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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第17章 裏九十九階 ――本当の出口は、表にはない

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出口まで呼吸するな

本当の出口が見えた。

ただし、呼吸していた。

コヨリ、出口にも噛まれます。


 裏帰還路の地図が完成した瞬間、拠点の空気が変わった。白い床の下を、細い光の線が走る。死因図鑑室、鑑定机、思い出ログ棚、帰還門建設予定地。その全部が、黒い地図の一点へ向かって細くつながっていく。


【本出口:表示】

【現在位置:裏九十九階深層】

【条件:帰還意思、現在座標、記憶濃度、縁接続により変動】


「出口が変動してる。ログル、出口って普通、動かないよね」

「はい。通常の出口は、移動しません」

「階段も普通は逃げないし、床も普通は食べない。普通が恋しい!」


 地図の中央に、小さな光点があった。それは、じっとしていない。ゆっくり動いている。


「勇者様。本出口は、勇者様の帰還意思に反応しているようです」

「わたしのせい?」

「正確には、帰りたい場所が一つに定まっていないため、座標が揺れています」

「帰りたい場所は元の世界だよ。でも、拠点も消したくない。ログルも置いていきたくない。ネムさんも、リュシアさんも、魔王さんも、ベルさんも、思い出ログも、死因図鑑室も、白紙ログ棚も......そっか」


 わたしは地図を見た。帰りたい。それは嘘じゃない。でも、帰るという言葉の中身が、最初と変わってしまった。最初は、元の世界に戻ることだけだった。今は、置いていきたくないものが増えている。


「勇者様。それは、帰還意思が弱くなったわけではありません」

「そうなの?」

「帰る場所が増えたのだと思います」


 ログルの声は静かだった。


 そのとき、白い窓が開いた。


「いいね。その迷いは大事だよ、勇者ちゃん」

「覗くな」

「帰還座標は、帰りたい場所だけじゃ決まらない。置いていけないものでも揺れる」

「知ってたなら最初から言って!」

「最初に言ったら、きみは拠点を育てようとしなかった」

「またそれ!」


 アドミニスは地図を見下ろした。


「本出口が動いている。いい兆候だ。固定された出口は、ただの脱出路だ。でも、揺れる出口は世界を選べる」

「分かりにくい! つまり、ログルを連れて帰る出口もある?」

「可能性はあるよ」

「保証は?」

「してないね」

「神様ァ! そろそろ保証を覚えて!」


 アドミニスは、にこりと笑った。


「勇者ちゃん。僕はね、きみが何を選ぶか知りたいんだ。元の世界だけを選ぶのか。拠点も選ぶのか。ログルも選ぶのか。選んだ結果、どんな死亡ログになるのか」

「最後が最悪!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 本出口は、裏九十九階の奥にあった。そこは小さな部屋だった。壁も床も、今までより少し暗い。白と黒が混ざったような色で、足音がやけに遠くへ響く。


 部屋の中央に、扉がある。


 木の扉だった。わたしの元の世界の家にあるような、何でもない扉。銀色のノブ。少しだけ擦れた下の角。手を伸ばせば、開けられそうな高さ。


 心臓が、跳ねた。


「......家の扉」

「勇者様」

「ログル、これ」

「呼吸しています」


 わたしは止まった。


 扉が、ほんの少し上下している。木目の隙間から、白い息が漏れている。


「出口まで呼吸してるうううううううう!」

「擬態の可能性が高いです」

「可能性じゃなくて敵じゃん!」


 扉の上に、文字が浮かんだ。


【本出口】

【触れてください】


「触れない!」

「勇者様、正しいです」

「でも、触れないと進めない!」

「裏九十九階ですので」

「神様ァ!」


 部屋の奥に、アドミニスの声が響いた。


「触れてみなよ、勇者ちゃん。本物かもしれないよ」

「神様がそう言う時は偽物!」

「成長したね」


 わたしは小石を握った。小石を投げる。一手。小石は扉の前に落ちた。扉は動かない。もう一つ投げる。一手。小石がノブに当たった。


 次の瞬間、扉が開いた。中は、口だった。


「やっぱりいいいいいいいいいい!」


 扉の口が長い舌を伸ばす。わたしは横へ跳んだ。床に赤いマス目が走る。


「右!」

「罠です!」

「左!」

「舌の射程です!」

「後ろ!」

「入口が閉じました!」

「選択肢がない!」


 アドミニスの声が、楽しそうに響く。


「さあ、勇者ちゃん。出口を疑えた。じゃあ次は、疑った出口をどう攻略する?」

「見てないでヒント出せ!」

「ヒントは出しているよ。百五十三回分の死亡ログに」


 扉の口が迫る。わたしは吹き飛ばしの杖を構えた。


 一手。


 杖の光が扉に当たる。扉は後ろへ吹き飛ばされる。しかし、壁に当たった瞬間、扉が跳ね返った。


「扉が跳ね返るな!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百五十四回】

【死因:出口だと思って触る前に、出口から噛みに来た】

【評価:本出口にも呼吸確認】

【新規獲得:出口呼吸確認 Lv.1】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百五十五回】

【死因:出口番ミミックを吹き飛ばしたら、壁で跳ね返って戻ってきた】

【評価:扉にも跳ね返りがあります】

【新規獲得:扉跳ね返り警戒 Lv.1】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百五十六回】

【死因:本物の扉か確認するためにノックしたら、返事の代わりに噛まれた】

【評価:ノック確認は無効です】


 白い拠点に戻ったわたしは、しばらく黙っていた。ログルも黙っていた。


「ネムさん。出口に噛まれた人、前にいた?」

「記録上、コヨリさんが初です」

「初称号いらない」


 天井から、アドミニスの声が降ってくる。


「おめでとう、勇者ちゃん。本出口の番人を確認したね」

「噛まれたんだけど!」

「確認できた」

「噛まれたんだけど!」

「次は、噛まれずに触れればいい」

「簡単に言うな!」


 わたしは反省会テーブルに大きく書いた。


【出口も呼吸確認】


「帰る道、信用できないもの多すぎ」

「それでも、進みますか」

「進む。だって、帰りたい。でも、もう一人では帰りたくない」


【登場人物紹介】

コヨリ:本出口に似た扉を見つけるが、呼吸確認で敵だと見抜く勇者。出口に噛まれても、帰る意思は折れない。

ログル:本出口の呼吸確認、床罠、舌の射程を解析する相棒。コヨリが一人では帰りたくないと気づく場面を支える。

ネム:出口に噛まれた前例がないことを告げる死神。コヨリの死因は、受付側にも新規ケースを増やしている。

アドミニス:本出口番の確認を成果として扱う主神。噛まれた事実より、確認できたログを重視する。

出口番ミミック:本出口に擬態する扉型の番人。呼吸し、舌を伸ばし、跳ね返り、ノックにも噛みつく。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【帰還門・裏九十九階】

領域状態:神域固定ダンジョン/本出口番確認

死亡回数:156回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【倒さない判断 Lv.1】【黒幕警戒 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【出口呼吸確認 Lv.1】【扉跳ね返り警戒 Lv.1】

新規情報:【本出口番:出口番ミミック】

死亡回数:153回→156回


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