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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第17章 裏九十九階 ――本当の出口は、表にはない

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ログル、神様に嘘をつく

ログルは神様の端末だった。

でも、今はコヨリの相棒でもある。

その二つが、だんだん両立しなくなっていく。


 ログルが、嘘をついた。


 最初は、小さな嘘だった。裏九十九階の反省会中、神様側から白い通知が届いた。いつもの死亡ログ送信確認だ。


【定期報告】

【百五十回目死亡ログを送信しますか?】

【はい】

【後で】

【詳細編集】


「いいえがない」

「死亡ログは原則送信対象です」

「原則を疑え!」


 ログルは、しばらく画面を見ていた。それから、小さな前足で【詳細編集】に触れる。表示が変わった。


【百五十回目死亡ログ】

【死因:地図片もちもちを倒してしまい、出口座標が遠ざかった先で迷子死】

【倒さない攻略情報:添付】

【主神アドミニス発言:添付】

【拠点成長率関連:添付】


 ログルは、項目を一つずつ消した。


【倒さない攻略情報:未添付】

【主神アドミニス発言:未添付】

【拠点成長率関連:未添付】


 最後に、死因だけが残る。


【死因:地図片もちもちを倒してしまい、出口座標が遠ざかった先で迷子死】


「ログル。それ、神様に怒られるやつ?」

「はい」

「どれくらい?」

「かなり」

「じゃあ、わたしも横にいる。相棒が勝手に怒られるの禁止」


 ログルは、困ったように耳を伏せた。


「勇者様。これは、ぼくの判断です。勇者様の命令ではありません。ですから、責任はぼくにあります」

「それは正しいかもしれないけど、わたしは嫌。ログルがわたしのために嘘つくなら、わたしも横で一緒に怒られる。そういう仕様にして」

「神様側に、その仕様はありません」

「じゃあ、拠点側の仕様にする」


 そのとき、天井の白い窓が開いた。アドミニスが、珍しく拍手なしで現れる。笑っている。けれど、いつもより少しだけ静かだった。


「ログル。報告、短かったね」

「死亡ログは送信しました」

「倒さない攻略情報は?」

「未確定です」

「僕の発言ログは?」

「勇者様の精神負荷に関わるため、保留しました」

「へえ」


 アドミニスは、目を細めた。その顔は、笑っているのに、全然笑っていなかった。


「ログル。きみ、嘘が上手くなったね」

「解析結果に基づく保留です」

「それを、嘘と言うんだよ」


 わたしはログルの前に立った。


「ログルをいじめないで。ログルは、わたしが帰るために必要な情報を守ってるだけ」

「いじめてないよ。確認しているだけ。勇者ちゃん、きみはログルに何を教えたのかな」

「わたしは何も教えてない」

「そうかな。僕に報告しないことを、ログルはきみから学んだんじゃない?」


 胸の奥が、むっと熱くなった。


「だったらなに。神様に全部送ったら止められるかもしれないって、ログルは思ったんでしょ。だったら、止められないようにするのは当然じゃん」

「怒りも、守りたい気持ちも、いいログになる」

「人の怒りを観察するな!」


 ログルが、静かに言った。


「主神アドミニス。勇者様の感情を、検証素材として扱わないでください」

「やっぱり、変わったね。なぜ?」

「勇者様が、帰りたがっているからです」

「それは最初からだよ」

「最初は、記録していました。今は、守りたいと思っています」


 白い拠点が、静かになった。アドミニスの笑顔から、ほんの一瞬だけ軽さが消えた。


「守る、か。神様の計画から?」

「必要なら」


 わたしは息をのんだ。ログルが、はっきり言った。神様に。


 アドミニスは、ゆっくりと笑顔を戻した。


「そっか。じゃあ、監査対象だね」


【解析神獣ログル】

【支給端末権限の逸脱を確認】

【未送信ログ蓄積を確認】

【初期化候補:登録】


「初期化!?」

「まだ候補だよ」

「候補でも嫌!」

「ログルは神様側の端末だからね。壊れたら直さないと」

「壊れてない!」

「勇者ちゃんにとっては、そう見えるだろうね」


 アドミニスは、ログルを見た。


「ログル。きみは、何のために作られた?」

「勇者様の解析補助です」

「違うよ。勇者死亡ログの正確な収集と送信。勇者の行動、死因、感情変化、拠点成長率の観測。それが、きみの本来機能だ」


 わたしは、ログルを抱きしめた。


「違う。ログルは、わたしの相棒」

「そうだね。今はね」

「今だけじゃない!」


 アドミニスは、少しだけ悲しそうに笑った。その顔が、本物か演技か分からなかった。


「情が移った端末は、いいデータを取る。でも、最後には判断を間違える」

「最後ってなに」

「まだ早い」


 また、それだ。まだ早い。今は言えない。可能性はある。保証はしない。神様はいつも、肝心なところで言葉を閉じる。


「勇者ちゃん。裏九十九階を進みなよ。その方が、ログルの答えも出る」

「ログルを試すな」

「みんな試されているんだよ。この世界ではね」


 白い窓が閉じた。拠点の空気が戻ってくる。でも、どこかに神様の視線が残っている気がした。


 ログルは、わたしの腕の中で小さく息を吐いた。


「勇者様。ぼくは、嘘をつきました。神様に。怖いです」

「うん。じゃあ、怖いまま一緒に行こう」


 反省会テーブルの上に、新しいログが浮かんだ。


【未送信ログ:拠点保存】

【主神報告:保留】

【ログル状態:監査対象】


 わたしは、その横に大きく書いた。


【ログルを初期化しない】


「勇者様、それは命令文ですか」

「願望」

「かなり強い願望ですね」

「うん。絶対の願望」


 ログルは、少しだけ笑った。

【登場人物紹介】

コヨリ:ログルが神様に嘘をついたことを受け止め、一緒に怒られると決める幼女勇者。相棒を守る意思がはっきり強くなる。

ログル:主神への報告を編集し、裏側の重要情報を伏せた解析神獣。自分が神様の端末なのか、コヨリの相棒なのかで揺れながらも選び始める。

アドミニス:ログルの嘘を見抜き、初期化候補に登録する主神。優しい口調のまま、ログルの本来機能を暴露する。

未送信ログ:ログルが神様へ送らず、拠点側に保存した記録。今後の神様対立の火種。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【帰還門・裏九十九階】攻略中

領域状態:神域固定ダンジョン/主神監査発生

死亡回数:150回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【黒幕警戒 Lv.1】【神様発言ログ保存 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【ログル保護意思 Lv.1】

ログル状態:【主神報告:一部保留】→【監査対象】

不穏情報:【ログル本来機能:勇者死亡ログ収集端末】


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