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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第16章 表九十九階――家に帰るための道(ホームロード)

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思い出ログ棚、偽物の家に怒る

記憶階層です。

部屋も声も似ています。

でも、本物はもう少し生活感があります。

 四十一階から、廊下の壁に写真立てが増えた。

 写真の中には、はっきり映らない人影がいる。母かもしれない。学校の友だちかもしれない。元の世界で、朝に見たはずの台所かもしれない。近づけば分かる気がして、近づくと床が薄くなる。


「記憶で釣ってくる階層、いや」

帰還因子(きかんいんし)【記憶】の認証が始まっています」

「認証方法が心に悪い!」


 四十五階に、子供部屋があった。机、ベッド、本棚、ゲーム機。かなり似ている。いや、似すぎている。コヨリは入口で止まった。


「入らないのですか」

「似すぎてる部屋は、だいたい罠」

「成長しています」

「褒める場所が悲しい」


 部屋の中で、ゲーム機が起動音を鳴らした。胸がぎゅっとなる。棚の位置は少し違う。机の横の傷も違う。けれど、音だけはやけに本物に近かった。

 ログルの宝石が淡く光る。思い出ログ棚から細い線が伸び、コヨリの手元のメモに文字が浮いた。


【照合:机の位置、不一致】

【照合:棚の高さ、不一致】

【照合:冷蔵庫のプリン、未確認】


「最後の項目!」

「勇者様が登録しました」

「大事だから!」


 部屋の奥に、冷蔵庫があった。子供部屋に冷蔵庫はない。ないはずだ。でも白い扉の向こうから、プリンの気配がする。


「ログル」

「罠です」

「まだ何も言ってない!」

「顔に書いてあります」


 コヨリは小石を投げた。冷蔵庫の扉に当たる。扉が開く。中からプリンではなく、宿題の束が雪崩のように落ちてきた。


【宿題雪崩】

「宿題いいいいいい! 異世界まで追ってくるなああああああ!」


 紙の束が床を埋める。踏むと硬直するタイプだ。罠訓練場で見た粘着床に近い。コヨリは机の脚へ小石を当て、倒れた机を橋にした。宿題の上を直接踏まない。ゲーム機の起動音はまだ鳴っている。敵を呼ぶ音だ。


 部屋の中央に、【母の声スピーカー】があった。

「こより」


 優しい声だった。優しいだけで、涙が出そうになる。けれど、本物の母なら、たぶん最初に「何してるの」とか「宿題は」とか、もっと現実的なことを言う気がした。


「ログル」

「はい」

「本物のママ、わたしを呼ぶとき、もうちょっと怒る」

「記録します」

「怒るのが本物判定なの、ちょっと悲しいけど」


 声に近づかない。コヨリは入口から、思い出ログ棚のメモを読み上げた。


「天野こより。机は窓の横。ゲーム機は棚の下。冷蔵庫は子供部屋じゃなくて台所。プリンは、たぶんわたしの」

「最後だけ根拠が弱いです」

「でも大事!」


 母の声スピーカーがぐにゃりと歪み、【忘却母音】という敵に変わった。母音だけを引き抜く敵だ。声が「あ、あ、あ」みたいに崩れ、コヨリの名前から音を奪おうとする。


 コヨリは耳をふさがない。ふさぐと両手が使えない。代わりに、ログルが死因研究室(しいんけんきゅうしつ)へ保存した本名メモを読み上げる。


「勇者様は、天野こよりです」

「うん。天野こより!」


 言葉を口にした瞬間、声の敵が少しだけ薄くなる。コヨリは小石ではなく、名前メモを床に置いた。置くのは怖い。だが、死因研究室(しいんけんきゅうしつ)に複製がある。拠点(きょてん)に残してあるから、使える。


 メモが光り、母音の敵を縛った。

 階段が現れる。

 階段へ向かう途中、ゲーム機の音が小さく鳴った。今度は敵を呼ぶ音ではなく、少しだけ懐かしい起動音だった。


 コヨリは振り返らなかった。

「帰ったら、ほんとの音を聞く」

「はい」

「あとプリンも確認する」

「それも記録しますか」

「もちろん!」



【今回の勇者ステータス】


現在シード:【帰還門(きかんもん)表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかい

到達階:50F

累計死亡回数:126回

現在レベル:Lv12

現在HP:34/42

満腹度:39

帰還因子(きかんいんし):【記憶】反応強化

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:更新:【記憶を書き留める Lv.1】→【帰還記憶保持 Lv.1】候補/【おかえり識別 Lv.1】内部強化

今回活用した拠点(きょてん)設備:【思い出ログ棚】【死因研究室(しいんけんきゅうしつ)】【死因図鑑室(しいんずかんしつ)】【罠訓練場】【反省会テーブル】

思い出ログ棚により、偽物の部屋と本物の生活感を照合できました。プリンは正式因子ではありませんが、生活感メモとして仮登録継続です。

※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。

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