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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第16章 表九十九階――家に帰るための道(ホームロード)

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表帰還門番ノック

九十九階です。

扉番がいます。

かわいい名前でも通してくれません。


 九十九階は、玄関だった。

 ただし、普通の玄関ではない。床は白いマス目で、壁には拠点(きょてん)の白と、家の廊下の木目と、神様会議場の嫌な光が薄く重なっている。正面には一枚の扉があり、その前に、小さな門番が立っていた。

 丸い体。真鍮色の帽子。胸には【ノック】と書かれた札。


「名前かわいい」

「表帰還門(きかんもん)番ノックです」

「かわいいなら通して」

「通すとは言っていません」


 ノックが小さな手で扉を叩いた。

 こん、こん。

 音が鳴るたび、床のマス目が一つずつずれる。名前、座標、時間、記憶、縁、扉。六つの因子が、扉の周囲を回り始めた。


帰還門(きかんもん)・表】

【最終認証】

【扉を選択してください】


 扉は一枚しかない。だが、ノックが叩くたびに、見え方が変わる。学校の昇降口。魔王城の扉。神様会議場の入口。拠点(きょてん)死因研究室(しいんけんきゅうしつ)。ミーナのパン屋。カイの村。ピヨラの巣。コヨリの家の玄関。


「一枚なのに多いじゃん!」

「帰還先候補を重ねています」

「重ねないで! 普通に一枚ずつ出して!」


 ノックが首をかしげる。

「帰りたい場所、たくさんある?」


 コヨリは言葉に詰まった。元の世界に帰りたい。家に帰りたい。それは本当だ。でも、拠点(きょてん)も消したくない。ログルも置いていきたくない。ミーナやカイやゼルドやベルやネムやリュシアやピヨラの記録も、なかったことにしたくない。

 ノックはにこりと笑う。


「迷ったら、近い扉を開けてね」

「それ罠でしょ!」


 床に、【近い扉】と書かれたマスが出る。踏めば楽そうだ。だが、罠訓練場の床と同じ匂いがする。

 コヨリは踏まない。代わりに、死因図鑑(しいんずかん)メモを開く。宝箱に噛まれた。忘却壺に名前を食われた。魔王城に一マスずれた。帰りたい草を飲みかけた。偽ログルを見た。おかえりを識別した。全部が、ここへつながっている。


「ログル、施設接続」

「はい」


 ログルの宝石が光る。死因図鑑室(しいんずかんしつ)が過去の罠を映し、鑑定机が扉の呼吸を調べ、成功ログ棚が入口停止の手順を出す。拠点厨房(きょてんちゅうぼう)はリュシアのスープの匂いを一瞬だけ送り、罠訓練場は近い扉マスを赤く照らした。


 射線訓練場がノックの腕の角度を読み、魔物休憩所が偽ピヨラ反応を弾き、シード地図室が座標を固定する。人物レイヤーは縁を色分けし、反省会テーブルは情報を一枚にまとめ、思い出ログ棚は家とこの世界の記録を両方支えた。


 死因研究室(しいんけんきゅうしつ)が神様送信用ではない本音を守り、魔王相談窓口まおうそうだんまどぐちが異議申し立ての札を置く。魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつは外部証拠として黒い線を伸ばし、一フレーム道場ひとフレームどうじょうはノックの手が動く前の空気を教え、仕様書保管棚(しようしょほかんだな)は小さい文字を拡大した。

 全部()、ここにある。

 コヨリは息を吸った。


「わたしは、天野こより」


 名前の光が固定される。

「帰る場所は、元の世界の家」


 座標の光が揺れ、魔王城の扉が薄くなる。

「帰る時間は、わたしがわたしのまま続く時間」


 秒針の音が少し静かになる。

「覚えてる。机、ゲーム機、冷蔵庫、プリン」

「プリンも?」


 ノックが不思議そうに言う。

「プリンも!」


 記憶の光が、なぜか少し強くなる。ログルが小さくうなった。

「通りましたね」

「ほら!」

「納得はしていません」

「通ったから勝ち!」


 コヨリは肩のログルに触れる。

「縁は、ここでできたものも持っていく。全部連れて行けなくても、忘れない」


 縁の光が、赤い糸ではなく、細い道になる。

 最後に、扉。

 扉は呼吸していない。舌もない。ドアノブは冷たいが、噛まない。向こうから、母の声がする。はっきりしすぎない。少し怒っていて、少し心配している。

「こより」


 コヨリは涙をこぼしそうになった。でも、まだ泣かない。

「開ける」


 ノックが小さな手を上げる。ノックするつもりだ。叩かれたら、扉が変わる。コヨリはその一フレーム前に、手を伸ばした。

 一手。

 ドアノブを回す。

 扉が開いた。

 光があふれる。

帰還門(きかんもん)・表】

【仮起動】

【表座標:接続】

【六因子:仮認証】


 玄関の匂い。夕飯の湯気。ゲーム機の起動音。冷蔵庫の低い音。そこに、確かに家があった。

 コヨリは一歩出ようとした。

 その足元で、黒い文字が浮かぶ。

【裏座標:未接続】

【帰還処理:失敗】

【裏九十九階への接続を確認】


 光が閉じる。

 扉の隙間から見えていた家が、細い線になって消えた。

 コヨリは固まった。次に、息を吸った。

「ですよねえええええええっっ!!表があるなら裏があると思ったああああああああああああ!」


 ノックは申し訳なさそうに帽子を脱いだ。

「裏も、ノックする?」

「したくない!」

「でも、帰るなら」

「行くけど! 行くけど! 神様ァ! 家に帰る道に裏面を作るなああああああああああああ!」


 拠点(きょてん)に戻ると、壁の【帰る】の下に、新しい文字が浮かんでいた。

【帰る場所は、まだ消えていない】


 コヨリはその文字を見て、今度こそ少し泣いた。

 でも、泣きながら笑った。

「見えた」

「はい」

「見えたなら、行ける」

「はい。次は、裏です」

「言い方ああああああああ!」


 拠点(きょてん)の全部の扉が、静かに光っていた。

 死んで増えた場所が、帰るため()の道を照らしていた。


【今回の勇者ステータス】


現在領域:白い拠点(きょてん)帰還門(きかんもん)建設予定地

累計死亡回数:137回

表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかい:踏破

クラス:【死因学者】/帰還者適性:強反応

帰還門(きかんもん)状態:【表】仮起動/【裏座標】未接続

帰還因子(きかんいんし):【名前】【座標】【時間】【記憶】【縁】【扉】仮認証

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:新規獲得:【表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかい踏破】/【帰還門(きかんもん)・表 仮起動】/【裏九十九階 接続確認】/帰還者適性:強反応

今回活用した拠点(きょてん)設備:【椅子】【死因メモ】【死因図鑑室(しいんずかんしつ)】【鑑定机】【成功ログ棚】【拠点厨房(きょてんちゅうぼう)】【属性検証卓】

【罠訓練場】【射線訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【人物レイヤー】【反省会テーブル】【思い出ログ棚】

帰還門(きかんもん)建設予定地】【死因研究室(しいんけんきゅうしつ)】【魔王相談窓口まおうそうだんまどぐち】【魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ】【一フレーム道場ひとフレームどうじょう】【仕様書保管棚(しようしょほかんだな)】【神様会議議事録】

今までの拠点(きょてん)設備がすべて、表帰還門(きかんもん)の最終認証に接続しました。帰還は失敗しましたが、失敗理由が【裏座標未接続】まで絞れています。

※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。

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