地図を回すな、家も回る
座標階層です。
家の方向を探します。
地図は回してはいけません。
二十七階から、床が地図になった。
青い線が川、茶色い線が道、白い四角が建物。そこまでは分かる。問題は、コヨリが一歩動くたびに北の位置が変わることだった。
「ログル、北が逃げる」
「方角まぜカラスが近くにいます」
「北は逃げちゃだめ!」
天井近くで、黒いカラスが札をくわえて飛んでいた。【北】と書かれた札を足でつかみ、【魔王城】の上へ置く。
「家の北に魔王城を置くなあああああ!」
コヨリは小石を投げた。カラスはひょいと避ける。小石は地図床に落ち、そこに小さな穴を開けた。穴の下には黒い城が見える。
「落ちたら?」
「魔王城前へ転送される可能性があります」
「家じゃない!」
シード地図室の写しを広げる。魔王軍資料室の座標表、王都基準の古地図、思い出ログ棚に残った通学路の断片。三つを重ねると、線がずれる。どれも正しい。正しい場所が違うだけだ。
コヨリは床に小石を置いた。
「ここをゼロにする」
「拠点の壁に書いた【帰る】を基準点として仮接続します」
「うん。神様基準じゃなくて、わたし基準」
方角まぜカラスが鳴く。次の一手で札が入れ替わる。コヨリはカラスではなく、床の線を見る。線がねじれる前に、少しだけ影が濃くなる。そこへ、属性検証卓で確認した小さな風札を使う。
風が起き、【北】の札が床に落ちた。
「取る!」
「罠です」
「取りたい!」
「罠です」
「北なのに!」
北札の周囲に、うっすら歯形があった。札ミミック。もう何でもミミックだ。
コヨリは小石をぶつける。札がぱくりと噛みついた。
「北まで噛むな!」
進むほど、床の地図は生活に寄っていく。学校、角の電柱、コンビニっぽい建物、知らない路地。見覚えがありそうで、ない。一マスずれるだけで、家は別の場所になる。
三十階の手前に、地図机が置かれていた。机の上には赤いペンと、【現在地】と書かれた丸い駒。駒を正しい場所に置けば階段が開くらしい。
「現在地、ここ」
コヨリは駒を置いた。地図がぐるりと回る。駒がずれて、魔王城の玉座に乗った。
【帰還候補:魔王城玉座】
「違う!」
床が開いた。
落下の先で、ゼルドの幻影が玉座から立ち上がる。
「勇者よ、余の玉座を玄関扱いするな」
「ごめんなさいいいいいいいいい!」
白い光。
【死亡処理】
【死因:一マス違いで魔王城に帰ろうとした】
【評価:魔王城は家ではありません】
拠点で目を覚ますと、ゼルド本人が魔王軍資料室の窓から疲れた顔を出していた。
「余の椅子に帰ってくるな」
「わざとじゃない!」
再挑戦では、コヨリは現在地駒を直接置かない。まず小石を置き、地図が回る方向を見る。次に、ベルの座標表を一行だけ写し、拠点基準のゼロ点を固定する。最後に、自分の体は回さず、地図も回さず、視線だけを動かした。
「ベルさん、これで合ってる?」
「はい。勇者様の現在地は、魔王城ではございません」
「その確認、毎回して!」
地図机が静かに沈み、階段が出る。階段の横に、また小さな箱があった。今度は【方位磁石】と書いてある。
「便利そう」
「呼吸しています」
「便利そうなものほどおおおおおおおお!」
コヨリは箱を蹴らず、触らず、見なかったことにして階段を降りた。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:【帰還門・表九十九階】
到達階:31F
累計死亡回数:126回
死亡時レベル:Lv7
再挑戦後レベル:Lv8
現在HP:27/32
満腹度:71
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】
今回の新規獲得・更新:新規獲得:【拠点基準座標 Lv.1】/更新:【座標仮押さえ Lv.1】→【帰路座標確認 Lv.1】候補
今回活用した拠点設備:【シード地図室】【人物レイヤー】【魔王軍資料室】【思い出ログ棚】【属性検証卓】
【今回の死亡ログ】
死亡回数:126回
死因:【一マス違いで魔王城に帰ろうとした】
補足:魔王ゼルドから正式な苦情が届きました
座標系は魔王城基準、王都基準、神様基準、コヨリ基準が混ざるため、拠点の壁に書いた【帰る】を仮基準点にしています。
※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。
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