二十階の売店で、家の鍵に値札をつけるな
ダンジョン内のお店です。
欲しいものほど高いです。
支払い前に持ち出すと終わります。
二十階は、黒い絨毯の部屋だった。
入った瞬間、コヨリの背筋が伸びた。店だ。棚がある。値札がある。店主らしき小さな影が、にこにこしながらカウンターの奥に立っている。過去に何度も痛い目を見た匂いがした。
「ログル。店」
「はい。足元の黒い絨毯が店内領域です」
「店主さん、笑顔?」
「笑顔です」
「怖い」
「正常な反応です」
棚には、商品がきれいに並んでいた。
【帰路おにぎり】、【座標メモ】、【識別の巻物】、【保存壺らしき壺】、【階段寄せの巻物】、そして小さな鍵。
【玄関の鍵っぽい鍵】
コヨリは動かなかった。動かなかったが、心だけが棚に走った。家の鍵。玄関。帰るための道。その単語が、頭の中で手を振っている。
「ログル」
「はい」
「あれ、ほしい」
「値段をご確認ください」
値札を見る。
【九万九千九百九十九ゴールド】
「神様ァ! 家の鍵にラスボス価格つけるなあああああああああ!」
店主がにこにこしている。ベルの通信石が黒い小窓を開いた。
「勇者様、魔王軍資料室より注意です。店内商品は、持ち上げた瞬間ではなく、店外に出た瞬間に泥棒判定が確定する可能性が高うございます」
「知ってる。知ってるけど、鍵が見てくる」
「鍵は見ていません。鍵型ミミックの可能性もございます」
「それも知ってる!」
コヨリはまず、おにぎりを買った。支払い。確認。絨毯の内側で受け取る。外へ出る前に、もう一度持ち物欄を確認する。魔王相談窓口で習った店の手順だ。腕輪の棚は見ない。壺の棚も見ない。鍵は、見てしまう。
鍵の横に、小さな札があった。
【試し持ち無料】
「悪い文字!」
「触らないでください」
「分かってる!」
分かっていた。分かっていたのに、店内の床がぐにゃりと揺れた。座標ずらしの床だ。コヨリの足元が一マス動く。体は鍵の棚に寄り、肩が鍵に触れた。
【商品を手に取りました】
「いまの不可抗力!」
店主の笑顔が深くなる。
「まだ店内です。落ち着いて棚に戻してください」
「棚、どっち!?」
地図が一瞬回った。座標因子が揺れる。棚の位置が、コヨリの記憶と一マスずれる。魔王軍資料室の黒い線が足元に走り、ベルが即座に叫んだ。
「勇者様、地図を回さず、ご自身が左へ一歩です!」
「幼女を回すなって言ったのに、今度は回る!」
コヨリは鍵を棚に戻そうとした。だが店の入口から、盗賊番ゴーレムの影が見えた。まだ泥棒ではない。まだ。けれど、焦って一歩出れば終わりだ。
一手。コヨリは動かず、鍵を棚の上へ置いた。
動かなかったので敵も動かない。いや、店主の笑顔だけは少し怖くなった。あれは敵ではなく店主なので、感情はターン外なのかもしれない。嫌な仕様だ。
「戻しました!」
「商品棚復帰を確認。泥棒判定なし」
コヨリは深呼吸をした。買ったおにぎりだけを持ち、黒い絨毯の外へ出る。何も起きない。店主はまだ笑っていた。
「勝った......店で何も盗まなかった......」
「普通のことです」
「普通が難しいんだよ!」
店を出た先に、階段があった。その横に、無料と書かれた小箱がある。コヨリは見なかった。見ない。絶対に見ない。
「無料箱があります」
「言わないで!」
「呼吸しています」
「なおさら言わないで!」
階段を降りる瞬間、背後で無料箱が、ちっと舌打ちした。
「箱が舌打ちした!」
「見なくて正解でした」
「店、こわい!」
【今回の勇者ステータス】
現在シード:【帰還門・表九十九階】
到達階:21F
累計死亡回数:125回
現在レベル:Lv6
現在HP:23/28
満腹度:91
購入品:【帰路おにぎり】
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】
今回の新規獲得・更新:更新:【泥棒判定警戒 Lv.1】内部強化/【地図を回すな Lv.1】再活用/新規候補:【無料箱警戒 Lv.1】
今回活用した拠点設備:【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【シード地図室】【人物レイヤー】【反省会テーブル】
魔王軍補給庫と魔王軍売店での経験が、表九十九階の店で生きています。後書き上では店対応系スキルは統合済み扱いです。
※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。
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