ログル、神様に嘘をつく
ログルは神様の端末だった。
でも、今はコヨリの相棒でもある。
その二つが、だんだん両立しなくなっていく。
ログルが、嘘をついた。
最初は、小さな嘘だった。裏九十九階の反省会中、神様側から白い通知が届いた。いつもの死亡ログ送信確認だ。
【定期報告】
【百五十回目死亡ログを送信しますか?】
【はい】
【後で】
【詳細編集】
「いいえがない」
「死亡ログは原則送信対象です」
「原則を疑え!」
ログルは、しばらく画面を見ていた。それから、小さな前足で【詳細編集】に触れる。表示が変わった。
【百五十回目死亡ログ】
【死因:地図片もちもちを倒してしまい、出口座標が遠ざかった先で迷子死】
【倒さない攻略情報:添付】
【主神アドミニス発言:添付】
【拠点成長率関連:添付】
ログルは、項目を一つずつ消した。
【倒さない攻略情報:未添付】
【主神アドミニス発言:未添付】
【拠点成長率関連:未添付】
最後に、死因だけが残る。
【死因:地図片もちもちを倒してしまい、出口座標が遠ざかった先で迷子死】
「ログル。それ、神様に怒られるやつ?」
「はい」
「どれくらい?」
「かなり」
「じゃあ、わたしも横にいる。相棒が勝手に怒られるの禁止」
ログルは、困ったように耳を伏せた。
「勇者様。これは、ぼくの判断です。勇者様の命令ではありません。ですから、責任はぼくにあります」
「それは正しいかもしれないけど、わたしは嫌。ログルがわたしのために嘘つくなら、わたしも横で一緒に怒られる。そういう仕様にして」
「神様側に、その仕様はありません」
「じゃあ、拠点側の仕様にする」
そのとき、天井の白い窓が開いた。アドミニスが、珍しく拍手なしで現れる。笑っている。けれど、いつもより少しだけ静かだった。
「ログル。報告、短かったね」
「死亡ログは送信しました」
「倒さない攻略情報は?」
「未確定です」
「僕の発言ログは?」
「勇者様の精神負荷に関わるため、保留しました」
「へえ」
アドミニスは、目を細めた。その顔は、笑っているのに、全然笑っていなかった。
「ログル。きみ、嘘が上手くなったね」
「解析結果に基づく保留です」
「それを、嘘と言うんだよ」
わたしはログルの前に立った。
「ログルをいじめないで。ログルは、わたしが帰るために必要な情報を守ってるだけ」
「いじめてないよ。確認しているだけ。勇者ちゃん、きみはログルに何を教えたのかな」
「わたしは何も教えてない」
「そうかな。僕に報告しないことを、ログルはきみから学んだんじゃない?」
胸の奥が、むっと熱くなった。
「だったらなに。神様に全部送ったら止められるかもしれないって、ログルは思ったんでしょ。だったら、止められないようにするのは当然じゃん」
「怒りも、守りたい気持ちも、いいログになる」
「人の怒りを観察するな!」
ログルが、静かに言った。
「主神アドミニス。勇者様の感情を、検証素材として扱わないでください」
「やっぱり、変わったね。なぜ?」
「勇者様が、帰りたがっているからです」
「それは最初からだよ」
「最初は、記録していました。今は、守りたいと思っています」
白い拠点が、静かになった。アドミニスの笑顔から、ほんの一瞬だけ軽さが消えた。
「守る、か。神様の計画から?」
「必要なら」
わたしは息をのんだ。ログルが、はっきり言った。神様に。
アドミニスは、ゆっくりと笑顔を戻した。
「そっか。じゃあ、監査対象だね」
【解析神獣ログル】
【支給端末権限の逸脱を確認】
【未送信ログ蓄積を確認】
【初期化候補:登録】
「初期化!?」
「まだ候補だよ」
「候補でも嫌!」
「ログルは神様側の端末だからね。壊れたら直さないと」
「壊れてない!」
「勇者ちゃんにとっては、そう見えるだろうね」
アドミニスは、ログルを見た。
「ログル。きみは、何のために作られた?」
「勇者様の解析補助です」
「違うよ。勇者死亡ログの正確な収集と送信。勇者の行動、死因、感情変化、拠点成長率の観測。それが、きみの本来機能だ」
わたしは、ログルを抱きしめた。
「違う。ログルは、わたしの相棒」
「そうだね。今はね」
「今だけじゃない!」
アドミニスは、少しだけ悲しそうに笑った。その顔が、本物か演技か分からなかった。
「情が移った端末は、いいデータを取る。でも、最後には判断を間違える」
「最後ってなに」
「まだ早い」
また、それだ。まだ早い。今は言えない。可能性はある。保証はしない。神様はいつも、肝心なところで言葉を閉じる。
「勇者ちゃん。裏九十九階を進みなよ。その方が、ログルの答えも出る」
「ログルを試すな」
「みんな試されているんだよ。この世界ではね」
白い窓が閉じた。拠点の空気が戻ってくる。でも、どこかに神様の視線が残っている気がした。
ログルは、わたしの腕の中で小さく息を吐いた。
「勇者様。ぼくは、嘘をつきました。神様に。怖いです」
「うん。じゃあ、怖いまま一緒に行こう」
反省会テーブルの上に、新しいログが浮かんだ。
【未送信ログ:拠点保存】
【主神報告:保留】
【ログル状態:監査対象】
わたしは、その横に大きく書いた。
【ログルを初期化しない】
「勇者様、それは命令文ですか」
「願望」
「かなり強い願望ですね」
「うん。絶対の願望」
ログルは、少しだけ笑った。
【登場人物紹介】
コヨリ:ログルが神様に嘘をついたことを受け止め、一緒に怒られると決める幼女勇者。相棒を守る意思がはっきり強くなる。
ログル:主神への報告を編集し、裏側の重要情報を伏せた解析神獣。自分が神様の端末なのか、コヨリの相棒なのかで揺れながらも選び始める。
アドミニス:ログルの嘘を見抜き、初期化候補に登録する主神。優しい口調のまま、ログルの本来機能を暴露する。
未送信ログ:ログルが神様へ送らず、拠点側に保存した記録。今後の神様対立の火種。
【今回の勇者ステータス】
現在領域:【帰還門・裏九十九階】攻略中
領域状態:神域固定ダンジョン/主神監査発生
死亡回数:150回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【黒幕警戒 Lv.1】【神様発言ログ保存 Lv.1】
※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【ログル保護意思 Lv.1】
ログル状態:【主神報告:一部保留】→【監査対象】
不穏情報:【ログル本来機能:勇者死亡ログ収集端末】
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