六つそろっても帰れない――家に帰るための道、解放
六つの因子がそろいました。
これで帰れると思いました。
神様はまだ道を用意しています。
白い拠点へ戻った瞬間、帰還門建設予定地の床が鳴った。
中央に六つの光が浮かぶ。【名前】【座標】【時間】【記憶】【縁】【扉】。完全な宝石ではない。欠けているものも、ひびの入っているものもある。それでも、今までの反応とは違った。ばらばらだった光が、ひとつの輪になろうとしている。
コヨリは息を止めた。
「ログル」
「はい」
「六つ、そろった?」
「認証キーとしては、仮接続可能です」
「仮って言葉、嫌いになってきた」
「ぼくも少し」
反省会テーブルの上には、各ダンジョンで持ち帰った記録が並んでいる。名前記入迷宮の本名用紙。一マス違いの地図室で固定した基準点札。秒針回廊の時刻メモ。忘却の子供部屋の記憶メモ。|縁結びモンスターハウス《えんむすびモンスターハウス》の赤い糸。千枚扉の廊下で拾った古い鍵穴の欠片。
死因図鑑室の扉が開き、カードが飛び出す。今回の死因だけでも、書類、地図、時計、宿題、プリン、全員救出ボタン、ノック。並べると、帰るために死んだというより、生活に殺されている感じがする。
「ログル、今回の死因、だいぶ日常寄りじゃない?」
「日常に似せた罠が多かったためです」
「帰るための罠が日常の顔するの、ずるい」
厨房からリュシアがスープを置き、ネムが死亡受付台帳を閉じた。ベルは魔王軍資料室側で、黒い表紙のファイルを整える。ゼルドの声が、少し遠くから届いた。
「勇者よ。余の城が家に登録されなかったこと、確認した」
「そこ心配してたの!?」
「重要だ」
「魔王さんの家じゃないから安心して!」
思い出ログ棚が静かに光った。ミーナ、カイ、ピヨラ、ゼルド、ベル、ネム、リュシア、ログル。そして奥の薄い札。
【元の世界:家】
前より少しだけ、文字が濃い。
コヨリは棚に近づき、指先で触れない距離に手を止めた。
「家、まだ消えてない」
「はい」
「名前も、座標も、時間も、記憶も、縁も、扉も、ぜんぶまだ足りないけど」
「はい」
「でも、前より近い」
「はい。近いです」
帰還門建設予定地の床が、もう一度鳴る。今度はログ表示が出た。
【六因子認証キー:仮接続】
【名前:認証キー取得】
【座標:欠片反応】
【時間:欠片強化】
【記憶:微反応】
【縁:強反応】
【扉:強反応】
【帰還門・表九十九階:解放】
【通称:家に帰るための道】
【階層数:99】
コヨリは、最初の数行では泣きそうだった。最後の一行で、顔が固まった。
「九十九」
「はい」
「ログル、いま九十九って書いてある?」
「書いてあります」
「家に帰るための道だよね?」
「はい」
「階層数、九十九」
「はい」
「神様ァ! 鍵を六つ集めたあとに本編始めるなあああああああああああああ!」
叫びが拠点の壁に反響した。死因図鑑室のカードが震え、魔物休憩所のピヨラ用毛布が少し跳ね、魔王相談窓口のベルがそっと耳を押さえる。仕様書保管棚から、薄い紙が一枚落ちた。
コヨリが拾うと、小さい文字でこう書いてあった。
【表九十九階は、六因子認証キー取得後に入場可能となる帰還門表層試験です。なお、本試験の踏破は完全帰還を保証するものではありません】
コヨリは紙を握りしめた。
「保証して!」
「小さい文字に書いてあります」
「小さい文字に最悪のことを書くなあああああああああ!」
しばらく怒鳴ったあと、コヨリは椅子に座った。最初からある椅子。死んでも残った椅子。ここだけは、ずっとリセットされなかった。
「でも、道は開いたんだよね」
「はい」
「六つ、無駄じゃなかったんだよね」
「はい。全部、必要でした」
「じゃあ、行くしかない」
リュシアが帰路弁当を包み直し、ベルが魔王軍資料室の外部記録を薄い札にして渡した。ネムは死亡受付札を出そうとして、コヨリににらまれ、そっと引っ込める。ログルは肩に乗り、宝石を淡く光らせた。
帰還門建設予定地に、階段が現れる。家の廊下のようで、ダンジョンの階段のようでもある。やさしい名前をした、長すぎる道。
【帰還門・表九十九階】
【家に帰るための道】
コヨリは階段を見下ろし、深く息を吸った。
「行こう、ログル」
「はい、勇者様」
「あと、九十九階って表示した神様には、帰ってから文句言う」
「帰る前にも言うと思います」
「言う!」
コヨリは一歩目を踏み出した。
まだ拠点の床だ。
二歩目の先から、家に帰るための道が始まっていた。
【今回の勇者ステータス】
現在領域:白い拠点/帰還門建設予定地
累計死亡回数:124回
クラス:【死因学者】/帰還者適性:兆候
現在HP:15/15
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【帰還門感知 Lv.1】【シード差分確認 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】
今回の新規獲得・更新:【六因子認証キー】仮接続/【帰還門・表九十九階】解放/【家に帰るための道】入場可能
帰還因子状況:【名前:認証キー取得】【座標:欠片反応】【時間:欠片強化】【記憶:微反応】【縁:強反応】【扉:強反応】
今回活用した拠点設備:【椅子】【死因メモ】【死因図鑑室】【鑑定机】【成功ログ棚】【拠点厨房】【属性検証卓】【罠訓練場】【射線訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【人物レイヤー】【反省会テーブル】【思い出ログ棚】【帰還門建設予定地】【死因研究室】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【一フレーム道場】【仕様書保管棚】【神様会議議事録】
登場人物紹介:コヨリは六因子を集めたのに九十九階を見せられた幼女勇者。ログルは「近いです」と言えるようになった相棒。ベルは外部記録係。ゼルドは自分の城が家扱いされないか最後まで心配する魔王です。
※表示は主要スキルのみです。各因子ダンジョンで得た細かな下位スキルは、今後【帰還名確認】【帰路座標確認】【帰還記憶保持】【帰還扉確認】などへ統合予定です。
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