表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第18章 白紙ログの保管庫――支給品じゃない相棒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
128/340

白紙ログの保管庫と監査獣

白紙ログの保管庫と監査獣


白紙ログの保管庫に入ったコヨリ。

未識別なのはアイテムだけではなかった。

思い出にも、歯があった。


 白紙ログの保管庫は、巨大な倉庫だった。

 天井は見えない。白い棚が森みたいに並び、棚板の間には巻物、壺、カード、白い箱、黒い箱がぎっしり詰まっている。どれも輪郭だけは分かるのに、名前は出てこない。


【未識別の巻物】

【未識別の壺】

【未識別のログ】

【未識別の宝箱】

【未識別の思い出】


 最後の表示を見た瞬間、わたしは入口で足を止めた。

「ログル。思い出が未識別ってなに? 開けたら泣くやつ? 爆発するやつ? それとも泣いたあと爆発するやつ?」

「可能性は複数あります。保管庫内では、アイテムだけでなく記録そのものが未識別扱いのようです」

「裏の裏に落ちてる未識別なんて、便利そうな顔をした罠に決まってるよ。名前が強そうな種ほど危ないし、白紙って書いてある巻物ほど白紙じゃないし、保存壺っぽい壺ほど大事なものを吸う。ローグライクゲーマーの勘が、今すぐ帰れって言ってる」

「勇者様、偏見がかなり具体的です」

「偏見じゃない、経験! 経験と死亡ログと、たまに涙!」


 床には薄いマス目が浮かんでいる。けれど、表九十九階の整った光ではない。白い線が紙の繊維みたいに揺れて、ところどころ破れていた。破れ目の奥から、かさかさと何かが走る音がする。

 ログルがわたしの足元に寄った。いつもより近い。

「勇者様。右の棚の影、動いています」

「敵?」

「紙でできた狼型。対象は......ぼくです」

「は?」


 棚の間から、白い狼が出てきた。毛皮は紙片、目は赤いチェックマーク、口の中には細かい文字が並んでいる。吠え声の代わりに、書類を破るような音が響いた。


【監査紙狼】

【対象:未送信ログ保持端末】


 わたしは小石袋改を握った。

「ログルを狙う敵、初手から出すのやめて。わたしを噛むならまだ慣れてるけど、ログルはだめ」

「慣れないでください」

「慣れたくて慣れたんじゃない!」


 監査紙狼は一歩ずつ近づく。世界が盤面のように静まり、わたしの手の中の小石が急に重くなる。相談はできる。けれど、行動は一つだけ。間違えれば、次に動くのは狼だ。

 わたしは床の破れ目を見た。白い繊維の下に、うっすら赤い罠の輪郭がある。

「小石で罠を起こす。狼を引っかける」

「はい。ただし、罠の種類は未識別です」

「罠まで未識別! でも、狼に踏ませれば分かる!」


 一手。

 小石が床を跳ね、赤い輪郭へ落ちた。床がめくれ、紙の牙が上へ突き出す。監査紙狼は避けようとしたが、片足を取られて動きが鈍った。

「よし、鈍足!」

「勇者様、後ろです」

「後ろ?」


 振り向くと、棚から丸いスライムが垂れていた。表面に【未識別のログ】と出ている。ぷるん、と揺れた瞬間、過去の宝箱ミミックが口だけ出てきて、わたしを丸ごとかじった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百六十四回】

【死因:未識別ログから出てきた過去の宝箱に噛まれた】

【評価:思い出にも歯があります】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 二回目の突入で、わたしは未識別ログスライムから距離を取った。今度は慎重に、棚の上の壺を使おうとした。名前は【未識別の壺】。形は保存壺に似ている。似ているからこそ、信用できない。

「ログル、壺って便利だけど、便利な顔をして人を裏切るよね」

「はい。保存、合成、識別、吸い出し、割れる、呪い、複数の危険が考えられます」

「種類が多い! 壺業界、もっと素直に生きて!」


 安全確認のため、小石を壺に入れた。壺は小石を吸ったあと、なぜかわたしの言葉まで吸い始めた。

「ちょ、ログル、これ、わたしの......あ......う......」

「勇者様のツッコミ語彙が吸われています。主武装が抜かれました」

「うう......!」


 警告を叫べないまま、わたしは見えている罠を踏んだ。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百六十五回】

【死因:ツッコミ語彙を吸われ、警告できずに罠を踏んだ】

【評価:ツッコミは生命線】


 三回目は未識別草を敵に投げて識別しようとした。ところが監査紙狼の耳に当たって跳ね返り、口に入った。草は【超不幸の種】で、レベルだけでなく床の運まで下げた。足元が勝手に抜けた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百六十六回】

【死因:超不幸の種を跳ね返され、床ごと不幸になった】

【評価:不幸は範囲攻撃です】


 四回目は【識別っぽい巻物】を読んだ。結果は【逆識別の巻物】。手持ちの小石袋改まで【未識別の何か】になり、帰り道の表示も【未識別の通路】になった。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百六十七回】

【死因:逆識別で帰り道まで未識別になった】

【評価:道が分からないと普通に死にます】


 五回目。わたしは監査紙狼がログルへ飛びかかる瞬間、反射的に前へ出た。

 牙が白い紙片をまき散らす。噛まれる痛みは、いつもみたいに一瞬で暗転へ溶ける。でも、その直前、ログルの宝石が震えたのが見えた。


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百六十八回】

【死因:監査紙狼からログルをかばった】

【評価:守る対象が増えました】


 拠点に戻ると、ログルがしばらく黙っていた。

「ログル?」

「勇者様。ぼくは、死亡ログを取る側でした」

「うん」

「今、初めて、取られる側になりかけました」

「怖かった?」

「......はい」

「じゃあ、次は怖いまま一緒に考えよう。わたし、怖いまま百六十八回やってるから、ちょっとだけ先輩」


 ログルは笑わなかった。でも、しっぽがわたしの足に触れた。

 天井の白い窓は開かなかった。開かないことが、かえって見られている証拠みたいで嫌だった。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【白紙ログの保管庫】

領域状態:神域固定ダンジョン/全ログ未識別領域

死亡回数:168回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】

【足元確認 Lv.5】

【未識別警戒 Lv.5】

【ミミック警戒 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.2】

【帰還門感知 Lv.3】

【黒幕警戒 Lv.1】

【書類も罠 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【思い出にも歯がある Lv.1】

新規獲得:【ツッコミ語彙保護 Lv.1】

新規獲得:【超不幸の種警戒 Lv.1】

新規獲得:【逆識別警戒 Lv.1】

新規獲得:【監査獣警戒 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:未識別アイテムへの偏見が具体的すぎる幼女勇者。だいたい実体験。

ログル:初めて自分が狙われる側になり、少しだけ震えた解析神獣。

監査紙狼:神様側の監査獣。ログルの未送信ログを嗅ぎ分ける紙の狼。

未識別ログスライム:過去の死因を吐き出す危険スライム。思い出にも歯を生やすな。


コヨリとログルの未識別だらけの攻略を見守っていただける方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ