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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第16章 表九十九階――家に帰るための道(ホームロード)

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一階の玄関がもう信用できない

表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかい、開始です。

一階から玄関があります。

もちろん、普通の玄関ではありません。

 表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかいの一階は、拍子抜けするほど静かだった。

 細い通路の先に、見覚えのあるような廊下が伸びている。床は木目で、壁には白いスイッチがあり、遠くに玄関らしき扉が見えた。家に似ている。けれど、家そのもの()ではない。空気にダンジョン特有の冷たさが混ざっていた。


【開始状態】

【レベル:1】

【HP:15/15】

【満腹度:100】

【持ち込み制限:適用中】

帰還因子(きかんいんし)認証キー:仮接続】


 コヨリは表示を見て、ゆっくり息を吸った。


「またLv1」

「はい」

「HP15」

「はい」

「家に帰る道なのに、初期値が実家より冷たい」

表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかいは、帰還因子(きかんいんし)の総合試験のようです」

「試験って言えば何でも許されると思うな!」


 足元にマス目が浮かぶ。いつもの一手一動ワンターン・ワンアクションだ。コヨリが動けば、敵も罠も動く。考えるだけなら、まだ世界は止まる。だが、一階の廊下の向こうで、玄関らしき扉の札がかすかに揺れた。


「ログル、呼吸してる?」

「扉本体は呼吸していません。ただし、ドアノブが舌に近い動きをしています」

「ドアノブが舌に近い動きをするなああああああああ!」


 コヨリは小石を投げた。小石は扉の一マス前に落ちる。反応なし。もう一つ、ドアノブへ。金色の丸い金具が、ぺろりと小石を舐めた。


「玄関ミミックです」

「家の入口でいきなり歯を見せるな!」


 扉の札には【おかえり】と書いてある。優しい字だ。優しいからこそ腹が立つ。コヨリは罠訓練場で見た模擬扉を思い出し、斜め前の壁に背をつけた。ドアノブが伸びる。ぬるっと通路へ舌が走り、さっきコヨリが立っていたマスを舐め取った。


「うわ、床まで食べた!」

「二ターン後に通路が狭くなります」

「玄関なのに通路を狭くするな!」


 一階でこれだ。コヨリは心の中で、帰路弁当の包みをそっと確認した。まだ食べない。食べるには早い。だが、お腹より先に心が減る。

 通路の曲がり角から、小さな敵が現れた。表札を背負ったスライムだ。ぬるぬるした体の中で、文字が浮かんでは消える。


【表札スライム】

【能力:名前欄をにじませる】


 スライムが跳ねるたび、壁の札が変わった。【天野】が【天乃】になり、【こより】が【こょり】になりかける。

「わたしの名前で遊ぶな!」


 コヨリは木剣ではなく、小石を握った。名前記入迷宮で覚えた。名前を守る敵は、正面から切るより、まず距離を取って文字の変化を見る。スライムが跳ねる前、床の影が少しだけ濃くなる。そこへ小石を投げる。


 一手。小石が当たる。

 表札スライムは壁に貼りつき、【こより】の文字を吐き出した。ログルがすぐに死因図鑑(しいんずかん)メモへ記録する。


「一階から名前と扉を混ぜてきました」

「総合試験が総合しすぎ!」


 玄関ミミックを避け、表札スライムを処理し、階段を見つけた。階段の横には小さな宝箱がある。木製で、金色のふた。可愛い。とても可愛い。

 コヨリは三秒見た。


「ログル」

「はい」

「宝箱、呼吸してる?」

「かなり元気です」

「元気な宝箱はだめ!」


 通り過ぎようとした瞬間、宝箱が自分から跳ねてきた。開けていないのに歯が見えた。コヨリは叫ぶより先に盾を出す。歯が盾を噛み、ぎりぎりと嫌な音を立てた。


「開けてないのに噛むの反則!」

表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかいの宝箱は、欲望に反応するようです」

「見ただけ! 見ただけだから!」


 宝箱はまだ噛んでいる。盾が持たない。コヨリは場所替えの杖を取り出そうとして、手を止めた。未識別ではない。だが、階段横だ。場所替え先が罠なら終わる。射線訓練場の的、罠訓練場の床、一フレーム道場ひとフレームどうじょうの札が、頭の中で同時に鳴る。

 コヨリは杖ではなく、宝箱の奥の床へ小石を投げた。小石が跳ね、薄い穴が開く。罠だ。場所替えしていたら落ちていた。


「よし。見た。今なら動ける」


 盾を宝箱の口に押し込んだまま、コヨリは一歩、階段へ寄る。宝箱が盾に夢中な一瞬、足を階段へ滑らせた。

【2Fへ】


 階段を降りた瞬間、背後で宝箱が悔しそうに歯を鳴らした。

 コヨリは膝に手をつき、ぜえぜえと息を吐く。


「一階から濃い!」

「まだ九十八階あります」

「いやああああああああああ!数えるなあああああああああ!」


【今回の勇者ステータス】


現在シード:【帰還門(きかんもん)表九十九階おもてきゅうじゅうきゅうかい

到達階:2F

累計死亡回数:124回

開始レベル:Lv1/現在レベル:Lv2

現在HP:11/18

満腹度:94

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:更新:【玄関ミミック警戒】内部強化/【名前欄見直し】内部連動/新規候補:【階段横宝箱警戒】

今回活用した拠点(きょてん)設備:【罠訓練場】【死因図鑑室(しいんずかんしつ)】【射線訓練場】【一フレーム道場ひとフレームどうじょう】【思い出ログ棚】

一階では死なずに突破しました。拠点(きょてん)で模擬扉を確認していたため、玄関ミミックと階段横宝箱を踏み止まれています。

※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。

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