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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第17章 裏九十九階 ――本当の出口は、表にはない

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百三十七回目の死因は、宝箱だった

表九十九階は攻略した。

でも、出口だと思った場所には、まだ裏があった。

神様は、ずっと笑っていた。

 ――百三十七回目の死因は、宝箱だった。


 その一文を、わたしは白い拠点の床に正座したまま見上げていた。見上げていた、というより、にらんでいた。壁に浮かんだ死亡ログは、いつも通り無駄に読みやすい。しかも今回は、文字の周りに金色の枠までついている。


「ログル。なんで金色なの。わたし、宝箱に噛まれて帰ってきただけなんだけど」

「表九十九階の攻略直後に発生した死亡ログですので、記念枠になっているようです。勇者様の心情に配慮した仕様ではありません」

「配慮して! 宝箱に噛まれた記念日みたいに飾らないで!」


 ログルは、わたしの横でしっぽを丸めていた。額の宝石は、いつもより少し暗い。疲れているのか、怒られ待ちなのか、どっちにも見える。


【死亡受付】

【累計死亡回数:百三十七回】

【死因:階段横の宝箱を信用した】

【評価:表九十九階攻略後の油断】

【補足:宝箱は呼吸していました】


「階段横に置くなああああああああああ! あれは開けてくださいって意味じゃん!」

「勇者様。階段横にある宝箱ほど危険です」

「知ってる! 知ってたのに開けた! そこが一番つらいの!」


 死神ネムさんは、受付机の向こうで淡々とお茶をすすっていた。黒いパーカーの袖から出た手が、受付票に判を押す。


「死亡受付、完了です。常連様特典で、お茶のおかわりがあります」

「いらない! いや、いるけど! ぬるめで!」

「では、ぬるめで。宝箱死後は喉が荒れやすいので」

「死因ごとの接客マニュアル作らないで!」


 わたしが湯のみを受け取った瞬間、壁の死亡ログが揺れた。金色の枠の下に、新しい表示が浮かぶ。


【表九十九階:攻略済み】

【帰還因子六種:接続済み】

【帰還門表層:起動確認】

【本出口:未到達】


 わたしは、湯のみを両手で持ったまま固まった。


「攻略済みって書いてある。ログル、表九十九階はクリアしたんだよね」

「はい。表側の九十九階は攻略済みです」

「帰還因子もつながった。帰還門も起動した。じゃあ帰してよ。なんで本出口が未到達なの」

「表の出口が開いたことで、裏側の入口が見つかりました」

「出口のふりした入口やめて! そういうのはゲームでも嫌われるやつ!」


 そのとき、白い拠点の天井から拍手が聞こえた。ぱち、ぱち、ぱち。軽い拍手だった。発表会で子供が最後まで台詞を言えた時みたいな、やさしくて、明るくて、ものすごく嫌な拍手。


「おめでとう、勇者ちゃん」


 白い光が降りてくる。光の中から、白い神官服の青年が現れた。にこにこ笑っている。笑っているのに、目の奥だけが少し冷たい。


 主神アドミニス。


 わたしをこの世界に送った、説明不足の神様。死亡ログを集めている、クソ運営の総責任者。


「表九十九階、攻略おめでとう。いやあ、百三十七回目でここまで来るなんて、かなりいいペースだよ」

「いいペースってなに。神様、わたしは宝箱に噛まれて帰ってきたんだけど」

「そこも含めて、すごく勇者ちゃんらしいログだった。階段横の宝箱を開ける欲、帰還直前の判断ブレ、死後のツッコミ反応。どれも大切なデータだから」

「データって言うな! わたしは宝箱に噛まれた本人!」


 ログルが、わたしの前に一歩出た。


「主神アドミニス。現在、勇者様は死亡直後です。精神負荷が高い状態です」

「知ってるよ、ログル。だから来たんだ。百三十七回目は、区切りとしてちょうどいいからね」


 その言い方が、少しだけ変だった。待っていた、という感じがした。


「神様。もしかして、最初から知ってた? 魔王を倒しても帰れないこと。帰還門に裏側があること。わたしがここまで何回も死なないと、門が育たないこと」

「可能性は、知っていたよ」

「保証は?」

「していないね」

「最悪!」


 アドミニスは、優しい顔のまま笑った。だから、よけいに腹が立った。


「勇者ちゃん。百三十七回で怒るのは、まだ早い」

「は?」

「千回には、まだ遠いから」


 拠点の空気が、一瞬で冷えた。ログルの宝石が小さく鳴り、ネムさんの判子を持つ手が止まる。


「死は終わりじゃない。この世界では、死は記録だ。記録は蓄積され、蓄積は拠点を育てる。拠点は、やがて世界の種になる」

「世界の、種?」

「おっと。これは、まだ少し早い情報だったかな」


 アドミニスは、自分の口元に指を当てた。白い拠点の奥、帰還門建設予定地の壁がゆっくり開く。そこには、黒い階段があった。下へ続いているのに、どこか上へ向かっているようにも見える、気持ち悪い階段だった。


【新領域解放】

【帰還門・裏九十九階】

【本当の出口を確認してください】


「確認って言葉、宝箱の次くらい信用できない」

「勇者様、今回はかなり正しい警戒です」


 アドミニスは、少しずつ光に溶けていく。


「がんばってね、勇者ちゃん。きみの死亡ログは、ちゃんと見ているから」

「見るな!」

「大丈夫。無駄にはしないよ」


 その一言だけ、妙に低かった。


 わたしは黒い階段を見た。帰りたい。帰りたいのに、その道はまた下へ続いている。


「ログル。表九十九階は、終わったんだよね」

「はい。攻略済みです」

「じゃあ、次は裏?」

「はい」

「死ぬ?」

「かなり」

「神様ァ! クリア後コンテンツの殺意を下げろおおおおおおおおお!」


 叫んでも、黒い階段は消えなかった。むしろ、少しだけ近づいた気がした。

【今回の勇者ステータス】

現在領域:【帰還門・表九十九階】攻略後

領域状態:表層攻略済み/裏領域解放

死亡回数:137回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【登場人物紹介】

コヨリ:百三十七回目の宝箱死で、表九十九階攻略後の裏入口を知る幼女勇者。帰りたい気持ちは本物だが、神様への信用は宝箱より低い。

ログル:コヨリの解析神獣。表九十九階攻略済みと裏九十九階解放を説明しつつ、主神の言葉に警戒を強めている。

ネム:死亡受付担当の死神。宝箱死後のお茶まで用意する、事務対応のプロ。

アドミニス:主神。明るく祝福しながら、千回死亡と拠点世界種化を匂わせる黒幕寄りのクソ運営。


【獲得済み主要スキル】

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】【帰還門感知 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【死ぬ前に一言ツッコむ Lv.2】


※表示は主要スキルのみです。下位スキル、派生スキル、過去の細かい死因スキルは、統合済みまたは内部保持されています。


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【階段前欲張り警戒 Lv.1】

新領域解放:【帰還門・裏九十九階】

不穏情報:【千回には、まだ遠い】


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