよりまし!」


 一手。

 わたしは棚板を蹴った。棚が倒れ、重装兵の盾に当たる。盾の角度がずれ、足元の罠が開いた。押し出しの風が盾を横へ押し、重装兵の体勢が崩れる。

 そこへログルが叫んだ。

「右後方、削除小鬼!」

「見えてる!」


 わたしは小石ではなく、床の未識別ログを蹴った。ログは滑り、削除小鬼の足元で開く。中から過去の階段が飛び出し、小鬼を踏んだ。

「階段が味方になった!」

「記録の再利用です」

「普段わたしを踏むくせに!」


 監査重装兵は罠に押され、白い棚の一角へはまった。棚札には【保留】と書かれている。

 巨体がびくんと止まる。


【監査重装兵:保留棚へ分類】


 バルガは少しだけ口角を上げた。

「弱いなりに、盤面を見た。悪くない」

「褒め方が戦神!」

「ただし、熱くなりすぎるな。熱血で突っ込めば死ぬ」

「もう死にました!」


 その直後、まだ残っていた同意盾の破片を踏んだ。足元から【同意】が浮かび、監査穴が開く。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十八回】

【死因:同意盾の破片を踏んだ】

【評価:勝った後の足元確認】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十九回】

【死因:戦場視界を使う前に足元罠を踏んだ】

【評価:見る前に死なない】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百八十回】

【死因:熱血解釈で突撃した】

【評価:戦神の助言は冷静に聞きましょう】


 拠点に戻ると、バルガはもういなかった。ただ、反省会テーブルの端に短い文字が焼きついている。

【一手で見る】

 わたしはその文字を指でなぞった。

「ログル。わたし、戦神さんに弱いって言われた」

「はい」

「でも、悪くないって言われた」

「はい」

「じゃあ、ちょっとだけ悪くなくなる」

「かなり良い方針です」


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【白紙ログの保管庫】

領域状態:監査重装兵出現区画

死亡回数:180回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.2】

【記録保護戦闘 Lv.1】

【監査獣警戒 Lv.1】

【黒幕警戒 Lv.1】

【神様の都合では死なない Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【一手分の戦場視界 Lv.1】

新規獲得:【盾の裏確認 Lv.1】

新規獲得:【勝った後の足元確認 Lv.1】

分類成功:【監査重装兵】→【保留棚】


【登場人物紹介】

バルガ:戦神。戦いではなく処分を嫌う、かなりまっとうな神様。一手だけ視界を貸してくれた。

監査重装兵:同意盾を持つ白い監査獣。盾で殴って同意扱いにしてくる悪質仕様。

削除小鬼:盾の裏に隠れる小型敵。小さいが刺さる場所が嫌。

アドミニス:バルガの介入を笑って見ていた主神。止めないあたりがまた怖い。


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