帰り道でお腹が減るの、すごく現実
満腹度階層です。
帰路弁当の出番です。
でも食べるタイミングを間違えると死にます。
三十二階から、床の木目が少しずつ薄くなった。廊下は長い。敵は少ない。罠も、見える範囲では少ない。だからこそ嫌だった。何も起きない階層は、満腹度を削るためにある。
コヨリの腹が、きゅう、と鳴る。
「ログル」
「はい」
「お腹が現実的」
「満腹度が四十二です」
「家に帰る道で空腹になるの、遠足帰りみたいでいや」
リュシアの帰路弁当は、持ち込み制限をぎりぎり通った。効果は強くない。一回だけ空腹パニックを遅らせる、という地味なものだ。だが表九十九階では、その地味さが命になる。
通路の先に、おにぎりが落ちていた。
【大きなおにぎり?】
疑問符がついている。疑問符は危険だ。けれど満腹度は四十を切った。コヨリは唇を噛む。
「鑑定できる?」
「近づけば匂いで候補を出せます。ただし、匂いに反応する敵がいます」
「食べ物の匂いに敵を呼ぶ仕様、性格が悪い」
一歩近づく。おにぎりから、海苔の匂いがした。ちゃんと美味しそうだ。だから怪しい。
天井から、ぺた、と何かが落ちた。
【おにぎり化ナメクジ】
「うわあああああ! 食べ物の横にそれ置くなああああ!」
ナメクジが床を這うと、拾ったアイテムが一時的におにぎりに見える。すべてがおにぎり。小石もおにぎり。巻物もおにぎり。ログルまで、ちょっと丸く見えた。
「ログル、おにぎりに見える」
「食べないでください」
「食べないよ!」
コヨリは帰路弁当を食べるか迷った。温存したい。もっと深い階で必要になるかもしれない。だが、ここで倒れたら深い階は来ない。死因図鑑室のカードが頭をよぎる。おにぎりをケチって倒れた過去。低層で死ぬ恥ずかしさ。満腹度ゼロの怖さ。
コヨリは帰路弁当を開いた。
「いただきます!」
その声に反応して、ナメクジが一マス進む。
「あっ、声!」
「発声は行動扱いです」
「ごはんの挨拶までターン制なの!?」
ナメクジが跳ねる。コヨリは弁当を食べる。満腹度が少し戻り、空腹パニックが一度だけ遅延した。だが敵は隣接。HPはまだある。小石袋を開く。おにぎりに見える小石を、感触で選ぶ。
一手。投げる。
小石はナメクジに当たり、ぺたんと壁へ貼りつけた。
「小石だった!」
「小石です」
「おにぎりに見えても小石!」
三十九階で、もう一度罠が来た。休憩所のような小部屋。中央に鍋。湯気。リュシアのスープに似ている。コヨリは一瞬、ほっとした。
「拠点厨房?」
「違います。匂いが似ていますが、鍋が呼吸しています」
「鍋もおおおおおおおお!」
鍋がふたを開け、熱い湯気を吐いた。湯気の中に、メリメルの声に似たものが混ざる。
「爆裂キノコも入れましょうか」
「入れるなああああああああ!」
叫んだ一手で、湯気が広がる。視界が白い。ナメクジのときより悪い。コヨリは一フレーム道場で覚えた、見える前の空気の震えを探す。湯気の中、階段の手すりだけが少し冷たく光っていた。
そこへ走る。
走るというより、必要な一歩だけを選ぶ。
階段に足がかかる。鍋の湯気が背中をかすめた。
「拠点のスープが恋しくなる罠、ひどい!」
「本物の厨房は拠点にあります」
「帰ったらスープ飲む!」
「はい」
四十階へ降りる直前、コヨリは残った弁当の包みを見た。もう少ししかない。でも、食べたからここまで来た。
温存しすぎて死ぬより、使って進む。
その考え方だけは、少しだけ大人っぽかった。
「ログル、今のわたし、えらい?」
「かなりえらいです」
「もっと言って」
「調子に乗ると死にます」
「本物ログルだ!」
【今回の勇者ステータス】
現在シード:【帰還門・表九十九階】
到達階:40F
累計死亡回数:126回
現在レベル:Lv10
現在HP:31/38
満腹度:48
消費:【帰路弁当】一部使用
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】
今回の新規獲得・更新:新規獲得:【帰路満腹管理 Lv.1】/更新:【強アイテムを使い惜しむな】内部連動
今回活用した拠点設備:【拠点厨房】【死因図鑑室】【鑑定机】【一フレーム道場】【反省会テーブル】
拠点厨房の帰路弁当は強化アイテムではなく、判断遅れを一度だけ防ぐ準備品です。満腹度管理は引き続き重要です。
※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。
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