裏モンスターハウスだ!
アイテムが多い部屋は、だいたい罠。
階段が見える部屋も、だいたい罠。
つまり、全部罠。
裏九十九階、八回目の挑戦。わたしは黒い階段の前で所持品を確認した。
【小石袋改:拠点登録品】
【身代わりぬいぐるみ:拠点登録品】
【未識別の玉:薄青/2個】
【未識別の杖:重い木製/残り回数不明】
【未識別の壺:ふた付き/空き不明】
【未識別の巻物:白紙っぽい】
【未識別の草:帰りたい匂いがする】
【未識別の種:黒い星形】
「ログル、確認。裏で拾ったものは全部未識別。宝箱は呼吸確認。階段は踏んでくる可能性あり。壁も床も、白くてきれいなほど怪しい。あと黒い星形の種は絶対食べない。ここまで合ってる?」
「はい。かなり正確です。特に黒い星形の種への警戒は妥当です。超不幸の種、弱体の種、記憶抜けの種など、複数の危険候補があります」
「候補の名前が全部嫌! 超天使の種かもしれないって誘惑してくるところまで嫌! こういう時に限って、食べたら超不幸なんだよ!」
「勇者様のローグライクゲーマーとしての勘は、かなり頼れます」
「褒められてるのに、持ってる種が怖すぎて喜べない!」
ログルは額の宝石を光らせながら、わたしの足元を見ていた。前回、アドミニスに未送信ログを指摘されてから、ログルは少し静かだ。気にしていないふりをしている。でも、しっぽがいつもよりわたしの足に近い。
「ログル。神様に怒られたら、わたしが文句言うから」
「勇者様の文句は、神様にかなり届きます」
「届いてるのに改善されないんだよ」
「それは、運営として問題があります」
「でしょ!」
そう言うと、少しだけログルの表情がゆるんだ。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
今回の裏九十九階は、広い部屋から始まった。広い。明るい。床にはアイテムがたくさん落ちている。巻物、草、杖、壺、小石。奥には階段まである。しかも逃げていない。
わたしは入口で止まった。
「ログル。アイテムが多い。階段がある。回復薬っぽい草もある。つまり?」
「罠ですね」
「だよね! こんな親切な部屋、裏九十九階が用意するわけないもんね!」
「ただし、中央の【未識別の巻物】から地図片反応があります。見た目は白紙の巻物に近いですが、裏では白紙とは限りません」
「また重要アイテムを未識別で罠部屋に置いてる! 神様の性格が一貫して悪い!」
床のマス目が、いつもより薄い。アイテムが置かれたマスだけ、妙に光っている。部屋の中央に、一枚の巻物があった。
【未識別の巻物:白紙っぽい】
わたしは、思わず息をのんだ。
「白紙っぽい。ほしい。すごくほしい。でも、白紙っぽいだけで、実は逆識別の巻物とか、読んだら持ち物の名前がさらに消えるやつかもしれない」
「その自己分析は正しいです。勇者様の欲張り顔は、死亡ログ上かなり危険です」
「顔で死因判定しないで!」
まず小石を投げる。白紙の巻物の手前に落ちても何も起きない。もう一つ、小石を投げる。今度は巻物の隣に落ちた。
その瞬間、部屋全体が鳴った。
【裏モンスターハウスだ!】
「やっぱりいいいいいいいいいい!」
床から敵が湧いた。黒狼ログ、ミミックログ、白紙巻物喰い、保存壺荒らし、階段前の誘惑。そして、部屋の奥の階段が、そっと横へ逃げた。
「階段も逃げた! モンスターハウスで出口まで逃げるな!」
「勇者様、会議です。右の黒狼ログは二ターンで隣接。左の保存壺荒らしは次ターンで保存壺を狙います。白紙巻物喰いは中央の巻物へ向かっています」
「保存壺、空なのに荒らすの!?」
「空でも荒らしたい性質のようです」
「迷惑!」
HP15。満腹度82。手持ちは未識別の玉、未識別の杖、未識別の巻物、未識別の壺。敵は多い。でも、まだ隣接されていない。名前がないだけで、盤面が一段階いやらしく見える。
「まず未識別の玉。前回の薄青と同じなら眠り玉だけど、裏だから信用しない。中央へ投げて、煙が出たら眠り。爆発したら泣く。これで行ける?」
「はい。ただし白紙巻物喰いは範囲外です」
「じゃあ次に未識別の杖。前回と同じなら吹き飛ばし。違ったら、その時点で神様に抗議。白紙巻物喰いを巻物から離す。ただし壁で跳ね返る可能性あり。丸い敵か確認」
「今回の白紙巻物喰いは、丸いです」
「先に言ってくれるログル、えらい!」
一手。
未識別の玉が床を跳ね、中央で割れる。白い煙が広がり、黒狼ログと保存壺荒らしが眠った。
【識別完了:眠り玉・裏】
続けて未識別の杖を構える。白紙巻物喰いは、あと一歩で巻物に届く。
一手。
杖の光が飛び、白紙巻物喰いを壁際へ吹き飛ばした。
【識別完了:吹き飛ばしの杖・裏】
壁に当たった敵は、丸い体で跳ね返る。予想通りだ。だから、わたしは一歩下がる。
「回避成功!」
「はい。かなり良い一手です」
そこまでは良かった。問題は、下がった先にあった草だった。足元で草がぷち、と潰れ、緑色の煙が広がる。
「草が床にあるうううう!?」
「未識別床草です。踏むと発動するタイプです」
「草は食べるものじゃないの!?」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
【累計死亡回数:百四十五回】
【死因:白紙巻物喰いは避けたが、未識別床草を踏んだ】
【評価:避けた先も見ましょう】
【新規獲得:避けた先確認 Lv.1】
【死亡ログ】
【累計死亡回数:百四十六回】
【死因:未識別の種を確認しようとして食べたら、超不幸の種だった】
【評価:裏では、黒い星形の種を口に入れないでください】
【新規獲得:超不幸の種警戒 Lv.1】
【死亡ログ】
【累計死亡回数:百四十七回】
【死因:保存壺を守ろうとして、保存壺ごと転んだ】
【評価:保存したいのは命でした】
【新規獲得:保存したいのは命 Lv.1】
白い拠点に戻ったわたしは、保存壺を抱きしめたまま転がっていた。
「ログル。わたし、だいぶ頑張ったよね。眠り玉も杖も良かったよね。なのに、床に草が生えてるのはずるくない?」
「はい。かなりずるいです。ただ、白紙の巻物から地図片反応を一部取得できました」
「死んだけど進んだ!」
「はい。裏帰還路の地図片・一を登録しました」
天井に白い窓が開く。アドミニスが、拍手していた。
「おめでとう。三回死んで地図片一つ。裏側としては悪くない交換だよ」
「交換レートが命!」
「命は戻る。地図は残る。だから進める」
「そういう言い方が黒幕なんだよ!」
アドミニスは、笑っていた。否定はしなかった。
【登場人物紹介】
コヨリ:裏モンスターハウスで眠り玉や吹き飛ばしの杖を使い、少しずつ打開力を見せる幼女勇者。ただし避けた先の床草で死ぬ。
ログル:敵の接近ターン、アイテム位置、杖の跳ね返りまで確認する相棒。コヨリの一手一動を支える盤面係。
アドミニス:三回死んで地図片一つを得る交換を「悪くない」と言う主神。命の交換レートを軽く扱う黒幕感が強い。
裏モンスターハウス:アイテムも階段も罠になる裏側の大部屋。黒狼ログ、白紙巻物喰い、保存壺荒らしなど、死因の詰め合わせ。
【今回の勇者ステータス】
現在領域:【帰還門・裏九十九階】
領域状態:神域固定ダンジョン/裏モンスターハウス確認
死亡回数:147回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【逃げる階段警戒 Lv.1】【宝箱起動判断 Lv.1】
※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【避けた先確認 Lv.1】【超不幸の種警戒 Lv.1】【保存したいのは命 Lv.1】
獲得情報:【裏帰還路の地図片・一】
死亡回数:144回→147回
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