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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第17章 裏九十九階 ――本当の出口は、表にはない

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帰る。でも、置いていかない

本出口番ミミックから、座標片を奪う。

死んでも、持ち帰れば勝ち。

でも、保存したいのは命だった。


 出口番ミミック攻略会議。


 反省会テーブルの中央に、出口番ミミックの絵が置かれていた。わたしが描いた。扉に歯が生えている絵だ。かなり上手い。上手くなりたくなかった。


「ログル、確認。出口番ミミックは、本出口に擬態する。扉、階段、宝箱、帰還門、たぶん全部に化ける。呼吸する。識別済みの吹き飛ばしの杖・裏で跳ね返る。ノックしてもだめ。触る前に噛みに来る。ここまで合ってる?」

「はい。かなり正確です。付け加えるなら、口の奥に本出口座標片の反応があります」

「なんで大事なもの全部口の中にあるの!」


 ネムさんが、お茶を置いてくれた。


「出口に噛まれた方用のお茶です」

「専用茶があるの!?」

「今作りました」

「わたし専用じゃん!」


 白い窓は開いていない。でも、アドミニスが見ている気配はある。わたしは、わざと天井を見上げた。


「神様、聞いてる? わたし、次は座標片を取るから。あと、できれば噛まれないから。さらに言うと、ログルを置いていく気もないから」


 返事はない。けれど、どこかで笑った気がした。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 裏九十九階の奥。本出口の部屋。


 前回と同じ扉が、中央に立っていた。木の扉。銀色のノブ。元の世界の家に似た形。そして、呼吸している。


「確認」

「呼吸しています」

「敵」

「はい」

「よし」


 今回は、いきなり近づかない。まず、部屋の入口に身代わりぬいぐるみを置く。次に、扉の前へ小石を転がす。扉が口を開く前に、眠り玉を投げる。


 一手。


 眠り玉が扉の足元で割れる。白い煙が広がった。扉は動かない。


「眠った?」

「いえ、扉なので睡眠判定がありません」

「扉なのに口はあるの!? 判定が都合悪い!」


 扉が開く。中の口が、ゆっくり笑った。


 部屋の壁に、白い窓が開く。アドミニスがいる。


「さあ、どうする?」

「実況するな!」

「今回は、かなりいい手持ちだね」

「神様が褒めると罠に見える!」

「罠だよ」

「言うな!」


 出口番ミミックの舌が伸びる。わたしは、吹き飛ばしの杖を構えた。ただし、扉には撃たない。狙うのは、横の壁。


 一手。


 杖の光が壁に当たる。壁が一マスだけ押し出され、出口番ミミックの舌がその壁に絡まった。


「よし!」

「舌、固定されました」

「扉なのに舌があるの納得いかない!」


 次に、保存壺を置く。空きは一つ。中に入れたいのは、本出口の座標片。


「ログル、見える?」

「扉の奥、白い光があります。座標片の可能性が高いです。ただし、口の中です」

「嫌すぎる!」


 出口番ミミックが舌を引き抜こうとする。壁がぎしぎし鳴った。次の一手で、たぶん舌が外れる。その前に、座標片を取る。


 わたしは小石袋改から、白銀の帰還ピンを取り出した。表九十九階で持ち帰った、小さなピン。投げると、帰還因子に反応する。


「投げる」

「遠投の腕輪は装備していません。なお、裏で拾った腕輪はすべて未識別なので、今回は装備しない判断が正解です。投擲先は口の奥です」

「確認ありがとう! 口の奥って言われると心が折れそうだけど!」


 一手。


 白銀の帰還ピンが、出口番ミミックの口の中へ飛ぶ。白い光に触れた瞬間、細い糸のようなものがピンに絡んだ。


「引く!」

「はい!」


 出口番ミミックが暴れる。舌を固定していた壁が砕ける。


「来る!」

「右へ」

「右、罠!」

「左へ」

「左、舌!」

「後ろへ」

「身代わりぬいぐるみ!」


 わたしは後ろへ跳んだ。出口番ミミックの口が迫る。その瞬間、身代わりぬいぐるみがぱくりと噛まれた。


「ごめん、ぬいぐるみ!」

「役目を果たしました」

「あとで供養する!」


 白銀の帰還ピンが、口の中から飛び出す。そこに、小さな光の欠片が絡んでいた。


【本出口座標片:取得】


「取れた!」

「取れました!」

「噛まれてない!」

「まだです」


 出口番ミミックが、今度は扉ごと走ってきた。


「出口が走るなああああああああ!」


 わたしは保存壺を開けた。座標片を放り込む。


 一手。


 保存壺が光る。座標片が登録される。その直後、出口番ミミックがわたしを噛んだ。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百五十七回】

【死因:座標片を保存壺に入れた直後、出口番ミミックに噛まれた】

【評価:保存したいのは命でした】

【持ち帰り成功:本出口座標片】

【新規獲得:座標片は先に保存 Lv.1】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百五十八回】

【死因:二個目の座標片を欲張って、保存壺ごと噛まれた】

【評価:一個持ち帰れば勝ちです】

【新規獲得:一個で帰ろう Lv.1】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百五十九回】

【死因:ぬいぐるみを供養する前に再挑戦して、罪悪感で一手遅れた】

【評価:供養は大事です】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百六十回】

【死因:出口番ミミックに噛まれながら、本出口座標片を拠点登録した】

【評価:死亡しましたが、攻略は進行しました】

【拠点登録:本出口座標片】


 白い拠点に戻ったわたしは、保存壺を抱きしめた。


「百六十回......百六十回まで来た......。ログル、取れた?」

「はい。本出口座標片、拠点登録済みです」

「死んだけど勝った?」

「はい。かなり死にましたが、勝ちです」

「その言い方、今回は好き!」


 保存壺から取り出した座標片は、小さな白い光の欠片だった。手のひらに乗るくらいの大きさで、触ると少しだけ温かい。光の中に、見覚えのあるものが映る。机。カーテン。窓。床に置きっぱなしのゲーム機。元の世界の、わたしの部屋。


「......ログル。見える」

「はい。帰還座標の一部だと思われます」


 胸の奥が、ぎゅっとなった。


 帰りたい。何回死んでも、どれだけ拠点が育っても、神様が黒幕っぽくても、出口が噛んできても、それだけは変わらない。


 でも、わたしはログルを見た。死因図鑑室を見た。反省会テーブルを見た。ネムさんの受付机を見た。最初は椅子だけだった。今は、こんなに増えた。


「ログル。わたし、帰りたい。でも、ここも消したくない。ログルも置いていきたくない」

「......はい」


 白い窓が開いた。アドミニスが現れる。今回は、拍手しなかった。


「本出口座標片、取得おめでとう。百六十回でここまで来た。やっぱり、きみは想定を少しずつ外してくる」

「褒めなくていい。神様、ログルも連れて帰る方法はある?」

「可能性はあるよ。ただし、ログルは神様側の端末ではいられない」

「じゃあ、やめればいい」

「簡単に言うね」

「簡単じゃないのは分かってる。でも、やる」


 アドミニスは、しばらく黙った。そして、空中に文字を出した。


【警告】

【解析神獣ログル:帰還対象候補化】

【神様側支給端末規約に違反】

【監査段階:上昇】


「規約! ログルを規約で縛るな!」

「縛っていたんだよ、最初から」


 ログルの体が、わたしの腕の中で少し固くなる。


「勇者ちゃん。百六十回は、まだ入口だよ。千回まで、きみの願いが変わらないか楽しみにしている」

「楽しみにするな」

「無理だよ。僕は神様だからね」


 窓が消えた。


 わたしは炭を持ち、いつもの壁の前に立った。


【帰る】


 その下に、大きく書き足す。


【でも、置いていかない】


 書き終わった瞬間、拠点の床が淡く光った。


【帰還意思:更新】

【本出口座標:再計算】

【拠点接続:維持】

【解析神獣ログル:帰還対象候補】


「ログル、候補だって。候補から確定にしよう」

「勇者様。かなり難しいと思います。かなり死ぬと思います。神様に、かなり怒られると思います」

「それでも」


 わたしはログルを抱き上げた。


「帰る。でも、置いていかない」


 ログルは、額の宝石をわたしの頬にそっと当てた。


「はい。ぼくの勇者」


「それ、急に言うのずるい!」

「表示ではなく、口で言いました」

「余計ずるい!」


 拠点は、もう椅子だけじゃない。帰る場所は、一つじゃなくなった。だから、出口は揺れている。でも、揺れていてもいい。わたしが、決める。


【登場人物紹介】

コヨリ:出口番ミミックから本出口座標片を奪い、百六十回目の死亡まで到達した勇者。帰るだけでなく、置いていかないと決める。

ログル:本出口座標片の取得と拠点登録を支える解析神獣。ついに帰還対象候補として表示され、コヨリの相棒として一歩踏み込む。

ネム:出口に噛まれた方用のお茶を作る死亡受付担当。増え続ける変な死因にも、事務と気遣いで対応する。

アドミニス:ログルを神様側の端末規約で縛っていたと明かす主神。百六十回を入口と言い、千回まで願いが変わらないか見ている。

出口番ミミック:本出口座標片を口の奥に隠す番人。噛まれても座標片を登録できれば、今回はコヨリの半勝利。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【帰還門・裏九十九階】

領域状態:神域固定ダンジョン/本出口座標片登録済み

死亡回数:160回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【黒幕警戒 Lv.1】【神様の都合では死なない Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【座標片は先に保存 Lv.1】【一個で帰ろう Lv.1】【置いていかない帰還意思 Lv.1】

拠点登録:【本出口座標片】

ログル状態:【帰還対象候補】

死亡回数:156回→160回


【帰還門情報】

表九十九階:攻略済み

裏九十九階:接続中

本出口:存在確認済み

本出口座標片:一部取得

次の目的:ログルを含む帰還対象の確定


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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