縁結びモンスターハウスで、本物ログルを選べ
仲間の幻が出ます。
全員助けたくなります。
でも部屋の中央はだいたい死にます。
五十一階の扉を開けた瞬間、部屋の空気が変わった。
広い。広すぎる。床には赤い糸が網のように張られ、中央にはアイテムが山ほど落ちている。パン、木剣、ピヨラ用の毛布、ベルの黒い書類、ゼルドの胃薬箱、ネムの受付札、リュシアのスープカップ。全部、見覚えがある。
そして部屋の奥から、声がした。
「勇者様」
ログルの声だった。
コヨリは一歩出かけて、止まった。
「ログル、ここにいるよね」
「はい。肩にいます」
「奥にもいる」
「偽物です」
「声が似てる!」
「声だけなら、かなり似ています」
部屋の中央で、偽ログルが宝石を光らせた。その横には泣きそうなミーナの幻、木剣を差し出すカイの幻、小さく震えるピヨラの幻がいる。ゼルドの幻はなぜか玉座ごといて、ベルの幻は書類を抱えて残業している。
「情報量!」
【モンスターハウスだ!】
懐かしい表示が出た。嫌な懐かしさだ。敵が一斉にこちらを見る。コヨリは入口から動かない。第六章で気持ちよくなって死んだ。第十三章で扉を開ける前からモンスターハウスだと学んだ。入口は命だ。
「全員助けるボタンが見えます」
ログルが淡々と言った。
部屋の中央に、本当にボタンがあった。
【全員助ける】
「押したい!」
「押すと囲まれます」
「名前がずるい!」
偽ピヨラが小さく鳴いた。
「ピヨ......こわい」
コヨリの足が震える。魔物休憩所の毛布を思い出す。ピヨラが火を怖がっていたことも、なでなでは攻撃コマンドではなかったことも、全部覚えている。
だからこそ、偽物を見分けなければならない。
「ログル、本物のピヨラなら?」
「火の匂いに反応します。今の幻は、赤い糸にだけ反応しています」
「じゃあ偽物」
「はい」
「でもかわいい!」
「かわいさは判定材料になりません」
「なってほしい!」
赤い糸が足元へ伸びる。コヨリは小石を投げた。糸に当たる。糸は切れず、小石を絡め取った。正面突破は無理だ。
ベルの通信石が黒い光を放つ。
「勇者様、魔王軍資料室より照合いたします。偽ベルは、残業量が現実より少のうございます」
「そこ!?」
「本物の私であれば、書類は三倍ございます」
「本物の判定が悲しい!」
ゼルドの幻が玉座から言う。
「勇者よ、余を連れて帰るがよい」
本物のゼルドの声が資料室から飛んだ。
「余は言わん。余を玄関に置くな」
「本物!」
偽ログルが近づく。
「勇者様、こちらが安全です。泣いても大丈夫です」
優しい。優しすぎる。コヨリは奥歯を噛んだ。
「違う」
肩のログルが小さく息を止めたような気がした。
「本物のログルは、今泣くと死にますって言う」
「勇者様」
「言い方がちょっとひどくて、でも心配してる。だから本物はこっち」
偽ログルの宝石が曇る。赤い糸が一斉に動いた。部屋の中央にある【全員助ける】ボタンが、わざわざコヨリの足元へ滑ってくる。
「押しやすくするなああああああああ!」
押さない。代わりに、コヨリは魔物休憩所で登録したピヨラ毛布の札を投げた。札は偽ピヨラに触れ、本物でない反応を出す。次に、思い出ログ棚のミーナ札の写しを床へ置く。偽ミーナのパンは、匂いが違う。
全員を今助けるのではなく、本物を忘れない。
その選択で、赤い糸の一部がほどけた。
ボスの【縁結び蜘蛛アカイト】が天井から降りる。
「帰るなら、置いていくの?」
コヨリは小さく息を吸う。
「置いていくんじゃない。忘れないで帰る」
「連れて行けないのに?」
「それでも、忘れない」
言ってから、コヨリは少しだけ泣きそうになった。けれど泣くのは後だ。今泣くと死ぬ。
肩のログルが言った。
「勇者様、泣くのは後です。今泣くと死にます」
「ほら本物!」
コヨリは笑って、小石を投げた。赤い糸が切れるのではなく、ほどける。階段が部屋の入口側に現れた。中央のアイテムは、ほとんど残っている。取らない。全員助けるボタンも押さない。
階段へ降りる直前、偽ログルが少しだけ悲しそうな顔をした。
コヨリは振り向かずに言った。
「本物がいるから、だいじょうぶ」
【今回の勇者ステータス】
現在シード:【帰還門・表九十九階】
到達階:61F
累計死亡回数:126回
現在レベル:Lv14
現在HP:39/47
満腹度:32
帰還因子:【縁】強反応維持
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】
今回の新規獲得・更新:新規獲得:【本物のログルを選ぶ Lv.1】→主要候補/更新:【縁の見分け Lv.1】内部強化
今回活用した拠点設備:【魔物休憩所】【思い出ログ棚】【魔王軍資料室】【魔王相談窓口】【死因研究室】
偽ログルを見分ける基準は、優しさではなく、これまで一緒に積み上げた言葉の癖でした。拠点の思い出ログが縁の照合に役立っています。
※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。
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