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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第17章 裏九十九階 ――本当の出口は、表にはない

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神様は、死亡ログを褒める

アドミニスは、優しい顔で死亡ログを褒める。

それが一番、信用できない。

ログルは、初めて報告を伏せた。

 反省会テーブルの上に、百四十七回目までの死亡ログが並んでいた。逃げる階段、壁ミミック、宝箱大部屋化、未識別床草、白紙のままの白紙巻物、保存壺ごと転倒。ひどい。まとめて見ると、わたしの人生が事故見本市みたいになっている。


「ログル。今回の裏モンスターハウス、何点?」

「攻略判断だけなら七十八点です。眠り玉、吹き飛ばしの杖、一歩下がる判断は良好でした。ただし、避けた先確認、白紙巻物の扱い、保存壺保護の優先順位に課題があります」

「急に先生! しかも点数は悪くないのに死んでる!」

「ローグライクでは、七十八点でも残り二十二点で死にます」

「採点が厳しい!」


 そこで、拠点の天井に白い丸窓が開いた。アドミニスが、にこにこしながらのぞいている。


「採点なら、僕は九十点をあげたいな」

「高い! なんで!? わたし三回死んでるんだけど!」

「複合死因として美しいから。安全確認ができた上で、別方向の未識別事故が刺さる。欲を抑えても、保存したいものが増えたことで判断が揺れる。いやあ、良いログだった」

「美しさで死因を見るな!」


 アドミニスは、白い羽根ペンを持っていた。空中に文字を書いている。たぶん、わたしの死亡ログにメモを足している。


「勇者ちゃん。死亡ログは、ただの失敗記録じゃない。きみが何を怖がり、何を欲しがり、何を守りたいかが出る。単純な毒死より、保存壺を守ろうとして死ぬログの方が、ずっと強い」

「強いってなに。何に使うの」

「今はまだ言えない」

「出た! 黒幕が一番好きなやつ!」


 ログルがテーブルに前足を置いた。


「主神アドミニス。死亡ログの用途を開示してください。勇者様の生存、帰還判断、拠点成長に関わります」

「ログル、それは権限外だよ」

「勇者様の補助に必要です」

「死んでも戻るじゃないか」

「戻ることと、死んでよいことは違います」


 空気が、少しだけ止まった。


 アドミニスの笑顔は変わらない。変わらないからこそ、変だった。


「ログル。きみ、ずいぶん勇者ちゃん寄りになったね」

「ぼくは勇者様の解析神獣です」

「神様から支給された、ね」

「......はい」

「支給品が、所有者を選ぶのは面白いな」


 ぞくっとした。アドミニスは、ログルを見ている。ペットでも、相棒でもなく、道具を見る目だった。


 わたしはログルを抱き上げた。


「ログルは物じゃない」

「そうだね。もう、ただの物ではなさそうだ」

「その言い方やめて。ログルが変わったのは、ログルがちゃんと考えてるからだよ」

「褒めてるよ」

「褒め方が怖い!」


 アドミニスは、羽根ペンで空中に丸を描いた。すると、白い文字が現れる。


【勇者コヨリ】

【死亡回数:147回】

【表九十九階:攻略済み】

【裏九十九階:接続中】

【死亡ログ密度:上昇】

【拠点成長率:想定値を超過】


「拠点成長率ってなに」

「勇者ちゃんが死んで、覚えて、帰りたいと願うほど、拠点は育つ。でもね、ただ死ねばいいわけじゃない。何も考えずに同じ死に方を繰り返しても、拠点はあまり育たない」

「......」

「初見殺し、欲張り、学習、裏切られた正解、守りたい相手、帰りたい理由。そういうものが混ざった死亡ログほど、強い」


 アドミニスは、笑った。


「きみは、とてもいい勇者だよ」

「......わたしを、何回死なせるつもりだったの」


 声が、思ったより低く出た。アドミニスは、少しだけ目を細める。


「千回、という数字には意味がある」

「意味ってなに」

「今は言えない」

「またそれ!」

「でも安心して。無駄にはしない」

「それが一番安心できない!」


 ネムさんが、隅でお茶をすすりながら言った。


「同意書は取りましたか」

「取ってないね」

「事務的には、だいぶ黒いです」

「ネムさん、もっと言って!」


 アドミニスは肩をすくめた。


「説明していたら、きみは来なかっただろう?」

「当たり前だよ!」

「だから、説明しなかった」

「黒幕の台詞じゃん!」


 自分で言って、わたしは止まった。冗談のつもりだった。でも、アドミニスは否定しなかった。ただ、いつもの軽い笑顔で、わたしを見ていた。


「勇者ちゃん。物語には、見えないところで舞台を組む役が必要なんだ」

「わたしは、舞台装置じゃない」

「うん。だから面白い」


 白い窓が閉じる直前、アドミニスはログルを見た。


「ログル。報告は正確にね。未送信が増えると、監査が動くよ」


 窓が消えた。拠点に、沈黙が残る。


「ログル。未送信、あるの?」

「......あります。送れば、勇者様が本当の出口へ進む前に止められる可能性があるからです」


 ログルの声は、いつも通り丁寧だった。でも、少しだけ震えていた。


「ぼくは、神様の端末です。でも、勇者様の相棒でもあります。その二つが、同時に成り立たなくなってきました」


 わたしはログルをぎゅっと抱えた。


「じゃあ、わたし側に来て。命令じゃないよ。お願い」


 ログルは黙った。少しして、額の宝石が小さく光る。


【未送信ログ:保存】

【送信先:拠点】

【主神報告:保留】


「それ、神様に怒られるやつ?」

「かなり」

「じゃあ、一緒に怒られよう」

「......はい」


【登場人物紹介】

コヨリ:死亡ログを褒めるアドミニスに、ついに真正面から怒る勇者。自分の命が何に使われているのか疑い始める。

ログル:主神への報告を一部伏せ、コヨリ側に寄り始めた解析神獣。神様の端末と相棒の間で揺れている。

ネム:同意書の有無を突く死亡受付担当。事務目線でアドミニスの黒さをさらっと指摘する。

アドミニス:死亡ログ密度や拠点成長率を語る主神。優しい顔で、コヨリの失敗、欲、学習、守りたい気持ちまで記録しようとする。


【今回の勇者ステータス】

現在領域:【帰還門・裏九十九階】攻略準備中

領域状態:神域固定ダンジョン/主神監査強化中

死亡回数:147回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【保存したいのは命 Lv.1】【避けた先確認 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【黒幕警戒 Lv.1】【神様発言ログ保存 Lv.1】

ログル状態:【主神報告:一部保留】

不穏情報:【死亡ログ密度】【拠点成長率】【千回の意味】


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