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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第17章 裏九十九階 ――本当の出口は、表にはない

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地図片は、倒さない敵が持っている

裏帰還路の地図片は三つ必要だった。

一つ目は、白紙の巻物から取れた。

二つ目は、倒してはいけない敵が持っていた。

 裏帰還路の地図片は、一つだけでは意味をなさなかった。拠点の鑑定机に置くと、白い線が一瞬だけ走ったものの、すぐにほどけて消える。ログルの額の宝石にも、半端な文字しか浮かばなかった。


【裏帰還路の地図片・一】

【接続不足】

【残り地図片:二】


「二つも足りない。ログル、これはまた宝箱?」

「一つは宝箱反応ではありません。倒してはいけない敵が所持している可能性があります」

「倒してはいけない敵ってなに。敵なのに倒しちゃだめなの? この世界、言ってることがどんどん難しくなる」

「裏側では、敵の撃破が出口座標を遠ざける場合があります。今回の目標は、敵を倒さずに地図片を落とさせることです」

「落とし物をお願いする勇者、だいぶ低姿勢だね」


 アドミニスの白い窓が、天井に開いた。


「いいね。倒さない攻略は、表の勇者物語から外れる。そこに裏側の情報が出る」

「神様、また観戦してる。わたしが死ぬところそんなに見たい?」

「死ぬところだけじゃないよ。死なないために、きみが何を選ぶかも見たい」

「言い方を少しきれいにしても、やっぱり観察されてる感じは消えない!」


 ログルは、わたしの肩に乗って小さく言った。


「勇者様。主神の発言は、必要なものだけ拠点へ保存します」

「うん。神様へは?」

「送信保留です」

「よし。怒られる時は一緒」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 裏九十九階の次の部屋は、やけに静かだった。床には白い花の模様があり、壁には小さな棚が並んでいる。棚の上に地図片らしき光が見えたが、その前に小さな敵が座っていた。


 敵は、丸い。白い。手には杖を持っている。顔はかわいい。かわいいが、こういう敵ほど信用してはいけない。


「ログル、あれは?」

「【地図片もちもち】です。攻撃すると地図片を飲み込み、さらに出口座標を遠ざけます」

「名前はかわいいのに、やることが最悪!」


 地図片もちもちは、こちらを見て、もち、と鳴いた。少しかわいい。だが、わたしはもうかわいいだけでは信用しない。ピヨラみたいな例外もいるけど、裏九十九階のかわいいは罠だ。


「倒さない。眠らせる?」

「眠り玉は有効です。ただし、眠ると地図片を抱え込む可能性があります」

「じゃあ巻物?」

「未識別の巻物があります。混乱効果の可能性もありますが、超不幸の種と同じく、裏固有のマイナス効果も候補に入ります。部屋全体に効く場合、勇者様も巻き込まれます」

「自分も巻き込むかもしれない巻物を平然と候補に入れないで! でも、倒さないなら使いどころはありそうなのが嫌!」


 部屋の入口で、わたしは所持品を広げた。未識別の杖、未識別の玉、未識別の巻物、未識別の壺、小石袋改、未識別の草、未識別の種。倒さず落とさせるなら、驚かせるか、持ち替えさせるか、罠に誘導するしかない。アイテム名が分からないせいで、作戦会議の時点からもう罠を踏んでいる気分だった。


「ログル。床の花模様、罠?」

「一部だけ罠です。踏むと、持っている物を一マス落とすようです」

「それ! 地図片もちもちに踏ませる!」

「ただし、勇者様が踏むと所持品を落とします」

「絶対踏みそう!」


 一手。


 小石を地図片もちもちの横へ投げる。もちもちが反応し、一マス横へ動いた。罠の手前。あと一歩。


「もう一個」

「勇者様、投げる角度を少し右に。左だと壁で跳ね返ります」

「了解。投げる前に見よう。投げる前に見よう」


 一手。


 小石が床を跳ねた。地図片もちもちが、もち、と鳴いて罠を踏む。手から地図片がぽろりと落ちた。


「落とした!」

「拾う前に周囲確認です。右の棚が呼吸しています」

「棚まで!?」


 わたしは棚を避け、地図片へ手を伸ばした。だが、そこで地図片もちもちが泣きそうな顔をした。罪悪感が胸に刺さる。


「ログル、あの顔、罠?」

「たぶん罠です」

「たぶんって言うな!」


 わたしが一瞬迷った時、床の花罠がもう一度光った。今度はわたしの足元。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百四十八回】

【死因:倒してはいけない敵に罪悪感を覚えて、足元の罠を踏んだ】

【評価:かわいい顔にも警戒してください】

【新規獲得:かわいい敵警戒 Lv.1】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百四十九回】

【死因:落とした地図片を拾う一手で棚ミミックに噛まれた】

【評価:拾う前に周囲確認】

【新規獲得:拾う前に周囲確認 Lv.1】


【死亡ログ】

【累計死亡回数:百五十回】

【死因:地図片もちもちを倒してしまい、出口座標が遠ざかった先で迷子死】

【評価:倒さない攻略を忘れました】

【新規獲得:倒さない判断 Lv.1】


 白い拠点で、わたしは反省会テーブルに顔を伏せた。


「百五十回......ついに百五十回......。ログル、わたし、宝箱とか階段とか床とか壁とかもちもちに負けてるんだけど、勇者として大丈夫?」

「勇者様。地図片・二は取得済みです。倒さない攻略の基礎も得ました。死亡回数は増えていますが、進行はしています」

「進行と死亡がセット販売なの、納得いかない」


 アドミニスの声が、白い拠点の天井から降ってきた。


「百五十回到達、おめでとう。いい節目だね」

「祝うな!」

「倒さない敵、かわいい敵、拾う一手の危険。どれもいいログだった。とくに罪悪感で罠を踏むのは、勇者ちゃんらしい」

「わたしの良心を死亡ログ評価するな!」


 ログルは、アドミニスの声がした天井を見上げて、静かに宝石を光らせた。


【未送信ログ:追加保存】


 神様の笑い声は、少しだけ低くなった気がした。

【登場人物紹介】

コヨリ:倒してはいけない敵から地図片を落とさせる攻略に挑む勇者。かわいい顔への罪悪感で罠を踏むあたり、良心も死因になる。

ログル:倒さない攻略、罠誘導、拾う前の周囲確認を支える解析神獣。アドミニスの発言を拠点へ保存し続けている。

アドミニス:倒さない攻略を観戦し、勇者物語から外れる選択に価値を見出す主神。コヨリの良心すらログとして評価する。

地図片もちもち:地図片を持つかわいい敵。倒すと出口座標が遠ざかるため、かわいいのに非常に面倒くさい。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【帰還門・裏九十九階】

領域状態:神域固定ダンジョン/倒さない攻略領域

死亡回数:150回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【保存したいのは命 Lv.1】【黒幕警戒 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【かわいい敵警戒 Lv.1】【拾う前に周囲確認 Lv.1】【倒さない判断 Lv.1】

獲得情報:【裏帰還路の地図片・二】

死亡回数:147回→150回


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