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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第16章 表九十九階――家に帰るための道(ホームロード)

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縁結びモンスターハウスで、本物ログルを選べ

仲間の幻が出ます。

全員助けたくなります。

でも部屋の中央はだいたい死にます。

 五十一階の扉を開けた瞬間、部屋の空気が変わった。

 広い。広すぎる。床には赤い糸が網のように張られ、中央にはアイテムが山ほど落ちている。パン、木剣、ピヨラ用の毛布、ベルの黒い書類、ゼルドの胃薬箱、ネムの受付札、リュシアのスープカップ。全部、見覚えがある。


 そして部屋の奥から、声がした。

「勇者様」


 ログルの声だった。

 コヨリは一歩出かけて、止まった。


「ログル、ここにいるよね」

「はい。肩にいます」

「奥にもいる」

「偽物です」

「声が似てる!」

「声だけなら、かなり似ています」


 部屋の中央で、偽ログルが宝石を光らせた。その横には泣きそうなミーナの幻、木剣を差し出すカイの幻、小さく震えるピヨラの幻がいる。ゼルドの幻はなぜか玉座ごといて、ベルの幻は書類を抱えて残業している。

「情報量!」


【モンスターハウスだ!】


 懐かしい表示が出た。嫌な懐かしさだ。敵が一斉にこちらを見る。コヨリは入口から動かない。第六章で気持ちよくなって死んだ。第十三章で扉を開ける前からモンスターハウスだと学んだ。入口は命だ。

「全員助けるボタンが見えます」


 ログルが淡々と言った。

 部屋の中央に、本当にボタンがあった。

【全員助ける】

「押したい!」

「押すと囲まれます」

「名前がずるい!」


 偽ピヨラが小さく鳴いた。

「ピヨ......こわい」


 コヨリの足が震える。魔物休憩所の毛布を思い出す。ピヨラが火を怖がっていたことも、なでなでは攻撃コマンドではなかったことも、全部覚えている。

 だからこそ、偽物を見分けなければならない。

「ログル、本物のピヨラなら?」

「火の匂いに反応します。今の幻は、赤い糸にだけ反応しています」

「じゃあ偽物」

「はい」

「でもかわいい!」

「かわいさは判定材料になりません」

「なってほしい!」


 赤い糸が足元へ伸びる。コヨリは小石を投げた。糸に当たる。糸は切れず、小石を絡め取った。正面突破は無理だ。

 ベルの通信石が黒い光を放つ。

「勇者様、魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつより照合いたします。偽ベルは、残業量が現実より少のうございます」

「そこ!?」

「本物の私であれば、書類は三倍ございます」

「本物の判定が悲しい!」


 ゼルドの幻が玉座から言う。

「勇者よ、余を連れて帰るがよい」


 本物のゼルドの声が資料室から飛んだ。

「余は言わん。余を玄関に置くな」

「本物!」


 偽ログルが近づく。

「勇者様、こちらが安全です。泣いても大丈夫です」


 優しい。優しすぎる。コヨリは奥歯を噛んだ。

「違う」


 肩のログルが小さく息を止めたような気がした。

本物()のログルは、今泣くと死にますって言う」

「勇者様」

「言い方がちょっとひどくて、でも心配してる。だから本物はこっち」


 偽ログルの宝石が曇る。赤い糸が一斉に動いた。部屋の中央にある【全員助ける】ボタンが、わざわざコヨリの足元へ滑ってくる。

「押しやすくするなああああああああ!」


 押さない。代わりに、コヨリは魔物休憩所で登録したピヨラ毛布の札を投げた。札は偽ピヨラに触れ、本物でない反応を出す。次に、思い出ログ棚のミーナ札の写しを床へ置く。偽ミーナのパンは、匂いが違う。

 全員を今助けるのではなく、本物を忘れない。

 その選択で、赤い糸の一部がほどけた。

 ボスの【縁結び蜘蛛アカイト】が天井から降りる。

「帰るなら、置いていくの?」


 コヨリは小さく息を吸う。

「置いていくんじゃない。忘れないで帰る」

「連れて行けないのに?」

「それでも、忘れない」


 言ってから、コヨリは少しだけ泣きそうになった。けれど泣くのは後だ。今泣くと死ぬ。

 肩のログルが言った。

「勇者様、泣くのは後です。今泣くと死にます」

「ほら本物!」


 コヨリは笑って、小石を投げた。赤い糸が切れるのではなく、ほどける。階段が部屋の入口側に現れた。中央のアイテムは、ほとんど残っている。取らない。全員助けるボタンも押さない。

 階段へ降りる直前、偽ログルが少しだけ悲しそうな顔をした。

 コヨリは振り向かずに言った。

「本物がいるから、だいじょうぶ」



【今回の勇者ステータス】


現在シード:【帰還門(きかんもん)表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかい

到達階:61F

累計死亡回数:126回

現在レベル:Lv14

現在HP:39/47

満腹度:32

帰還因子(きかんいんし):【縁】強反応維持

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:新規獲得:【本物のログルを選ぶ Lv.1】→主要候補/更新:【縁の見分け Lv.1】内部強化

今回活用した拠点(きょてん)設備:【魔物休憩所】【思い出ログ棚】【魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ】【魔王相談窓口まおうそうだんまどぐち】【死因研究室(しいんけんきゅうしつ)

偽ログルを見分ける基準は、優しさではなく、これまで一緒に積み上げた言葉の癖でした。拠点(きょてん)の思い出ログが縁の照合に役立っています。

※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。

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