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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第18章 白紙ログの保管庫――支給品じゃない相棒

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ミーナのパンとカイの矢

保管庫に残っていたのは、死因だけではなかった。

消えたシードの住民たちの記録が、棚の奥で光っている。

でも、記録を食べる敵もいた。

 白紙ログの保管庫の奥で、わたしは見覚えのある匂いを見つけた。

 パンの匂いだ。

 焼き立てではない。少し冷めて、紙に包まれ、誰かが急いで持たせてくれたみたいな、やさしい匂い。白い棚の下段に、小さな籠が置かれていた。表示は未識別のまま、でもわたしには分かった。


「ミーナさんのパンだ」

「記録影です。本人ではありませんが、シード消失前の思い出ログが形を取っています」

「本人じゃない、って言われるのは分かってる。でも、ただのアイテムみたいに扱うのは無理」


 隣の棚には、細い矢が束ねて置いてあった。射線の谷で出会ったカイの、まっすぐすぎる矢の記録。さらに奥には、ピヨラの小さな寝床みたいな丸いわら、ルーメの忘却メモ、王都で一瞬だけ出会ったアリアの受付札まである。

 どれも未識別表示だ。触れば何が起きるか分からない。でも、棚に置きっぱなしにしておくには、周りの空気が悪すぎた。


 床が重く鳴る。

 棚の影から、巨体が出てきた。腹に無数の口があり、それぞれが小さな文字を噛んでいる。黒い爪で棚を引っかくと、記録の光が一粒ずつこぼれた。


【記録喰いオーガ】

【特性:思い出ログを食べるほど強化】


「ログル。あれ、倒すと記録も消える?」

「直接攻撃で倒した場合、食べられたログごと破損する可能性があります」

「じゃあ倒さない。棚に戻す。今まで死因図鑑室でやってきた、分類のやつ」

「はい。勇者様らしい攻略です」


 コヨリはミーナのパン籠ログを抱えた。思ったより重い。パンの記憶は温かく、胸が少し痛くなる。初めて会った時のやさしい声まで混ざっていたからだ。

 その一手の間に、記録喰いオーガが大きく踏み込む。わたしは横へ避けようとしたが、パン籠が重くて足が遅れた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百六十九回】

【死因:ミーナのパン籠ログを抱えすぎて圧死】

【評価:思い出は重いです】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 二回目、わたしはパン籠を直接持たず、保存用の布で包んだ。今度はカイの射線ログを拾う。細い矢は光の線を描き、敵の攻撃方向を示してくれた。けれど、矢の向きを逆に読んだせいで、わたしは自分から射線に入った。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十回】

【死因:カイの射線ログを逆読みして矢に当たった】

【評価:矢印は向きを確認しましょう】


 三回目はピヨラの寝床ログを守ろうとして足を止めた。小さなわらの輪が、保護した魔物の寝息みたいにほのかに揺れていたから、踏まれるのが嫌だった。結果、わたしが踏まれた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十一回】

【死因:ピヨラの寝床ログを守って足を止めた】

【評価:守るなら立ち位置も守りましょう】


 四回目、ルーメの忘却メモを読んだら、記録喰いオーガの名前を忘れた。名前が分からない敵は怖い。怖いのに、「大きい何か」としか呼べないせいで警告が遅れた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十二回】

【死因:敵名を忘れて警告が遅れた】

【評価:名前は攻略情報です】


 五回目、アリアの受付札を拾った。札には「順番にお並びください」と書かれていて、なぜか床に列の線が出た。わたしは一瞬だけ素直に並んだ。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十三回】

【死因:受付札に並んでいる間に殴られた】

【評価:受付マナーより生存】


 六回目。わたしはようやく、記録を持って逃げるのではなく、棚そのものを動かすことを思いついた。リュシアさんがくれた古い棚板を床に置き、そこへパン籠、射線ログ、寝床ログを滑らせる。ログルは敵の歩幅を読んで、オーガの進路に罠を重ねた。

「勇者様、今です。オーガの右足が罠に乗ります」

「記録を守って、敵は倒さず、棚へ戻す。やること多すぎて、わたし八歳の仕事量じゃない!」


 小石を投げる。罠が開き、オーガの足が沈む。わたしは棚板を押し、記録影を白い棚の正しい段へ戻した。ミーナのパン籠が光り、カイの矢がすっと整列する。

 オーガが怒り、腹の口を開けた。最後の記録を飲み込もうとした瞬間、ログルが前に出る。

「勇者様、下がってください」

「ログルが前に出ない! 守る対象が自分で前に出るの、作戦が壊れる!」


 わたしはログルを抱えて横へ転がった。オーガの爪が棚をかすめる。棚から落ちたアリアの受付札が、オーガの足元へ滑った。

【受付中】

 その文字が光り、オーガが一瞬だけ列に並んだ。

「受付札つよい!」

「王都受付業務の拘束力です」

「アリアさん、すごい!」


 その隙に、わたしは最後の記録を棚へ戻した。記録喰いオーガの体がしぼみ、ただの黒い紙束になって崩れる。

 勝った。倒したのではなく、食べるものを取り上げた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百七十四回】

【死因:記録喰いオーガに記録ごと踏まれた】

【評価:六回目で保護成功】

【新規獲得:記録保護戦闘 Lv.1】


 拠点に戻ると、白紙ログ棚の予定地に小さな光が増えていた。パンの匂いと、矢羽根の音と、寝息みたいなあたたかさ。

「本人じゃないのは、分かってる」

「はい」

「でも、残ってた」

「はい。勇者様が覚えていたので」

「じゃあ、覚えてるのって、ちょっと強いね」

「かなり強いです」

【今回の勇者ステータス】

現在領域:【白紙ログの保管庫】

領域状態:記録影保護区画

死亡回数:174回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.2】

【ミミック警戒 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【監査獣警戒 Lv.1】

【逆識別警戒 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【記録保護戦闘 Lv.1】

新規獲得:【射線ログ向き確認 Lv.1】

新規獲得:【受付札拘束利用 Lv.1】

保護成功:【ミーナのパン籠ログ】【カイの射線ログ】【ピヨラの寝床ログ】【アリアの受付札】


【登場人物紹介】

記録影ミーナ:パン籠の形で残っていた優しい記録。重い。物理的にも重い。

記録影カイ:射線ログとして登場。矢印を逆読みすると普通に死ぬ。

記録影アリア:受付札で敵を一瞬並ばせた王都受付嬢の記録。受付力が強い。

記録喰いオーガ:思い出ログを食べる敵。倒すより、食べ物を取り上げるのが正解。


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