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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第16章 表九十九階――家に帰るための道(ホームロード)

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おかえりを識別する

九十階台です。

扉が増えます。

おかえりは、全部が本物ではありません。

 九十階に着いたとき、コヨリはもう叫ぶ元気が少し減っていた。

 満腹度は低い。帰路弁当はない。白紙の巻物は一枚だけ残してある。保存壺は小石で試したものだけ使っている。強そうな腕輪は、すべて置いてきた。悔しい。ものすごく悔しい。でも、生きている。

 九十階の部屋には、扉が六つあった。


【おかえり】

【ただいま】

【勇者帰還口】

【天野家玄関】

【魔王城玉座】

【神様おすすめ】

「最後の二つ、帰る気ないでしょ!」

「魔王城玉座は、ゼルド様から使用禁止が出ています」

「神様おすすめは?」

「最も避けるべきです」

「分かりやすい!」


 扉の向こうから、声がする。おかえり。こより。遅かったね。ごはんできてるよ。ゲームばっかりしてないで。宿題は。どれも、少しずつ本物っぽい。少しずつ違う。


 思い出ログ棚の線が、コヨリの胸元のメモへ伸びる。死因研究室(しいんけんきゅうしつ)の本名記録、魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつの外部照合、仕様書保管棚(しようしょほかんだな)の小さい文字確認。全部が同時に淡く光った。


「ログル、全部開けたら?」

「死にます」

「家の扉で死ぬの、やだなあ」

「だから識別します」


 コヨリは一つずつ確認した。【勇者帰還口】の扉は、取っ手が剣の形をしている。勇者としては正しそうだが、家には遠い。【天野家玄関】は名前がぴったりすぎる。ぴったりすぎるものは、だいたい怪しい。


 【おかえり】の扉は、古くて地味だった。少しだけ塗装がはげている。鍵穴に小さな傷がある。呼吸はしていない。声は、はっきりしない。


「本物なら、もう少しはっきり聞こえないの?」

「距離があるからこそ、不完全なのかもしれません」

「偽物は近すぎる?」

「はい」


 コヨリは【天野家玄関】に小石を投げた。扉が開き、中から大量の宿題が飛び出した。


「やっぱり!」


 次に【神様おすすめ】へ小石。扉が小さい文字の同意書を吐いた。

「おすすめしないで!」


 【おかえり】の扉だけが、何も返さない。静かだ。静かすぎて怖い。

 コヨリはドアノブに手をかけた。冷たい。呼吸していない。舌でもない。

 開ける前に、声がした。

「こより」


 今度は、少し怒っているような声だった。

 コヨリの目に、じわっと涙が浮かぶ。


「ログル」

「はい」

「怒ってる」

「本物に近い可能性があります」

「なんで怒ってると安心するんだろ」

「生活だからでは」


 コヨリは扉を開けた。

 そこに玄関はなかった。けれど、玄関の匂いがした。靴箱の革、夕飯の湯気、古いゲーム機の少し熱い匂い。冷蔵庫の方角まで、なぜか分かった。

帰還因子(きかんいんし):記憶】

【認証強化】


 だが、床が光る。扉の先は九十九階ではない。まだ九十一階へ続く階段だ。

「見せただけ!?」

「認証階層です」

「神様ァ! 試食だけで帰宅させないなああああああ!」


 九十一階から九十八階までは、認証の連続だった。名前には本名を。座標には拠点(きょてん)基準点を。時間には帰っても自分が続いている瞬間を。記憶には、怒った母の声とゲーム機の音とプリンを。縁には、ログルと、この世界で増えた名前を。扉には、呼吸しない古い玄関を。


 九十八階で、最後の選択が出た。

【帰還時に保持する記録を一つ選択してください】

「一つだけ!?」

「記録の核を選ぶ処理です」

「荷物制限より怖い!」


 候補が並ぶ。ログル。死因図鑑(しいんずかん)。思い出ログ棚。帰還因子(きかんいんし)拠点(きょてん)の壁に書いた【帰る】。冷蔵庫のプリン。

「プリンが候補にいる!」

「勇者様が仮登録したためです」

「本当に通った!」


 コヨリは笑いそうになり、泣きそうにもなった。一つだけなんて選べない。選べないから、死因研究室(しいんけんきゅうしつ)の分類棚を思い出す。神様送信用、拠点(きょてん)保存用、コヨリの本音。記録は一つに見えても、棚を分ければ残せる。

 コヨリは【拠点(きょてん)の壁に書いた帰る】を選んだ。

 ログルが少しだけ黙る。


「ぼくではないのですね」

「ログルは、そこにいるもん」

「はい」

「壁の字は、わたしが最初に帰るって決めた場所だから」


 九十九階への階段が開いた。

 その前に、小さな宝箱があった。金色のふた。可愛い見た目。第一歩からずっと知っている、最悪の可愛さ。


「ログル」

「呼吸しています」

「だよね」


 通り過ぎる。はず()だった。

 宝箱が、ぽつりと言った。

「最後の鍵、入ってるよ」


 コヨリの足が止まった。

「最後って言った?」

「勇者様」

「分かってる。分かってるけど、最後の鍵って言った」


 宝箱はもう一度、優しい声で言う。

「家に帰る鍵」


 コヨリは手を伸ばしてしまった。

 可愛い金色のふたを開けたら、中身は金貨じゃなくて歯だった。びっしり。歯医者さんが悪夢で見るやつ。

「うわっ、宝箱界の校則違反!」


 噛まれた。

 死んだ。

【死亡処理】

【死因:宝箱だった】

【累計死亡回数:137回】

死因図鑑(しいんずかん)冒頭札と一致】


 白い拠点(きょてん)で目を覚ましたコヨリは、しばらく天井を見た。

 ――百三十七回目の死因は、宝箱だった。

 頭の中で、そんな一文が勝手に札になった。ネムが台帳を見て、小さく首をかしげる。

「百三十七回目です」

「宝箱だった」

「はい」

「ずっと前に、そういう死に方をした気がする」

死因図鑑(しいんずかん)の冒頭札と一致します」


 コヨリはむくりと起き上がった。恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。だが、死因図鑑室(しいんずかんしつ)、鑑定机、罠訓練場、射線訓練場、一フレーム道場ひとフレームどうじょう魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ、思い出ログ棚、死因研究室(しいんけんきゅうしつ)、全部が静かに光っている。

「次は開けない」

「はい」

「二度見もしない」

「はい」

「神様ァ! 百三十七回目まで宝箱で殺すなああああああああ!」


 再挑戦の九十八階。宝箱は同じ声で「最後の鍵」と言った。コヨリは小石を投げた。小石は宝箱に当たり、歯が出る。コヨリは見ない。階段だけを見る。

 九十九階へ。



【今回の勇者ステータス】


現在シード:【帰還門(きかんもん)表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかい

到達階:99F入口

累計死亡回数:137回

死亡時レベル:Lv20

再挑戦後レベル:Lv21

現在HP:48/61

満腹度:18

帰還因子(きかんいんし):【名前】【座標】【時間】【記憶】【縁】【扉】認証通過

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:新規獲得:【おかえり識別 Lv.2】/【階段横宝箱警戒 Lv.1】→【階段横宝箱警戒 Lv.2】/記録選択:【拠点(きょてん)の壁に書いた帰る】

今回活用した拠点(きょてん)設備:【思い出ログ棚】【死因研究室(しいんけんきゅうしつ)】【魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ】【仕様書保管棚(しようしょほかんだな)】【罠訓練場】【死因図鑑室(しいんずかんしつ)】【一フレーム道場ひとフレームどうじょう

【今回の死亡ログ】


死亡回数:137回

死因:【宝箱だった】

補足:第1話冒頭の「――百三十七回目の死因は、宝箱だった。」へ接続する死亡ログです。宝箱は最後まで信用できません。

百三十七回目の死因を、冒頭で語られていた宝箱死に接続しました。拠点(きょてん)側の施設が全部反応し、死因がただのギャグではなく攻略情報として戻っています。

※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。

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