戦神バルガ、難易度調整が下手すぎる
神様側の新担当が出ます。
戦闘調整担当です。
すでに嫌な予感しかしません。
鑑定机ができたので、ちょっと調子に乗っていた。いや、ほんのちょっと。小皿にのるくらい。大皿じゃないよ。
机の上には、薬草、毒草、爆発草の仮メモが並んでいる。それを見ながら、腕を組んでうなずいた。
「ふふん。これが知性。これが文明。これが宿題をちゃんとやった勇者」
「宿題をやっただけで世界を救えそうな顔をしています」
「宿題は大事なんだよ! やらないと夏休み最後の日に泣くんだよ!」
「薬草も見分けた。落とし穴も避けた。わたし、そろそろ普通の勇者っぽくない?」
「普通の勇者は、薬草採取で三回死にません」
「ログル、そういう正論は心に刺さるから小声で言って」
その時、白い壁に赤い文字が出た。
【戦闘調整担当より】
【勇者娘の成長を確認】
【次シード内、小ダンジョン訓練を開放】
「いらない!」
即答した。だって、訓練って書いてあるものほど痛い。体育の持久走と同じ。誰も幸せにならない。
赤い光の中から、筋肉だらけの男神が映った。肩が広い。腕が太い。声がでかい。存在だけで暑い。
「俺は戦神バルガ! 敵配置と訓練場を担当している!」
「帰って!」
「いい返事だ、勇者娘!」
「返事じゃない! 拒否!」
バルガは豪快に笑った。
「根性があれば勝てる!」
「小学生に根性で罠を踏ませるな!」
「死んでも鍛えればよい!」
「死ぬ前提をやめて! 保護者呼ぶよ!」
ログルの宝石が冷たく光る。
「戦神バルガ様。現在の勇者様の生存率は低めです。難易度上昇は非推奨です」
「では、罠と魔物を両方置こう!」
「人の話を聞けえええええええ!」
「安心しろ。ドラゴン三体はまだ早いので置かん!」
「まだって言った! いつか置く気だ!」
「成長したらな!」
「成長ってそういうごほうびじゃない! 誕生日にドラゴン三体もらって喜ぶ子いない!」
「勇者なら喜ぶ!」
「この勇者は泣く!」
壁に地図が表示された。ミルカ村の外れ、古い地下倉庫。そこに、拠点強化素材があるらしい。
【初心者向け訓練倉庫】
【推奨:足元確認/投げ識別/ミミック警戒】
【死亡率:そこそこ】
「そこそこってなに!? テストの点数じゃないんだよ!」
「神様基準のそこそこは、信用しない方がよいです」
「神様基準、全部こわい!」
バルガはさらに胸を張った。
「初心者向けに、通路は一本道にしておいた!」
「それは親切かも」
「逃げ場も一本道だ!」
「不親切に戻った!」
「敵も迷わん!」
「敵に親切にしないで!」
「大丈夫だ安心しろ! 初心者向けに、敵の攻撃力は控えめにした!」
「ほんと?」
「ただしその分、数で補った!」
「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!補うなああああああああああああああ!」
ログルが静かに作戦ボードへ【撤退経路確認】と書き足した。
「ログル、今すごく頼もしい」
「勇者様が叫んでいる間に、逃げ道を探す役です」
「わたし、叫ぶ担当みたいになってる!」
でも、倉庫には【古い識別札】がある。鑑定机を強化すれば、未識別品の危険をもっと減らせる。つまり、帰るための攻略に必要。
椅子に座り、腕を組んだ。
「作戦会議!」
「はい」
「今回の目標、死なない。宝箱を信じない。草を食べない。床を信じない。神様を信じない」
「最後が最も正確です」
死因図鑑室の作戦ボードに、今までの死因が並ぶ。黒狼。角ウサギ。ミミック。バネ床。落とし穴。全部、いやな思い出。でも全部、次に進むためのメモだ。
「ビルド名、考えた」
「作戦名をつける前に、安全確認を」
「もう! 言わせてよ! 名づけるとやる気出るの!」
「では、短くお願いします」
「木剣ちくちく小石ぽいぽい足元じろじろビルド!」
「長いです」
「じゃあ略して、ちくぽいじろ!」
「さらに不安になりました」
「なんで! かわいいじゃん!」
「作戦名にかわいさは不要です」
「じゃあ、死なないビルド!」
「採用します」
ログルがうなずいた。戦神バルガの映像は、まだ壁で笑っている。
【出発前確認】
【コヨリ:Lv1/HP15/15】
【クラス:勇者】
【基本スキル:一手一動】
【所持品:小石袋/思いやりの木剣/薬草メモ】
【拠点施設:椅子/死因メモ/死因図鑑室/鑑定机】
【今回のビルド:死なないビルド】
「ビルド名、地味!」
「生存目的としては最高です」
「たしかに!」
「よし! 気合いだ! 正面から行け!」
「行かない! 横から見る! 石を投げる! 怪しかったら逃げる!」
「それでこそ勇者だ!」
「勇者の意味、神様たちの間でバラバラすぎる!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次のシードへ入ると、ミルカ村の外れに、本当に古い倉庫があった。石造りの入口。湿った空気。扉の横には看板。
【初心者向け訓練倉庫】
【死亡率:そこそこ】
「帰りたい」
「まだ入っていません」
「入る前から帰りたいの!」
扉がぎい、と開く。中の暗闇で、何かの舌がぬるっと動いた。
「ログル」
「はい」
「初心者って、なに?」
「少なくとも、あれを置く場所ではありません」
「神様ァ! 初心者の意味、辞書で調べてえええええええええ!」
叫びながら、わたしは小さい手で、木剣と小石を握りしめた。
【今回の勇者ステータス】
クラス:勇者
保有スキル:【恐怖耐性 Lv.1】【黒狼の爪筋回避 Lv.1】【死ぬ前に一言ツッコむ】【足元確認 Lv.1】【小型敵警戒 Lv.1】【転び慣れ Lv.1】【ミミック警戒 Lv.1】【罠の匂い Lv.1】【未識別仮名づけ】【投げ識別 仮】
新規登場:戦神バルガ
死亡回数:3
【登場人物紹介】
・戦神バルガ:難易度調整担当です。ドラゴン三体は「まだ」置かないそうです。「まだ」という言葉が気になります。
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